長引く新型コロナウイルスの影響やウクライナ情勢で、世界的な原油やガスへの依存を減らそうとする動きが加速している。特にアメリカでは、需要の変化をうかがわせるGoogle検索の分析結果があらわになり、今後の生活の様々な側面が電化されていく可能性が見えてきた。

電気自動車に住宅の電化、キッチン周りの電化など、なかでもキッチンではガスが一般的なアメリカでも、屋内の空気汚染問題が広く知られるようになったことが、電気へのシフトの動機のようだ。

さらには、移動手段として電気自動車だけでなく、電動バイクへの関心も急速に高まっている。Google検索から垣間見えたアメリカの電化事情とその背景は何か。

歴史的検索数をヒットしたキーワード「電気自動車」

アメリカで今年3月、ガスの料金が歴史的高値を付けたのと同時に、Google検索で「電気自動車」が歴史的検索数を記録したと同社が発表し、話題になった。また「how much does it cost to charge an electric car(電気自動車の充電にいくらかかるか)」の検索が爆発的に増加。この限定的な質問の検索数は、前の月(2月)と比較して、400%アップの伸びと大躍進した。

これは、第一に燃料の高騰に対する人々のリアクションがダイレクトに反映されたものであるとしつつ、二次的要因は様々だと指摘されている。その一つが、アメリカ市場における電気自動車のラインナップの充実だ。米国市場では主要自動車メーカーのほとんどが電気自動車を展開しているため、消費者も選択肢の幅が広がっている。

スーパーボウルのCMにもあふれた電気自動車

全米で最も視聴されるスポーツの試合の一つ、毎年2月に開催されるアメリカンフットボールの優勝決定戦のテレビ中継は、試合そのものだけでなくハーフタイムショーや国歌斉唱、CMも同じくらい話題となるアメリカの「日曜の夜」の毎年恒例テレビ番組だ。特にCMは映画よりも見所があるとされ、名だたるセレブリティの登場やコミカルな演出も決して見逃せない。

ユージン・レヴィを起用した新作映画風CMは日産フェアレディZの電気自動車(Nissan USA HPより) 

今年のスーパーボウルは、視聴者数が約1億人と発表され、30秒のCMは650万ドル(約7億円)の値がついた。例年同様、清涼飲料水やスナック菓子だけでなく、今年はゼネラルモーターズから日産、BMWにいたるまで電気自動車の広告が目白押しだったことも話題に。BMWはアーノルド・シュワルツェネッガーとサルマ・ハエックを起用した電気自動車のCM、日産は映画の予告編風の演出で、マーベル俳優を起用した「フェアレディZ」の電気自動車を紹介した。

住宅の電化への道のり

それでは住宅の電化、とくにキッチン周りの電化についてはどのような傾向があるのか。

アメリカの住宅では日本同様にキッチンや暖房にガスを使用しているケースがほとんど。ガス代は現在のウクライナ情勢を踏まえて、値上がりが続き家計をひっ迫している。また、化石燃料の使用による二酸化炭素の排出や環境問題、また最近では屋内空気汚染に対する意識の高まりもあって、IH調理器への関心が高まっている。

電化を推進する州も増えてきているアメリカ(Al Seib / Los Angeles Times

しかしながら厳しい現実もある。調理台を電化するには、既存のガス台を取り壊して新しい調理台を備え付けなければならず初期投資額が高額であること。また、長期的に見て低コストになると言われているものの、初期投資が回収できるまでの道のりが10年以上と長いこと、回収するまでに新たな技術の登場があった場合に、更新する必要があるのではという懸念から、一般家庭での普及が加速するのは難しいのではとみられている。

現在、州レベルでの電化に対するインセンティブの提供は15州、合計予算は1億6600万ドル(約210億円)にのぼる。この1年だけでも、コロラド州、イリノイ州、マサチューセッツ州とミネソタ州が、家庭用暖房を化石燃料からヒートポンプへと「燃料の転換」を推奨する政策プログラムを打ち出した。

これは、昨年夏の太平洋岸北西部の熱波や、テキサス州の冬の嵐による大停電などといった、異常気象によって政策立案者が、気候危機に注意を向けるようになったことにも関連がある。

州レベルでの二酸化炭素排出削減努力

こうした州レベルでの動きは、主に暖房と給湯の電化を推奨しており、米国エネルギー効率経済協議会が調査したところ、暖房のインセンティブプログラムの90%と、調べで給湯の71%のプログラムでインセンティブが支払われた。ミネソタ州やニューヨーク州のような寒冷地では、低い室温に対応できる広範囲向けの暖房を供給する「空気熱源ヒートポンプ」への特別インセンティブもある。

州別の暖房と給湯の電化プログラムの数(American Council for an Energy Efficient Economy)

インセンティブだけでは解決できないインフラの問題もある。暖房をはじめとする電気器具の電力容量に見合う、200アンペアの電気パネルや配線だ。電化にインセンティブを提供するプログラムを打ち出している上記15州のうち、最も多い13の政策プログラムを打ち出しているカリフォルニア州では、2021年8月から新築の住居用ビルの暖房を含めたオール電化対応を義務付けするという大胆な政策を全米で初めて決定。新築建物での天然ガスの使用を禁止している。

