2022年10月、ドイツで「セクシャルウェルネス」の2つの国際見本市「SxTech」「eroFame」が開催された。国内外から多くの関連企業が集まった同イベントには、セクシャルウェルネスグッズの開発・販売などを行う日本のスタートアップ、株式会社Unwind(アンワインド)も出展。想像以上の反響が得られたという。

市場調査を提供するグローバルインフォメーションの調査によれば、セクシャルウェルネスの世界市場は2022年~2026年の間に420億2,000万米ドル(約6兆円)の増加が見込まれ、2026年まで10.97%のCAGR(年平均成長率)が予測されている。

とはいえ、日本におけるセクシャルウェルネスは、「フェムテック」の一カテゴリとされる「妊活」に少し含まれる程度で存在感が薄い。Unwind 代表取締役の萩原佳音さんに、「セクシャルウェルネス」の必要性と国際見本市での反響を聞いた。

ドイツの国際見本市で得た、予想外の反響

「eroFame 2022」の会場の様子
来場した人々に向けてプロダクトのプレゼンテーションを行う萩原さん

2010年から始まった「eroFame」は、セクシャルウェルネス業界の主要なB2Bイベントで、2022年は国内外から200社を超える企業が出展したという。一方、2018年開始と歴史が浅い「SxTech」は、Sextech業界のビジネスと技術革新の促進を目的としており、業界の最新トレンドを発表・議論できる場だ。

Unwindは、自社のセクシャルウェルネスブランド「mahoro」で開発した「CBDルブリカント(潤滑剤)」を両会場で展示した。植物由来の成分だけを使った同製品は、デリケートゾーンだけでなく顔やその他の部位にも使える。パッケージも手に取りやすいデザインにした。

おしゃれなパッケージで、パット見は潤滑剤だとわからない

今回は、同じくセクシャルウェルネス業界で事業を展開する2社の日本企業と同時出展とした。FTM(Female ​to Male)やレズビアンなど、マイノリティー向けセクシャルウェルネスアイテムとしてバイブレーターを開発・販売するnopole Inc.、FTM向けに男性器エピテーゼを開発・販売する​​Prosthesisman.Stp.Japanだ。

「バイブレーターなど似たようなものが多いなか、マイノリティ向けに特化したプロダクトがめずらしかったのか、海外の方の反応は予想以上によかったですね。多くの方が立ち止まって手に取ってくれました。ドイツと日本の企業から、当社の潤滑剤を自社の通販サイトで取り扱いたいというオファーもあり、商談を進めています」(萩原さん)

業界では有名なイベントであるためか、「eroFame」にはいくつかの日本企業も出展していたという。そのため会場内で日本人と出会うことが案外多く、イベントを通じて日本企業からのオファーがあったそうだ。

性をカジュアルに学べる、注目の海外企業は?

続いて、萩原さんが会場で見つけた海外の注目企業を紹介したい。

●Sextech School(米国・ニューヨーク)

Sextech Schoolの公式ホームページより

Sextechの第一人者ともいわれ、世界的に人気を博すBryony Coleさんが2020年に創業。性にまつわる知識やSextech業界を知ることができる学校として、2022年8月からサービスを開始した。6年以上にわたる研究をベースに、複数の世界最大のSextechブランドともコラボレーションしており、業界内で注目されているようだ。

独自の性教育講座を提供する2社について、「日本のセクシャルウェルネス業界を変えていく上でヒントになりそうだ」と萩原さんは語った。

「日本では、性教育が盛り上がる一方で、いまいち一般の人の評価を得られていないと感じます。性的同意が重要だと訴えられているけれど、じゃあ、すべての性的行為に対して、いちいち許可を取る必要があるのかという反発もある。絶対に許可を取るべきだというアプローチではなく、許可を取らないとどんな事態が起こりえるかの認識を持ってもらうなど、違った側面のアプローチが求められると思っています」(萩原さん)

