ワークマン既存店519店とWORKMAN Plus 418店、さらに話題の「#ワークマン女子」 22店の計959店を全国展開するワークマンは今年2月に「価格据え置き宣言」を出して、来年2月末までの1年間PB製品の価格を全面的に据え置くことにしたという。

今回は全売上の65%を占めるPBの主力継続製品の96.3%の価格を2023年8月まで据え置くことにすると発表した。

同社の今年1月から8月末までの売上ランキングで上位300PB製品(通年と春夏製品)のうち30製品は製品寿命により廃版にするが、260製品は価格を維持。ただし、10製品だけは万策が尽き苦渋の思いで値上げするとしている。

今年1月から8月末までの売上ベスト300製品の今後の状況は下記の通り。期間中、上位300のPB製品は全PB売上の8割を占めているとのことだ。

最近の円安・原料高・輸送費高騰の三重苦の影響で、食品・ガソリン・光熱費の大幅な値上げが家計を直撃している。作業服業界やアパレルでは今年の秋冬製品から本格的な価格改定(作業服業界は10月から10~15%の一斉値上げ)が始まる。

この中で、ワークマンの通年品と秋冬PB製品は「価格据え置き宣言」で競争優位が生まれているという。すでに秋冬物商戦は好スタートをきっており、さらに、今回の来年8月までの価格据え置き宣言の延長により、来期の春夏物PB製品も「売れて当たりまえ」状態になる見込みであるとのことだ。

ワークマンのパーパス(存在意義)は「機能と価格に、新基準」。常識外の高機能で低価格な製品を次々に生み出して、消費者に高価な機能性ウェアのイメージを変えてもらうことを願っているという。

ワークマンは価格に強い「こだわり」を持つ企業であるため、三重苦の外部環境だけでは値上げをしないという。コストアップや為替変動分を売価に上乗せすることは誰でもできる。ワークマンらしさを出すために究極のコストダウンを行い、ギリギリのところで踏み留まったとしている。聖域のないコストカットであったが、加盟店収入や社員の給与にはいっさい手をつけていないとのことだ。

今期のPB製品の半分くらいは前期からの為替予約があり、「やせ我慢」(今期決算見通しは増収減益)で価格を「完全」凍結。

今回は状況がさらに悪化する中で、来期の8月末まで売上上位PB製品の96.3%が値上げを回避できたという。なお、同社売上の35%を占める国内メーカーブランド製品は既に価格改定が始まっているとのことだ。

ワークマンはノルマや期限がなく、基本的に頑張らない会社。上からの指示ではなく、自らが何をすべきか考えて動く「自走型社員」を理想としているという。昨今の値上げラッシュで、利用客の可処分所得が減少している。

輸入PB品ばかりの同社としては未曽有の逆風下にある。今回は価格据え置きに向けて社員が一斉に走り、最近では例のないほど頑張ったとのことだ。結果、価格据え置きを来年8月まで延長することができたという。

価格据え置きができた理由は、効果の大きい順に下記:

①【素材の共通化】
同社独自開発の高機能素材を横展開して、1素材当たりの生産量を増やす

・素材の生産量を2倍にすると製造コストが2割下がった例もあり、今回の価格据え置きの切り札になった
・現在ヒット製品の半数が独自素材を搭載しているため、素材の横展開はヒット製品を増やす契機にもなる
・テントや寝袋は衣料品の数倍の素材を使うため、素材のコストダウン用としても貴重
・同社の代表的な独自素材は、搭載製品の売上順に以下:
1位 「FUSION DOWN」  ダウンの保温、吸湿、発熱力
2位 「INAREM」      耐水圧と透湿度が異常に高い
3位 「BounceTECH」    高クッションの高反発ソール
4位 「REPAIR-TECH®」   小さい穴なら自動修復
5位 「FLAME-TECH®」   飛び火による「穴あき」に強い
参考)上記を含めて同社には40種類もの独自開発素材があり、横展開の加速でコストダウンを計る

②【閑散期生産】
海外工場での製造コストの削減

・衣料品は季節性があり、しかも短納期志向のため繁忙期に生産が集中しやすい
・同社は海外工場の閑散期に合わせて早めに注文を出して、閑散期だけで生産できるようにしている
・製造コストは海外工場原価の3割を占めるが、閑散期に生産すると2割の削減が可能

③【1製品当たりの生産量の増加】
類似したPB製品のアイテム数を減らして、人気製品に集約

・用途が重複してカニバリを起こす製品を廃版にする
・1アイテムに集約すると生産量が増えてコストダウンができる
・アイテム数を減らすと在庫回転率が上がって経営効率が良くなる(売上的には多少マイナス要因)

④【小さなコストダウンの積み重ね】
製品開発部門以外の社内全部門で実行

・生産計画を精緻化してコンテナの積載効率を高める(限界まで詰め込む)
・商品タグの大きさを半分にして、4割のコストダウンを実現
・3Dモデリングツールを使い、製品サンプルを手作りせずに3D画像だけで製品を評価
・社内の照明をこまめに消して、冷房温度も高めに設定

今回の価格据え置きの延長で競争優位がさらに顕著になるという。同社は「100年の競争優位」(作業服は42年優位を維持)をめざす企業であるため、三重苦に負けていられないという。

ただ物価高騰で消費マインド自体が冷えている中、「守り」の価格据え置きだけでは自慢にならず販売数量も増えない。価格凍結に加えて、同社のもう一つの特徴である他社にない「攻めの」機能性と独自素材で新たな消費を喚起するとのことだ。

参考)同社が誇れる一例としては同社の看板製品である防水防寒AEGISレインスーツの4種の新製品。旧製品は上下組で6,800円であったが、透湿性能を4倍にした上で4,900円に大幅値下げしているという。

なお、円安・原料高・海上運賃の高騰などが同時に且つ極端に進行する場合には、来年8月前でも値上げに踏み切らざるを得ないことも想定される。ただ、収益面で壊滅的なダメージを受けない範囲で主力PB製品の価格据え置きを堅持していくとのことだ。