INDEX
千葉大学病院は、塩野義製薬と、粘膜免疫誘導型ワクチン(以下、粘膜ワクチン)の研究開発を産学共同で推進する共同研究部門「ヒト粘膜ワクチン学部門」を2022年4月1日に設置し、ワクチンによる免疫誘導メカニズムの理解促進、臨床応用の促進、人材育成に取り組むと発表した。
粘膜ワクチンとは
新型コロナウイルスなどは飛沫・空気感染、つまり鼻や口などの呼吸器粘膜から侵入し、感染するという。抗体を粘膜面につけることができれば感染・伝搬を阻止できるとのことだ。
しかし、現在、新型コロナウイルスのmRNAワクチンをはじめ、ほとんどのワクチンは注射型ワクチンのため粘膜面での防御が不十分であるという。
そこで同研究では、粘膜に防御免疫を効果的に誘導できる粘膜ワクチンの研究開発に取り組み、注射型ワクチンが有する「発症や重症化を防ぐ効果」に加え、新たに「病原体の侵入そのものを防ぐ効果」も有するワクチンの開発を目指すとしている。
家の防犯に喩えれば、注射型ワクチンは「免疫=警察官」を「体=家」の中に配備し、侵入してきた「病原体=泥棒」を捕まえる。粘膜ワクチンは、家の中の警備に加え、窓や玄関に鍵をかけて侵入そのものを防ぐことにより、病原体の侵入阻止と重症化予防という二段構えの防御免疫が期待できるとのことだ。
呼吸器の粘膜免疫システムとは
鼻から始まる呼吸器の粘膜面には、樹状細胞などの免疫細胞が各種存在し、病原体が侵入しようとすると免疫が作動して阻止する仕組みがある。
鼻から抗原を投与することにより、注射型と同じようにIgG抗体を血清中に確実に誘導するとともに、粘膜面に作用する分泌型IgA抗体も誘導できることが、これまでの基礎研究でわかってきたとのことだ。
経鼻ワクチンの開発を目指して
同研究では、粘膜ワクチンの中でも、鼻から噴霧する「経鼻ワクチン」の開発を目指すとしている。
「経鼻ワクチン」は、鼻から噴霧するため、注射型に比べて精神的不安や疼痛に対する恐怖感などの軽減につながり、また、投与が簡便なため、ワクチン接種を行う医療者の確保が不要となる可能性があるとのことだ。
また一方で、以下のような課題も。
・鼻汁(分解酵素を含む)など粘液がたくさん排出される
・解剖学的に鼻腔は脳に近接している
こうした課題の克服のため、同研究では、「カチオン化ナノゲル」内に封入したワクチン抗原を鼻から投与して粘膜面に届ける「噴霧型経鼻ワクチン」の開発を目指すという。
カチオン化ナノゲル内に封入されたワクチン抗原は、噴霧投与後、粘膜面に長時間とどまり、持続的に放出される。動物実験ではワクチン抗原は12時間程粘膜にとどまり、効率的にIgA抗体を誘導し、その後病原体を呼吸器粘膜に暴露しても肺で増殖しなかったとのことだ。
一方で、ワクチン非接種群では肺で病原体が増殖、死に至ったとし、これらの結果は経鼻ワクチンの有用性を強く示唆しているとしている。
〈カチオン化ナノゲルとは〉
天然に存在する多糖のプルランをコレステロール修飾およびカチオン化修飾することにより、粘膜保持性を高めたもの。京都大学バイオマテリアル工学秋吉一成教授と大学発ベンチャーHanaVaxとの共同研究により開発された。
HanaVaxは清野宏特任教授と秋吉教授の共同研究から生まれた次世代型経鼻ワクチンの開発を行う創薬ベンチャー。
研究体制
清野宏(千葉大学未来医療教育研究機構特任教授)が共同研究部門「ヒト粘膜ワクチン学」の部門長に就任し、千葉大学(22名)、塩野義製薬(複数名)で研究に取り組む。
スケジュール
2022年4月に設置。設置期間は5年を予定。まず、新型コロナやインフルエンザの経鼻ワクチンの研究開発を実施し、その後、肺炎球菌などその他のワクチン開発を目指しながら、ワクチン学人材育成も進めるという。
千葉大学病院は、こうした国際水準の臨床研究を通じ、臨床研究中核病院として、日本発の革新的な医薬品の創出と人材育成に貢献していくとしている。