日本のエロカルチャーを変えたいと思った

現在27歳の萩原さんは、性風俗など表に出てこない性の文化に強い関心を持ち、2018年から「とぅるもち」と名乗って性関連グッズなどのブログ発信を始めた。当時は性暴力などを扱うジャーナリストを志望していたが、性が関わるビジネスの場に飛び込んだほうが業界理解が早いと考え、アダルト関連のライブチャットを提供する企業に就職した。

23歳のときにセクシャルウェルネス関連の発信を始め、26歳で起業した萩原さん(写真右)

「男性ユーザーに向けて、女性がパフォーマンスをするライブチャットのWebディレクターを務めていました。そこで気づいたのは、多くの男性が歪んだ性知識を持っていたこと。彼らは、AVの世界の出来事、いわゆるファンタジーを現実として捉え、女性にリクエストしていました。それに対して一部の女性が無理をして応えるなど、悪循環だと感じました」(萩原さん)

このような現実を知り、萩原さんに芽生えたのは「歪んだ性知識やエロカルチャーを変えたい」という切実な思いだった。

「正しい知識を学べば、性欲を満たしつつ、お互いがウィンウィンになれるような健全な関係性が作れるのではないかと思いました。まずは、私自身が知識を身につけようと、性の総合アドバイザーとして10年以上の実績を持つOliviAさんに指導を受けました」(萩原さん)

日本の性教育の遅れは近年よく聞かれる。正しい性知識の普及は急務といえる

2007年から活動を開始したOliviAさんは、ラブライフカウンセラー®の資格を自ら開発し、講座やラブライフカウンセリングを提供している。萩原さんは、このラブライフカウンセラー®の資格を取得し、OliviAさんのようにカウンセラーとして活動を始めた。

セクシャルウェルネスの前進に向けた「5つの柱」

しばらくは個人での発信やカウンセラー活動を続けていた萩原さんだったが、2021年7月に地元の兵庫でUnwindを創業、本格的な事業として性にまつわる課題解決に取り組む決意を固めた。

現在の事業の中心は、ラブライフカウンセリング提供と自社ブランド「mahoro」の運営だ。自社プロダクトの第1弾は、展示会に出展した「CBDルブリカント」で、クラウドファンディングを実施して約180万円を集め、製品化を実現した。支援者への発送は済んでおり、一般販売はこれからとなる。

地元兵庫の原材料を使用した自社開発の潤滑剤は、テクスチャや香りにもこだわった

社会起業家支援プログラムやピッチイベントにも多く参加している。2022年3月には、兵庫県・神戸市・UNOPS S3i Innovation Centre Japan(Kobe)の3者連携によるスタートアップ支援プログラム「SDGs CHALLENGE」に採択され、欧州視察を実現した。

Unwindでは、活動の軸となる「5つの柱」を定め、今後10年をかけて達成を目指している。

  1. コミュニティづくり
  2. 人材育成
  3. 安全なモノの選択肢を増やす
  4. 潤滑剤の普及
  5. 性のタブー感をなくす
タブー感をなくすには、ドイツの国際見本市のようにオープンに性の発信ができる場所も求められるはずだ(撮影:中嶋清楓)

「セクシャルウェルネスを事業にしていると伝えると、海外では『それって大事だよね』、日本では『それは何ですか?』という第一声が返ってきます。展示会を見ていても、セクシャルウェルネスの普及度合いは欧州と日本で大きく異なります。性の話をオープンにできるコミュニティを作り、性教育を教えられる人材を増やす。さらに、自社の潤滑剤をはじめ安全なプロダクトの選択肢を増やし、性のタブー感をなくせるよう取り組んでいきます」(萩原さん)

タブー感をなくしていくには、セクシャルウェルネスを提供する企業が結束する必要がある、と萩原さんは付け加えた。使命感を持って創業した若き起業家の挑戦は、いま始まったばかりだ。

文:小林香織
編集:岡徳之(Livit
サムネイル写真提供:中嶋清楓
写真提供:Unwind