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家電や自動車を中心にIoT化(モノをインターネットに接続する技術)が進む中、国内ガスメーター主要部品でトップシェアを誇るパナソニックがLPガス事業者に向けたクラウド型集中監視システムサービスを2022年度より本格化させる。カーボンニュートラルに向けたCO2削減や他エネルギー(電気・都市ガス)との競合、生産人口減少による人手不足や働き方改革により求められる業務効率化など、LPG事業環境が急速に変化する中、同社のサービスはどのようなメリットをもたらすのか。説明会の模様を通じて紹介していきたい。
ブレーカ付ガスメーターの誕生
集合住宅でのガス事故が頻発していた1970年代、都市ガス会社から「ガス安全ブレーカ」の開発依頼を受けたパナソニックは81年に開発に着手。計測だけの機能しかなかった従来機にガス漏れや圧力異常を感知してガスを遮断する安全機能を備えた世界的にも珍しいマイコンメーター向けコントローラーを開発し、86年には全国都市ガス会社に、87年にはLPガス会社に販売・を開始した。
マイコンメーターの国内全世帯への普及によりガス事故は大幅に減少。2005年には超音波ガスメーター向けコントローラー、13年には通信機能を備えたスマートメーター向けコントローラーへと進化を遂げ、出荷累計は1.7億台を記録した。
現在、日本全世帯の48%にあたる約2400万世帯がLPガスを使用している。これは都市ガスのガス管が敷設困難な山岳地帯にも居住者がいる日本ならではの住環境に加え、災害時には個別に運搬・供給が可能で復旧の早いボンベ式のメリットも下支えとなっている。
一方でボンベの交換・充填が必要であり、配送に加えて検針員なども手配しなければならず、ボンベの在庫管理にも時間と手間を取られていた。加えてカーボンニュートラルに向けたCO2削減やエネルギー供給自由化に伴う競争激化、働き方改革といった事業環境の変化もあり、業界としての課題は少なくなかった。
これらの課題解決の鍵となるのが、IoT化だ。
LPガス業界ではLTE(高速通信規格)通信を活用した集中監視システム導入を進めている。ガス漏れなどの緊急通報を即座に取得することができ、センターからのガス遮断や開栓が可能に。検針業務も自動化でき、契約者のボンベ残量をリモートで把握ができるので、事業者の適切な在庫管理を促すことができる。
保安、業務効率、経営面など利点の多い集中監視システムだが、課題もある。
IoT化によるメリットを得るためには、顧客世帯の5割以上に導入しなければならず、初期投資時に大きな資金調達が必要となることで、事業者のキャッシュフローを圧迫する要因となる。
また機器の寿命から10年に一度はリニューアルが必要となり、通信技術などの専門知識を持った施工・保守体制を構築する必要がある。16,000~17,000社といわれる事業者の多くが中小規模であり、これらへの投資へのハードルがあった。
クラウド型集中監視サービス
そこにパナソニックが提案するのがクラウド型集中監視サービスだ。設置計画から機器導入だけでなく、サーバー運用、メンテナンスに至るまでパナソニックの専門部隊が一括管理。事業者は初期投資のハードルなしに一気に導入が可能となり、顧客一軒あたり月額300円でサービスが提供できるという。専門知識を持ったエンジニアが常にモニタリングし、不具合時には速やかに対応。消耗材である電池等の交換も月額サービス費用に含まれ、災害時には動産保険で対応するなど、パナソニックグループならではのサポート体制を生かし、2018年よりサービスが開始された。
クラウドならではのサービス
1. 集中監視サービス
クラウド化によって最もメリットが大きいのはこの集中監視サービスだろう。自動検針によって残ガス情報を遠隔で把握が出来、工数削減や配送効率向上にもつながる。事業者はネット回線につないだPCを介して、契約者のガス使用状況や保安状況をリアルタイムで監視でき、非常時にはリモートでガスの遮断、開栓が可能だ。
2.WEB明細
自動検針によって契約者に送られる請求はWEB明細で確認ができる。期間指定やCSVファイルでも出力が可能で、ペーパーレス化にもつながっている。
3.安全・安心サービス※オプション
24時間体制のモニタリングにより、万が一のガス消し忘れにも電話とメールで契約者に通知。
契約者のスマートフォンからも遠隔遮断が可能だ。また単身で生活する高齢者世帯において、前日のガス使用量がゼロになった場合、家族にメールで通知がいくなど、安否確認にも活用できる。
4.省エネ支援サービス※オプション
契約者はスマートフォンやPCで日別、月別、年別でガスの使用状況を閲覧できる。前回差など使用状況を可視化することで、エコ意識の喚起が期待できる。
災害対策を考慮したシステム導入
自然災害が多発する日本において、そのリスクを考慮した保守体制が重要となる。2020年の熊本豪雨では災害発生時から専門部隊が即座に対応。対象となった600世帯に対して現地調査からインフラ環境確認、データ解析、保険対応、機器手配などを経て、災害発生から2週間で修復の準備を整えた実績を持つ。
柔軟な価格メニュー
料金プランは10年間月額定額制の「フラット10」を基本に、将来の契約件数変動にも対応する為、6年目より月額が下がる「フラット5」、予算に合わせて先払いをする「アドバンス×フラット10」「アドバンス×フラット5」の4種類を揃えた。予算に応じてプラン選択できるのもガス事業者にとっては大きなメリットだ。
2030年度に100万軒のサービス提供を目指す
2018年から提供が始まった本サービスは2021年度現在、約6万軒が契約中。
A社(九州・導入数45,000)「まるごとサービスで全戸への早期導入が可能。軒下在庫や不要出動の削減にも貢献し、認定販売事業者取得によるインセンティブにつながっている」、B社(東北・導入数3,800)「他社と比較検討してトータルコストで判断」、C社(北海道・導入数400)「学生寮への見守りで入居率アップを期待」と導入事業者からは好反応が揃った。
パナソニック・エレクトリックワークス社スマートエネルギーシステム事業部の岸川成行氏は「特に工事や補修部隊を持っていない小規模事業者に積極的に働きかけながら、付加価値サービスを拡張させて、2030年までには100万軒のサービス提供で売り上げ30億円を目指す」と目論む。
今後はビッグデータを活用することで、災害レジリエンスへの貢献も期待できる同サービス。このように各産業におけるIoT化の波は益々大きくなっていくはずだ。
文・写真 小笠原 大介