すでに「新顔」ではないTikTok

実際の利用こそ10代、20代の若年層を中心にされているとはいえ(2022年時点での10代のTikTok利用率は約4割)、国内での認知率が全世代で約7割にのぼる動画SNSサービス「TikTok」。

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ご存じの通り中国のByteDance社による運営で、15秒から3分までの短い動画を同アプリ一つで作成・投稿できる自己表現のツールとしての手軽さや、高精度に割り出した興味がありそうな動画が次々に再生されるエンタメツールとしての効率のよさ、次々に現れる人気のインフルエンサーたちの影響などにより、高速でZ世代の心をつかんだ。

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老人な筆者はそんな同サービスをいつまでも「最近彗星のように現れた動画系SNS」と認識していたが、確認したところサービス開始は2016年となんとすでに7年前。日本市場においてもAVEXやJASRACと提携したり、流行語大賞になったのが2018年ともう4~5年前のことなので、すでにTikTokがSNSの「新顔」であるという認識自体が間違っているのだろう。光陰矢の如し。

TikTokの利用が規制されている国あれこれ 

サービス開始から月間アクティブユーザー数10億人達成までに5年しか要さなかったなど、開始から一貫して快進撃を続けている印象のTikTokだが、一方でいくつかの国では利用が禁止されている。ブレイク当初から噂の的だったその「データハーベスティング(利用者の個人情報の『収穫』)」のアグレッシブさや、禁止国での宗教的な理由などがその主な背景だ。

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主に宗教的な道徳観を背景に、「同国のモラル規範にふさわしくない(性的・暴力的など)」コンテンツを含むことを理由に同サービスを違法にした国はアフガニスタン(2022年に違法化)やバングラデシュ(2018年)、パキスタン(2020年)など。また国家間紛争をややこしくする道具としての利用を回避するために利用禁止を決定した国は、アルメニア(2020年)、アゼルバイジャン(2020年)、台湾(2022年)の3カ国。

その中で先述のデータハーベスティングへの懸念から、国家安全保障的に問題があるとして、最早期に全国的に禁止を導入した大国はインド(2020年)。

そしてご存じの通りアメリカも、2020年に当時の大統領ドナルド・トランプ氏が警戒心をあらわにしていた当時から規制はタイトになる一方。現時点では米国50州のうち28州が、州職員や州との契約関係にあるスタッフを対象に、州支給のデバイスにおけるTikTokの利用を禁止し、いくつかの公立大学もこれに続いた。

そして昨年(2022年)年末の12月29日にはついにバイデン大統領の署名により、すべての連邦政府および政府機関のデバイスでのTikTokのダウンロード・利用を禁止する「政府デバイスによるTikTok禁止法」が成立した。

蛇足ながら、「お膝元」の中国本土では、プロバイダーや規制の問題で世界共通版のTikTokはダウンロードできない。代わりに同社が提供するTikTok中国版「Douyin(抖音)」が利用できる(香港はこちらを利用している)。

web3版TikTokの先駆け「Pixie」

そしてこれだけの規模のサービスが先行き不安となれば、「それに代わる新たなサービスはなにか?」に注目が集まるのは自然な流れ。現在、web3版のTikTokと呼ばれる新しいプラットフォームがいくつか登場し注目されている。

発信された情報を利用者が「read=読む」ことしかできなかった時代のインターネットを「web1」、利用者が発信して(write=書く)参加できるようになった時代のそれを「web2.0」として、利用者がプラットフォームの運営を世界で数社の巨大テック企業にまかせるのではなく、ガバナンスに参加する(own=所有する)ことまでを含めた分散型ウェブのあり方が「web3」。

そこで展開されるSNSは、旧来の「巨大テック企業が運営するサービスを利用し、その対価は(意識しようがしまいが)自分のデータとプライバシーで払う」というある意味受動的なユーザー像から一歩進んだ参加ができ、先述のような巨大企業によるデータハーベストの可能性に一方的に晒される不安も低いと期待されている。 

注目株の1つは、暗号通貨取引所大手KuCoinに上場し、同ベンチャーが投資もしている「Pixie」。イギリス発のブロックチェーン技術を組み込んだ初の本格的なSNSであるPixieは、「クリエイタークリプトエコノミー」を構築するプラットフォームと目されている。

旧来のSNSで作品を発表するクリエイターが得られるものは、基本的には社会的な認知と潜在的な営業効果だけだった。優れた作品が集まるほど価値が上がるのはそのプラットフォームを運営している巨大テック企業であり、創作者ではなかった。

一方で分散型SNSであるPixieでは、ユーザーは自身が作成した画像や動画などの創作物をアップすることができ、「いいね」やコメント、共有などのインタラクションを集めたコンテンツは「良質である」と認識されて、PIXと呼ばれる暗号通貨を獲得できる仕組みとなっている。そしてキャリアを構築できるよう、同プラットフォームで継続的に活動するクリエイターに有利になるように、PIXを多く所持するユーザーはそうでないユーザーよりも、同じ活動をした場合に多くのPIXを付与される。

また、不正や乱用防止のためにすべての投稿や「いいね」などの活動は「エネルギー」と呼ばれるポイントのようなものを消費するようになっており、一度それを消費すると一定期間が経過するまで再度活動できない。こうしてPIX獲得のための無差別な投稿や反応を防ぐ仕組みだ。

2022年8月時点のデイリーユーザー数は2万人、登録者数は20万人。既存プラットフォームと比較すると規模はまだ小さく感じるが、これからのSNSとしての可能性に大きな注目が集まっている。

ARに特化したXoneにも注目

Pixieのほか、ARに特化したXoneなどもweb3版TikTokとしてクリエイターたちの関心を集めいている。同サービス開始の目的は、「自分自身を表現し、自分の手で作ったもので利益を上げるための安全で包括的なスペースを確立すること」とCEOのJames Shannon氏は語る。

没入してみたい空間が並ぶXONE(同社公式より)

自身の作品を投稿し、他のユーザーからの購入や反応で仮想通貨($XONE)を稼げる点は先述のPixieと同様だが、こちらのXoneで作成できるコンテンツはメタバースの3D空間。自分で自由にデザインした3D空間を投稿して販売したり、オークションにかけたり、イベントを開いたり、利用したい企業に貸し出したりすることでトークンを獲得できる仕組みだ。

なにしろプラットフォーム上で共有されるものが「仮想世界」なのでスケールが大きいというか、世界の裏側にいるユーザーだろうが、プラットフォーム上で有名なインフルエンサーであろうが、同じ「世界」に一緒に没入する体験もできるSNSとして、ARの意義ある活用の可能性を秘めた新しいコミュニティの場としても期待されている。 

分散型SNSが常識の世代が大人になるころには、私が現在日常的に利用している第一世代のSNSなど「電子掲示板」と同じような認識をされてしまうのかもしれない。懐かしい用語を使って恐縮だが。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit