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企業のウェブサイト運用が当たり前になった今、プログラミングスキルを持たないスタッフがサイトの構築や管理に携わるケースも増えている。
WordPressをはじめとした、サイトデザインとコンテンツを一括して管理する「CMS(Contents Management System)」が普及して久しいが、最近はその「プレビュー機能」を持たない「ヘッドレスCMS」が開発の主流になってきているという。
中でも、オーストリアのスタートアップStoryblokによる開発用プラットフォームは「革新的なヘッドレスCMS」として話題となっている。
「ウェブ開発の民主化」に挑むスタートアップStoryblok
2017年にオーストリア・リンツで創業したStoryblokは、2022年5月の資金調達ラウンド・シリーズBで4,700万ドルを調達。前年2月のシリーズAでは850万ドルを調達しており、これまでの累計調達額は5,800ドルに上る。いずれのラウンドもUAEの政府系ファンドMubadala Capitalが主導した。
Storyblokによると、現在同社のシステムを導入している企業は世界130カ国に約7万7,000社あり、ネットフリックス、アディダス、ピザハット、ルノーなどグローバル企業も名を連ねる。また約12万件のプロジェクトで使用されており、その数は増え続けている。
マルチデバイス化によって加速する「ヘッドレスCMS」の波
Storyblokが開発・提供しているのは「ヘッドレスCMS」という閲覧・表示機能のないウェブコンテンツ作成ツールである。現在、エンタープライズ用ウェブ開発シーンにおいて、このヘッドレスCMSの利用は右肩上がりに増えている。
従来のCMSには、プレビュー表示の「フロントエンド」とコンテンツを入稿・管理する「バックエンド」が備わっていたが、ヘッドレスCMS(ヘッド=ビュー機能のこと)ではフロントエンドが切り離され、バックエンド機能のみを残している。
ヘッドレスCMSが広まった理由の一つは「マルチデバイス化」である。従来のCMSは両者を一括して作成・管理できたことが強みだったが、現在はデバイスやアクセスポイントの多様化が進行。1つのコンテンツをPC、スマートフォン、スマートウォッチ、サイネージなど様々なプラットフォームに最適化する必要があり、従来のCMSでは対応が難しくなっている。
また、企業のサイトはEC管理、(一部ページの)頻回な更新、複数人・複数カ所での同時作業など、規模が大きくなり、より複雑に。ヘッドレスCMSはマルチデバイスに対応できる汎用性のあるデータを作成し、バックエンドを独立させることによって迅速かつ効率的な作業を行うことができるソリューションとして重宝されている。
現在、スタートアップを中心に様々なヘッドレスCMSプラットフォームがリリースされ、多数の企業が活用している。
「技術者でないと運用・管理が難しい」という課題も
一方で、ヘッドレスCMSは「エンジニア以外は使いづらい」という難点も抱えている。表示機能がないため、コンテンツのプレビュー確認は外部に頼ることになる。外部インターフェースへの出力の際にはAPIを使用することになり、当然それに関する知識が必要となる。
そこに登場したのがStoryblokである。Storyblokは、ヘッドレスCMSでは世界初の「ビジュアルエディタ」を搭載。編集画面に入力した内容がそのまま実際の見え方となるため、直感的な操作が可能となる。また、マニュアルやチュートリアルなどの「ヘルプ」も豊富に取り揃えており、知識がなくても安心できるサポート環境も用意している。
Storyblokの共同創業者兼CEOであるDominik AngererはTechCrunchのインタビューで「多くのヘッドレスCMSは既存システムへの統合が容易である一方、日常的に使用するマーケッターや編集者たちは操作が難しいと感じている」と述べている。その上で、「問題解決のために導入したヘッドレスシステムが、時間とお金の無駄遣いになる可能性」を指摘した。
誰もが気軽にウェブ構築できるStolyblokは「ウェブ開発の民主化」を促進し、エンジニアとビジネスユーザー双方のニーズを満たす、革新的なツールとして注目を浴びている。
ちなみに、Storyblokはオフィスを持たない。現在170名いるスタッフたちはすべて「リモート勤務」であり、40カ国以上から「作業場」にアクセスしている。2021年初めはたった25名だったが、わずか1年で7倍近く増員。新たな資金調達も達成した今、さらなる成長とサービスの進化を期待したい。
有力なヘッドレスCMSプラットフォーマー
Storyblok以外にもイノベーティブなCMSプラットフォーマーは複数あり、中にはユニコーン企業も存在する。ここからは、その一部を紹介したい。
評価額30億ドルのユニコーン:Contentful
2013年に創業したドイツのContentfulはヘッドレスCMSの草分け的存在であり、最も有名なプラットフォーマーの一つである。TechCrunchによると、2021年7月のシリーズFラウンドで1億7,500万ドルの調達に成功し、時価総額は30億ドルを超えた。
ContentfulはAPIベースのクラウドサービスであり、ShopifyやWeWorkも導入している。「処理速度の最適化」を一番の標榜にしており、画像の自動リサイズやファイル形式変換機能、HTMLなどの言語を簡略化した「markdown記法」などを備えている。
柔軟なカスタマイズが可能なプロ向けCMS:Strapi
Strapiはクラウドではなく、Node.jsで動作するヘッドレスCMS。2016年に創業したフランスのスタートアップが開発した。
自由で柔軟なカスタマイズや拡張性の高さが支持されるが、操作の難易度が高く、技術者向けのシステムと言える。NASA、ウォルマート、トヨタ自動車、アクセンチュアなどが採用している。
多彩なフレームワークを選択できる:Prismic
パリとサンフラシスコに拠点を置くスタートアップPrismicによるヘッドレスCMSで、Next.js、Nuxt.js、Gatsby.jsなど様々なフレームワークを選べることが特徴。また、ユーザー1名までの「コミュニティプラン」は無料での利用が可能。100GBまで使え、ほとんどの機能を無料で使うことができる。
同社は2021年5月のシリーズAラウンドで2000万ドルの資金調達をしている。
大手企業向けのシステム管理ツール:ContentStack
2018年、アメリカ人女性Neha Sampat氏が設立したCMSスタートアップ。VMwareなどIT大手でEコマースやクラウド関連事業のマーケティングに携わってきた経験より、「大手企業のビジネスをサポートすること」を目標にしている。
2021年にはシリーズBで5,750万ドルの資金調達を達成し、これまでの合計調達額は8,900万ドル。マクドナルド、三菱電機、シェル石油などで導入され、今後はアジア展開も視野にいれている。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)
- ヘッドレスCMS
- サイトデザインとコンテンツを一括して管理する「CMS(Contents Management System)」のなかでも、フロントエンドが切り離され、バックエンド機能のみを残しているCMSのこと。ヘッドレスの「ヘッド」はビュー機能のことを指しており、閲覧・表示機能がない。