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GAFAMの本国である米国では、ビッグテックに対する逆風が強まっている。
最近注目されたのは、テキサス州で導入が準備されていた州法案。この法案では、ソーシャルメディアプラットフォームがユーザーの投稿を実質的に検閲できなくなくもので、偽情報の拡散など様々な問題が起こることが指摘されていた。同法案は現在、米国最高裁が暫定的に停止する形となっている。
ビッグテックの頭痛の種はこれだけではない。現在、米国議会でGAFAMをターゲットとする連邦法案が提出され、その議論の行方に注目が集まっている。
Protocolは、テック企業の業界団体がテレビ広告などに2300万ドル(約31億円)以上を投じ、この法案阻止のための「総力戦」をしかけていると報じている。
以下では、このテック規制連邦法案に焦点を当て、誰がどのような目的で発案したのか、また同法案をめぐり、現在どのような動きがあるのか、最新動向をお伝えしたい。
民主党議員発案のテック規制法
現在米国メディアがこぞって報道しているのが「The American Innovation and Choice Online Act, S.2992(117)」と呼ばれる法案に関する動向だ。
米民主党上院議員エイミー・クロブシャー氏が2021年10月18日に提出。現在、上院での議題になるかどうかが注目されている。
この法案が法律になるには、まず上院で議論・可決された後、下院での議論・可決を経て、大統領が署名、その後発効する流れとなる。
この法案は、GAFAMなどのテック大手企業を対象にしたもので、グーグルやアマゾンなどが、自社プラットフォームで自社プロダクトを優先的に扱うことを禁止することなどが盛り込まれている。
バイデン民主党政権は、「反トラスト(antitrust)」を中心アジェンダの1つとして掲げており、それに沿って同法案が提出された格好だ。
ワシントン・ポストは、このテック規制法案の目的が巨大テック企業の市場支配力を弱めることであると指摘している。
これに対してテック企業により構成される業界団体「Computer & Communications Industry Association(CCIA)」は、同法案への反対意見をテレビ広告で展開し、法案廃止を訴えている。
Protocolの調べによると、CCIAがテック規制法案や類似規制に対する反対運動に費やした広告費用はこれまでに2300万ドル(約31億円)に上り、それらの広告は主にニューハンプシャーやアリゾナなど民主党議員が中間選挙で苦戦を強いられている州で展開されているという。
中間選挙懸念し、民主党から離反者も
テック企業による上記の広告戦略は、一定の効果を生み出しているようだ。
米政治メディアPoliticoによると、クロブシャー上院議員は、テック規制法案を今夏までに上院で可決したい考えだが、民主党内部から中間選挙の影響を懸念し、このタイミングにおける同法案の議論・採決に疑問を呈する議員が出てきているという。
特に、ニューハンプシャーやアリゾナなど民主党が苦戦する州の議員は、このままクロブシャー氏が推す法案に焦点を当てたままでは、有権者の賛同を得ることができず、選挙で負けてしまう可能性を懸念している。有権者の注目を集めるには、インフレや高コストの問題に焦点を当てるべきとの声が懸念する議員からあがっている。
2022年5月にアリゾナ、ジョージア、ニューハンプシャー、ネバダの4州で実施された有権者の意識調査(サンプル1200人)では、テック規制法案に賛成の割合は76%と半数以上となったが、Politicoのまとめでは他の調査において、テック規制には賛成するものの、その優先順位は低く、インフレや失業問題が優先される傾向が明らかになっている。
ちなみに上記4州で実施された調査では、共和党支持が40%であるのに対し、民主党支持は38%と共和党が民主党を2ポイントリードする状況だ。
中間選挙が危うい民主党の状況、CNNは下院で共和党の圧倒的勝利を予想
米国中間選挙では、アリゾナやニューハンプシャーだけでなく全体的に共和党優位の状況となっており、他州の議員によるテック規制法案からの離脱も増えてくるかもしれない。
Politicoによる2022年米中間選挙予想(5月28日時点)では、上院・下院ともに共和党が勝利する可能性が高いとの予想が展開され、特に下院では圧倒的勝利の可能性が見込まれている。
またCNNのシニアデータレポーター、ハリー・エンテン氏も中間選挙予想で、特に下院で共和党の圧倒的勝利を予想。同氏は、共和党がこの80年で最も良いポジションに位置しており、現在民主党が10議席でリードする下院(全435議席)だが、中間選挙で共和党が236〜241議席を獲得、一方民主党は194〜199議席と大幅に議席を減らすと予想している。
最近の米国経済動向を見ると、インフレや失業問題が優先課題であるのは明白。テック規制法案をめぐる動きは、中間選挙動向とともに大きく動くかもしれない。
文:細谷元(Livit)