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陸続きというだけでなく、制度的に統合された枠組みを持つ欧州では、島国の日本に比べリモートワーカーが移動しやすい環境となっている。
このリモートワーカーの流出入に大きな影響を与えるのが税金であり、欧州域内の一部の国ではリモートワーカーやデジタルノマドを誘致するために、魅力的な優遇税制が導入されはじめている。
以下では、各国でどのような優遇税制が導入されているのか、その詳細をみていこう。
所得税50%カットのギリシャ
リモートワーカー誘致で比較的早い段階で動き出したのがギリシャだ。2020年11月には、議会でリモートワーク誘致に関する法案が議論され、2021年1月には施行される流れとなった。
ギリシャが導入したのは、所得税率を50%カットするという大胆な優遇税制。対象となるのは、新たにギリシャに移住したリモートワーカーで、この優遇税制は今後7年間有効だと報じられている。リモートワーカーの定義には、企業に属する社員だけでなく、自営業も含まれるようだ。
たとえば、ギリシャでは4万1ユーロを超える所得に対しては、最大45%の所得税率が課せられるが、これが22.5%に下がることになる。
ギリシャの所得税は累進制となっており、通常0〜2万ユーロは22%、2万1〜3万ユーロは29%、3万1〜4万ユーロは37%の税率が課せられる。
この優遇税制を受けるには、ギリシャに移転する前の過去6年間のうち5年間は、税務上の居住地がギリシャでないこと、移転前の居住地がEU/EEA(欧州経済領域)であり、かつギリシャと租税上の合意を持つ国、またギリシャに2年以上居住する意思を表明することなどが条件となっており、主に欧州圏のリモートワーカー/デジタルノマドの誘致を狙ったものであることが分かる。
またギリシャは2021年9月に、新しい「デジタルノマドビザ」制度を導入し、非EU国のリモートワーカー/デジタルノマド誘致にも動き出している。
ジョージアの誘致策
トルコとロシアに挟まれたジョージアも魅力的な優遇策を導入したとして注目される国の1つとなっている。
それはリモートワーカー向けのビザプログラム「Remotely From Georgia」。これは、銀行預金額が2万4000ドル以上、月収が2000ドル以上ある海外労働者を対象に2020年夏頃に導入されたプログラムで、フリーランサー、フルタイム社員、個人事業主の流入を狙って開始された。
183日以上ジョージアに滞在した場合、ジョージア在住者とみなされ同国の所得税率が課せられることになる。
ジョージアの所得税率は最大で20%と他国に比べ低いこと、また外国人がジョージアで企業登記(Small Business Status取得)すると1%にまで税率が下がることなどが魅力となっているようだ。
マルタとキプロスもリモートワーカー誘致へ
地中海に浮かぶ人気リゾート地マルタもリモートワーカーやデジタルノマドを誘致するプログラムを始めている。
このプログラムは「Nomad Residence Permit」と呼ばれ、海外の企業に属していても、マルタに住みリモートで働くことを許可するもの。滞在期間は1年だが、最長3年の更新ができるようだ。プログラムへの申請条件は、年収が3万6000ドル以上。
所得税はリモートワーカーが母国で課税する場合、マルタで支払う額はゼロとなる。
このほか地中海にあるキプロスでも2022年から非EUのデジタルノマド誘致を促進するデジタルノマドビザ制度が導入された。申請条件には、社員の場合、所属する企業がキプロス国外にあること、自営業者の場合、クライアントがキプロス国外に拠点を持っていることなどが含まれる。また、月の純収益が3500ユーロ以上でかつ安定的であることが求められる。
欧州各国がこぞってリモートワーカー/デジタルノマドの誘致に向け、さまざまな優遇策を打ち出しているが、これが有害な競争に発展しかねないとする懸念の声もあり、今後の展開が注視されるところだ。
文:細谷 元(Livit)