日本のゴールデンウィークでは、海外旅行者数が前年比で5倍ほどになるといわれており、観光が復活しつつある状況がうかがえる。

特に人気があるのはハワイ。しかしながら、この海外旅行で気をつけなければならないのは、急激に進む円安とアメリカで進むインフレだ。この2つが重なり、日本人旅行者の購買力は弱まるのではないかと予想されている。

4月28日現在のドル円の水準で考えると、円の価値は前年同期比で20%ほど弱く、アメリカのインフレ率は8〜9%。シンプルな計算で、円の購買力は30%近く下がることになりそうだ。

また、ハワイにおける物価の上昇はかなり深刻な様子。現地情報によると、昨年4〜5ドルだったミルクの価格は7〜8ドルに上昇しており、さらなる円の購買力低下が懸念されている。

海外旅行人気1位のハワイの物価変動と日本円の購買力は、ハワイ経済にどのように影響を受けるのだろうか?

閑散としたダニエルKイノウエ国際空港(ホノルル)2020年9月 © 2010-2022 Honolulu Civil Beat Inc. 

閉ざされていた旅行の楽しみ

ついに海外旅行が解禁になる――。日本の水際対策の緩和のニュースを聞いて、そうまっ先に思った人も少なくないだろう。

不要不急の外出禁止、県境を越えてはならない、沖縄や北海道に出かけてはならない、と移動を制限された生活をかれこれ2年以上も送ってきたのだから当然だ。国内での外出ですらこの状況、海外旅行は夢のまた夢になってしまった感がある。

渡航準備のPCR検査や陰性証明、ワクチン接種証明、到着地での隔離措置や感染状況への不安に始まり、日本に帰国する際に待ち受ける検査や隔離、自宅待機期間など、気の遠くなるような行程が待っていることを考えると、気軽に海外へ出かけられる状況ではなかった。

ましてや旅行期間だけでなく、帰国してからの自宅待機期間までも有給休暇を取得しなければならないとすると、よほどの事情がない限りは諦めるしかない。

厳しかった海外と日本の制限

入国者に厳しい中国のゼロコロナ政策(中国の英字新聞China Dailyより

また、これまでは海外で新型コロナウイルスの感染が拡大していたという背景もある。万が一旅先で感染したらどうなるのか、現地の医療体制はどうなのか、外出制限はあるのか、といった不安要因があった。

例えば、ゼロコロナ政策を固持してきた中国では、今もなお外国人の入国は原則禁止だが、入国すると厳しい隔離措置が待っている。最低でも14日から4週間まで、自費で政府の指定宿泊施設の一室で過ごさなければならず、繰り返しのPCR検査と健康チェックが行われ、部屋から出ることは一切許されていない。

これまでは2~4時間で到着できていた中国が、日本を出発してから2週間以上経たないと自由に街を歩けない、かつてないほどに遠い国になっている。もちろんこのような日程では出張はおろか、観光でも全く意味がない。さらに、日本に帰国してから7日間自宅待機、となると移動だけでも丸1カ月かかる計算、気の遠くなるような旅行になる。

中国での行動制限は現実的ではないものの、3日や7日程度の制限ならやむなし、と考えるかもしれない。しかしネックだったのが、日本に帰国するにあたっての検査証明の必要性や空港での検査、結果待ちのための待機、指定場所での宿泊待機であった。これが今年3月から大幅に規制緩和されたことが、海外旅行ブームにつながった形だ。

急回復する海外旅行、変わらず人気のハワイ

日本人観光客の姿が目立っていたオアフ島ワイキキビーチ(2019年撮影)

ゴールデンウィーク直前の4月28日時点で、航空各社が発表した予約数は大幅な復調だ。日本航空の国際線は前年比421%、特にハワイ線では前年比約9倍。全日空の国際線は前年比564%、ハワイ線だけで見ると前年比500%弱。驚くような数字ではあるが、あくまでも2021年との比較であってコロナ前の2019年の水準にはまだまだ遠い。

また、日本人に人気の旅行先、香港やタイなどで5月1日からワクチン接種などを条件に入国制限をほぼ撤廃すると発表。これから夏休みにかけて、海外旅行の復調が加速することが予想されており、日本政府観光局(JNTO)によると2022年3月の日本人出国者数は7万7000人、2021年同月比4万2000人増。それでもコロナ以前の2019年同月と比較すると96.3%減少、これは日本から出発した国際線の便数の減少と緩和されたものの、1日あたりの最大人数が設定された日本の入国制限も大きく影響している。

さて、海外旅行が全面解禁になったかのような盛り上がりを見せる今年のゴールデンウィーク、人気渡航先は1位ハワイ、2位バンコク、3位マニラと発表された。

特にハワイの人気はとびぬけて高く、初日の飛行機はどれも満席、航空運賃、パッケージツアー価格ともに値上がりしているものの、売れ行きは順調。連日テレビのニュースでは、2年ぶり、3年ぶりに海外旅行に出ると笑顔で話す人々の様子が空港から中継されている。

円安がもたらすハワイでの割高感

長引くコロナ禍での明るいニュースのようにも見えるが、実はそうでもない。現地で待ち受けているのは、上昇したハワイの物価、それと同じくらいに深刻なドル安傾向だ。4月28日午前のニューヨーク外国為替市場では一時1ドル131円まで下落、2022年4月以来の円安水準を記録した。前年同期は1ドル108円台であるから、20%強の差がある。