カリフォルニア州ではすでに低価格住宅がひっ迫しており、こうした政策が価格上昇を招き、生活する上での光熱費がかさみ、さらなる住宅危機を加速させると警鐘を鳴らす団体もあるが、同州で全新築住宅に義務付けられている「屋根へのソーラーパネルの設置」と組み合わせると、最終的な運用コストも安く済むとの試算がある。またこの政策を強化するために、天然ガスの使用を選択する建築により細かな基準を設けており、クリアには数千ドルの費用がかかる。また暖房機能しか対応できない天然ガスと比べ、ヒートポンプは冷暖房が可能で、一度導入してしまえば有利な設備だ。

そして何よりも二酸化炭素の排出を抑え、屋内大気汚染の心配がなく、地球を温暖化から救えるというメリットはこの時代において大きなインセンティブだろう。環境協力委員会の一連の動きは、天然ガスの利用を禁止することが目的ではないと強調し、電化がより安価な選択肢となることで、環境問題にも対処するきっかけとなるはずであるとしている。

電気自動車、家庭用電化製品への関心が高まっているのと同じく、移動手段としての電動自転車にも注目が集まっている。新型コロナウイルスのパンデミックが始まった2020年3月から、Googleでの「電動自転車」検索が急上昇した。やがて横ばいになったものの、再び2021年の秋にピークを迎えるなど、人々の関心は確かに存在している。

電動自転車の検索と同じペースで増減しているのが、家庭用電気自動車の充電と、電気自動車販売の2つのキーワード検索だ。これは、バイデン政権が交通機関を電化するとし、数十億ドルを投じていることと、電気自動車の新型モデルの発表が急増したことにも関連がありそうだ。特に車社会のアメリカでは、自動車による二酸化炭素の排出が大部分を占めており、人々が歩行と自転車に全ての移動を切り替えるだけで排出二酸化炭素を10%削減ができるとする試算もある。

Googleでの2017〜2022年の検索数推移。電動自転車(青)、家庭用電気自動車の充電(黄)、電気自動車販売(黒) Protocolより

現実とのギャップ

燃料価格の高騰とともに、こうしたアメリカでの電化への機運が高まりそうにも見えるが、現実はどうなのだろうか。

世界最大の会計事務所デロイトによる調査「2022年世界自動車研究」では、大多数のアメリカ人が電気自動車を購入しない、とする結果を発表した。69%のアメリカ人が、次に購入する車はガソリン車にすると回答、17%がハイブリッド、そして5%だけが電気自動車の購入を予定していると回答するにとどまった。

この傾向は、東南アジア、中国、インドでも多数が「電化を考慮していない」とする同様の結果となり、世界屈指の自動車大国ドイツでも49%が同意見。一方日本では39%、韓国では37%が電気自動車を考慮しないとする結果であった。

また同調査では、アメリカの回答者の多くが電気自動車に「1回の充電で500マイル(=約805km)以上の走行を望む」と回答し、現在それを実現できるモデルは、高級電気自動車メーカー製のもので13万9000ドル(約1770万円)からのプレミアムモデル。

調査では半数以上にあたる53%が「代替エネルギーを使用することによる出費はしたくない」と答えており、買い替えの時期がきてもまた比較的安価なガソリン車を購入する可能性をうかがわせる。消費者の求めるものと、メーカーの提供間でのギャップが顕著だ。

さらに、ラインナップが急増している電気自動車についても、CMを見てからすぐにディーラーへ駈け込んでも購入できないという事情がある。

例えば、前述スーパーボウルのCMで5台の電気自動車を紹介したゼネラルモーターズでは、実際に購入できるモデルはそのうち2台のみ。しかも、出荷数はごくわずかで今すぐに予約をしても、今年中の納車すら不明だとされている。

新型コロナウイルスの感染拡大が収束しないまま、ウクライナ情勢という困難が続く世界情勢により、サプライチェーンが断絶、重要パーツである半導体の不足、バッテリー原料の不足が原因だが、自動車メーカーは未だ販売していない商品の広告を展開し、人々の意識をまず高める、といった点ではスーパーボウルでのCM、Googleでの歴史的検索数と、それなりの成果があったと言えるだろう。

Googleの検索結果がすべてを物語るとは言えないものの、ある程度のトレンドは確実に見てとれる。今回の電気自動車の検索の急上昇は、「ただ知りたい」とする人たちの興味本位の検索だと見る専門家もいるが、充電場所の検索やコストの検索も上昇していることは、人々の意識の変化と見ても良いだろう。

今年3月に40年ぶりの高水準を記録した歴史的インフレから、消費者物価の上昇が止まらないアメリカ。ガソリン価格が高騰し、市場に電気自動車が登場するこのタイミングで、消費者がこの先どのような動向を見せるのか。気候変動への対策とともに、電化への道のりに注目が集まっている。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit