花王ハウスホールド研究所は、VHH抗体に蛍光タンパク質を組み合わせた融合タンパク質を用い、繊維に付着した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を簡便に可視化できる可能性を見いだしたことを発表した。

同製菓は、国立研究開発法人理化学研究所 脳神経科学研究センター細胞機能探索技術研究チーム、学校法人北里研究所が設置する北里大学大村智記念研究所、Epsilon Molecular Engineering(以下、EME)と共同で発見。

この成果を応用することで、新型コロナをはじめとする環境中の危険なウイルスの存在場所の詳細がわかるようになるだけでなく、ウイルスを不活化・除去できる製品の開発に役立つことが期待できるという。

なお同研究成果は、第69回日本ウイルス学会学術集会にて発表されたとのことだ。

■環境中のウイルスの簡便な可視化技術開発の検討

新型コロナウイルスが引き起こした世界的パンデミックによって、生活者のウイルス感染症への意識が高まっているが、新型コロナウイルスをはじめ、ウイルスの粒子は数十から数百nmのサイズで目に見えないことから、生活者の身近な場所にある繊維や硬質表面上のウイルスの有無や存在状態を知ることは困難。

これらのウイルスを可視化する手段の一つとして電子顕微鏡が挙げられるが、操作が煩雑なこと、また観察できる条件には制限がある。

花王は、これまでに開発した新型コロナウイルスに結合するVHH抗体と高輝度な蛍光タンパク質を連結した融合タンパク質を用いて、感染後の新型コロナウイルスの動態や感染者の診断への応用を検討してきたが、今回はさらに環境中におけるウイルスの簡便な可視化技術の検討を実施したとのことだ。

■繊維上のウイルス粒子を可視化

新型コロナウイルスをパラホルムアルデヒドで処理し感染能をなくした上で、ウイルスRNAを染色するSYTO82、Sタンパク質に結合するKikG融合VHH抗体を加えて染色ウイルス粒子を調製。

作製したウイルス粒子をポリエステル布に滴下し、繊維にウイルスを付着させ、蛍光顕微鏡で観察したところ、繊維上にウイルス由来の蛍光(SYTO82)とKikG融合VHH抗体由来の蛍光が同じ位置に検出されたという。

同結果は、繊維に付着したウイルス粒子をKikG融合VHH抗体由来の高輝度な蛍光で可視化できる可能性を示していている。

さらにウイルスが付着した布を衣料用洗剤で洗たくしたところ、KikG-VHH融合タンパク質由来の蛍光が繊維上から顕著に減少することも確認できたとのことだ。

KikG-VHH融合タンパク質由来の蛍光が繊維上から顕著に減少することも確認

今回の検討により、繊維上でもウイルスを可視化できる可能性が示され、これまで電子顕微鏡などでしか確認できなかった環境中のウイルス粒子が、高輝度な蛍光タンパク質と分子サイズが小さく高い結合性能を備えたVHH抗体による融合タンパク質によって、簡便に観察できる可能性があると花王は考えているという。

■今後の展開

ウイルスに特異的に強く結合するVHH抗体の性質と、KikG蛍光タンパク質の明るい蛍光により、繊維上でのウイルス分布を高精細に可視化。

また、ウイルスが付着した布から、洗たくによってVHH融合タンパク質由来の蛍光が減少する様子も確認できたとし、同技術を応用することで、たとえばノロウイルスのような環境中のさまざまなウイルスの存在状態をも簡便に観察できるようになる可能性が示されたとしている。

さらに、繊維上のウイルスが付着しやすい部位、また衣類以外の環境に付着したウイルスとその除去の状態を可視化することで、ウイルスを除去する技術開発に役立つことが期待できるという。

花王は今後も、VHH抗体を応用したウイルス制御技術、可視化技術の深化により、新型コロナをはじめ感染症の脅威から命を守り、安心して生活できる社会の実現をめざし、研究に取り組んでいくとのことだ。