旅行代金に影響はないとしても、深刻なのは現地での消費額への影響だとみられている。それまでは100ドル、1万円ちょっとだったステーキは1万2000円に。500ドル、5万円ちょっとだった海外ブランドのバッグが6万円に「値上がり」したと感じることだろう。現地での買い物や外食の割高感はぬぐえない。

ハワイ州観光局HPより 日本人にも人気のカフェ、ホノルルコーヒー 

2019年のハワイ旅行客数は1,000万人以上、アメリカ本土からの旅行客が約680万人、次いで多いのが日本からの約160万人、第3位はカナダの54万人だ(ハワイ観光局発表)。

旅行客数ではアメリカの約4分の1、平均滞在日数ではアメリカの8~9日の3分の2程度の5~6日である日本がハワイにとってキーである理由は、現地での消費額の多さが目を引くからだ。2019年の統計で、アメリカからの渡航者1人が1日あたりハワイで消費する額の平均が約193ドル、日本は241ドル(同観光局発表)。

アメリカ本土からの旅行客を中心に観光客数全体が復活傾向にあるハワイでは、2022年2月の統計でアメリカ本土からの訪問客がパンデミック以前と比較して15%の増加を見せた一方で、日本からの渡航者は98%ダウン。さらに、この本土からの観光客の増加は一時的なもので、やがてカリブ海やメキシコへの渡航制限が解除されると、ハワイへの渡航者は減り、リピート客はそれほど期待でいないと予想されている。

アメリカ本土からの旅行客が、日本人ほどハワイで消費しない理由は簡単だ。アメリカ人にとってハワイは1つの州に過ぎない、いわば国内旅行。しかもリゾート価格で物価は全体的に高く、日本人のようにドラッグストアやショッピングモールで目新しいコスメや衣服を購入する楽しみもさほどはないだろう。一方ハワイにとって、アメリカ人と日本人の消費額における約50ドルの差額は大きいのも事実だ。

ハワイの住民にのしかかる物価上昇

そのハワイでさらなる打撃となっているのが急激なインフレだ。アメリカ全体で8~9%のインフレ率は、もともと物価が高かったハワイの人々の生活に暗い影を落としている。太平洋に浮かぶ島では、ほとんどの物資が輸送されなければならず、輸送コストの高騰や世界中で奪い合いとなっている輸送経路、スペースの確保の困難で物価が急激に上昇しているのだ。

値上がりしたものは主に燃料、食料品、それに不動産価格の上昇。圧倒的な車社会、それに常夏の島で欠かせない空調と、燃料は生活必需品である一方、世界的な原油価格の上昇によるダメージは当然避けられない。

保険比較サイトQuote Wizardの報告書によると、ハワイ州の住民のうち家計支出にやや困っている人たちが41%、非常に困難をきたしている人たちが8%という結果が出ている。実に人口の約半分が、多少の困難に面している計算だ。

2022年3月の時点で、前年比消費者物価は8.5%上昇、過去40年間で最悪の伸び率であるとともに賃金の値上げがされないことへの不満もたまっている。具体的にはガソリン価格が48%、中古車が35%、家具14.7%、男性物のスーツが14.5%、食品全般の値上がりが10%である一方でベーコンとオレンジは特に18%もの値上げと発表されている。

アメリカ本土からの観光客が押し寄せてはいるものの、観光が基幹産業の島に日本人観光客が来なくなってから久しく、目抜き通りのショップや免税店が閉店するというニュースも耳にするようになった。新型コロナウイルス感染症による、楽園の島への打撃は想像以上に大きい。

またパンデミックの最中、休業状態となった観光業のほとんどが、雇い止めや無給休暇、解雇などを実施。失業者数が増える中、過ごしやすい土地で暮らそうと、片道切符だけを持って到着するホームレスの数も目に見えて増えている。様々な経済ダメージから脱却すべく、現地ではこのゴールデンウィークに期待を寄せていると聞くが、円安の影響は計り知れない。

今回ゴールデンウィークに、プレミアを支払ってでもハワイへ渡航した日本人は円安など気にしない客層である可能性も高い。現地に到着して、マスクを外し(現在ハワイでマスク着用の義務は撤廃)、明るい太陽の下でハワイの風に吹かれれば、ブランドショッピングやちょっと贅沢な食事に、財布のひもも緩むのではないだろうか。

2年以上もの間、自由に海外旅行できなかった日本人の「リベンジ消費」は、まだ始まったばかりだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

参考
https://www.kitv.com/news/nearly-half-of-hawaii-residents-struggle-with-household-bills/article_ff6015cc-9c33-11ec-b863-577e159a60c4.html
https://uhero.hawaii.edu/the-cost-of-excess-inflation-in-hawaii/
https://www.hawaiinewsnow.com/2022/04/12/inflation-gets-worse-it-wont-be-short-lived/
https://www.hawaiitourismauthority.org/media/5062/2019-annual-report-final-for-posting.pdf
http://dbedt.hawaii.gov/visitor/tourism/
https://www.travelvoice.jp/20220407-150993
https://www.cnbc.com/2022/04/21/investing-dollar-yen-could-fall-to-135-in-near-future-wells-fargo.html
https://www.bls.gov/regions/west/news-release/consumerpriceindex_honolulu.htm