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注目のメタバース企業が仕掛ける2000億円近い投資
ブルームバーグの予測によると、2020年に5000億ドル(約58兆円)だったメタバース市場は、2024年に7833億ドル(約90兆円)に拡大する見込みだ。
全体的に伸びる市場だが、音楽や映画などエンタメ分野は約2倍の規模になると見られており、メタバース関連の中でも特に注目される分野となっている。
メタバースにおける音楽や映画がどのような姿となるのか、現時点の動きから推察することができる。
米ナスダックが注目の「メタバース企業」として選ぶ1社Unity Technologiesの動向は、メタバースにおける映画・音楽の未来を占う上で、重要な示唆を与えてくれるはずだ。
Unity Technogiesとは、ゲームエンジン「Unity」を開発するテック企業。2004年にデンマークで創業され、現在はサンフランシスコに拠点を構えている。
このUnity、「ポケモンGo」や「Among Us」を始め様々なゲームの開発に用いられており、フォートナイト開発に用いられたエピックゲームズ社のUnreal Engineと並び、2大ゲームエンジンとして、世界中で利用されている。
同社が注目のメタバース企業といわれるのは、ゲームエンジン「Unity」がメタバース構築に欠かせないツールであり、またUnity Technogies社もメタバースへの関与を強めると言明し、関連する投資を拡大しているからだ。
同社が2021年11〜12月にかけて発表した買収・投資案件は、ゲームだけでなく映画・音楽の世界を大きく変えるものとして関心を集めている。
その案件とは、ニュージーランドのVFX(視覚効果)技術開発企業Weta Digitalのツールと開発部門を買収するというものだ。
Weta Digitalのテクノロジーは、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや「アバター」など日本でも広く知られる映画で利用され、アカデミー賞の視覚効果賞受賞に一役買っている。
ロード・オブ・ザ・リングに登場するゴラムは、Weta Digitalの技術によって生み出されたデジタルヒューマン。このほか、同映画の大規模戦闘シーンなどを担当している。
Unity Technogiesは2021年11月に、VFXツールと開発チームの買収でWeta Digitalと合意に至ったことを発表。続く12月1日には、買収が完了したことを明らかにした。買収価格は、16億2500万ドル(約1883億円)。
VFXツールの民主化とメタバース
Unity TechnogiesによるWeta Digitalツール・開発チームの買収は、メタバースにどのような影響を及ぼすのか。
Unity Technogiesの言葉を借りれば、この買収により業界標準の映画ツールの「民主化」が実現、これによりメタバースにおけるデジタルコンテンツ制作の可能性は大きく飛躍することになる。
既存の映画VFXツールは、高額なものが多く、個人クリエイターが利用するのは難しい。また多くの場合、VFXのレンダリング(書き出し)は、高性能のコンピュータでも非常に長い時間を要するため、個人クリエイターが短期間で作品を制作するのは困難だ。
Unity Technogiesは、Weta DigitalツールをUnityと統合させ、誰もが利用でき、かつリアルタイムでVFXをレンダリングできる映画制作エコシステムをつくろうとしているのだ。
このエコシステムが完成すると、映画のような高品質の視覚効果を持つVR・ARコンテンツが増え、メタバースがよりリアルな世界になっていくことが想定される。また映画だけでなく、ゲームや音楽(ミュージックビデオ)にも応用できるため、様々な領域のエンタメコンテンツのリアリティが高まることになる。
スティーブン・スピルバーグ氏も支援するAI・VFXスタートアップ
Unity TechnogiesのほかにもVFXの民主化を目指すスタートアップが存在する。
AIを活用したVFXツールを開発するWonder Dynamics社だ。同社は、映画業界で広く知られる複数の著名人が関わる企業で、業界内・クリエイター界隈で注目度が高まっている。
同社の共同創業者の1人はハリウッド映画俳優のタイ・シェリダン氏(トップ画像)。メタバースの世界を描いた映画『レディー・プレイヤー・ワン』の主人公を演じた俳優として広く知られている。
Wonder Dynamicsは、シェリダン氏とハリウッドのVFXアーティストであるニコラ・トドロビッチ氏が2017年に創業。AIを活用した誰もが使えるVFXツールの開発を行っている。
同社のアドバザリーボードには『レディ・プレイヤー・ワン』の監督を務めたスティーブン・スピルバーグ氏や『アベンジャーズ・エンドゲーム』の監督を務めたジョー・ルッソ氏など映画業界の重鎮が名を連ねている。
同社はこれまでに1000万ドル(約11億5800万円)を調達。2022年には、AI・VFXツール「Wonder AI Suite」のリリースを計画している。
メタバース関連の動きと相互に連動して変化する映画産業。近い将来、リアルタイムレンダリング、デジタルヒューマン、AI・VFXなどの次世代テクノロジーが主流になるのは間違いないだろう。
文:細谷元(Livit)