一般的にスタートアップ企業が黒字になるまでは、長い期間を要することはよく知られている。

しかし、今年インドで創設されたMensa Brandsはすでに黒字化を達成し、事業開始後6カ月で評価額が10億円以上となるユニコーン企業に急成長したとして、大きな注目を集めている。これは同国最速の記録だ。

現在、インドには70社以上のユニコーンスタートアップが存在するといわれているが、Mensa Brandsのように、半年でそのステータスを得る企業が今後増えてくる可能性も大きくある。

今回は、Mensa Brands関連の報道を切り口に、インドのスタートアップ市場は今どのような状況となっているのか、2021年末の最新動向をお伝えしたい。

インド最速ユニコーン企業Mensa Brandsのビジネスモデルとは

Mensa Brandsは、主にインターネット上で自社製品を販売するデジタルファーストのブランドの過半数の株式を購入し、それらを所有および運営して傘下とする親企業として機能している。

現在彼らのブランドのカテゴリーとして、ファッション、ホーム、そしてビューティー&パーソナルケアの3つを主要とし、12のブランドを包括しているとアメリカのニュース局CNBCのインタビューで語られている。

デジタルファーストのブランドを買収していき、国内および海外でのビジネススケールを拡大することでMensaは収益を得ている。

デジタルファーストなブランドのビジネススケールを支援するMensa Brands

同様のビジネスモデルはアメリカではすでに行われていた。例えば、Amazonで販売されている小規模ブランドを次々と買収して近年注目を集めていたのは「Thrasio」だ。

創設された2018年から3年間で、同社は6億ドル相当の150件以上の買収を行ってきた。彼らのポートフォリオは現在200を超えるブランドから構成され、22,000製品を生み出している。Thrasioは今年10月に50億ドルを超える評価額が算出され、さらに10億ドルの資金を得ている。

こうしたアメリカの成功例の存在も背景に、ブランド・アグリゲーションビジネスはインドでも最速のユニコーン企業を生む結果となった。

さらに、Mensaの代表はインドのファッションEC企業MyntraのCEOを以前務めていたAnanth Narayanan氏だ。

ファッション業界をよく知るNarayanan氏は、彼らがターゲットとする市場での、オフラインとオンラインを合わせた市場規模は1200億ドル以上と推計する。「私たちはその規模とニッチさ両方をよく理解しており、そのことが従来とは非常に異なる方法でブランドを構築するのに役立っている」と語っている。

買収ブランドの選出の際、Narayanan氏は「質の高い創業者」「忠実な顧客」、そして「年間収益が100万から1000万ドルの収益性の高いブランド」を特定することが重要、としている。

さらに同氏は、「ブランドは、(SNSや口コミなどであっという間に人気が爆発する)バイラル性とパーソナライズ化によって、興味深い方法で構築することができる」とTechCrunchのインタビューで述べている。

デジタルの特徴を活かすバイラル性、そしてインターネットとテクノロジーで細部まで可能になったカスタマイズなどパーソナライズ化を鍵として、買収ブランドを成長させているとみられる。

彼らの目指すところについて、Mensaは「House of brands=ブランドの家」という標語を掲げている。

Narayanan氏は「Mensaが作りたいのは、ユニリーバの現代版や、Inditex(ZARAやPULL&BEARなどを傘下に持つスペインのアパレルメーカー)のデジタルファーストブランド版だ」と述べている。

Mensaは「House of brands=ブランドの家」として、デジタルファーストなブランドを集約している

2021年末の12月現在、Mensaは12ブランド以外にも、20のブランドとの取引に現在取り組んでいるという。VCからの資金を利用してポートフォリオを継続的に拡大する一方、機能全体のアップグレードにも積極的に投資し、その他の成長機能も構築し続ける予定だという。

急速に増えるインドのユニコーン企業数

Mensa Brandsのみならず、インドのユニコーン企業は、そのダイナミックな経済下で速いペースで成長している。

インド政府投資局によると、2016年度まで、インドでは毎年約1社のユニコーンが誕生していたのに対し、2017年度以降の過去4年間は、それが指数関数的に増加し、ユニコーン数は毎年、前年比で66%も増加しているという。

グローバルでみると、世界のユニコーン企業数はこれまでに800社以上存在している。

アメリカの調査会社CBインサイツの2021年10月の発表では、国別に見ると世界のユニコーン企業数はアメリカがトップで、全体の50%を占める。次いで、中国(同19%)、インド(5%)、イギリス(4%)、イスラエル(2%)の順となっているが、その増加ペースではインドも劣らないという。

インド政府投資局によると、現在同国には79のユニコーンが存在しており、評価額の総額は2,605億ドルにおよぶ。そのうち半数以上の42のユニコーンの評価総額は821億ドルで、いずれも2021年に生まれたという。

インドでユニコーン・ラッシュが加速する3つの要素

なぜインドでは、コロナ渦である2021年でも、ユニコーンラッシュが加速しているのだろうか?

「デジタル決済エコシステムの繁栄」「大規模なスマートフォンユーザーベース」、そして「デジタルファーストのビジネスモデル」の、主に3つの要素が投資家を惹きつけている、とインド政府投資局は分析している。 

インドでは、パンデミック下でリモートや非接触の必要性から、ここ2年でスマホの普及と、ショッピングなど生活のあらゆる側面で取引のデジタル化が急激に進行した。

その背景には、金融のフィンテックを始め、食料品などを購入できるEC、SaaSプラットフォームなど、多様な企業の目覚ましい発展がある。これらの企業が、ユニコーンの誕生に大きく貢献したという。

インド政府投資局が紹介する、2021年ユニコーンに成長した企業たち

さらに、Nikkei Asiaの記事が伝えた、政府の輸出振興機関であるインド・ブランド・エクイティ基金の推定によると、インドのEC市場は2019年から2024年の間で、年平均27%のペースで成長し、990億ドル規模にまで拡大する見込み。

ドイツの市場調査会社Statistaが、インドのインターネットユーザー数は2019年に約6億2000万人だったが、5年後には10億人に達すると推定。安価となったインターネット接続を利用したECの急速な普及が、インドのブランドアグリゲーター(ブランドを集約する企業体)への関心を高めていると分析している。

今日、世界のユニコーンの10社に1社がインドで生まれている。この指数関数的なブームを後押しするのは、「デジタル決済エコシステム」「大規模なスマートフォンユーザーベース」、そしてMensa Brandsが展開する「デジタルファーストのビジネスモデル」だ。

活気に満ちたインド発スタートアップの今後に、2022年も注目が集まる。

文:米山怜子
企画・編集:岡徳之(Livit

参考
https://www.cnbc.com/2021/11/19/indias-billion-dollar-mensa-brands-is-already-profitable-says-founder.html?&qsearchterm=india
https://economictimes.indiatimes.com/tech/funding/ettech-deals-digest-mensa-brands-is-indias-fastest-unicorn/articleshow/87803238.cms
https://www.investindia.gov.in/indian-unicorn-landscape
https://techcrunch.com/2021/11/16/india-mensa-a-house-of-d2c-brands-becomes-unicorn-in-just-six-months/
https://asia.nikkei.com/Business/Startups/Mensa-Brands-becomes-India-s-fastest-unicorn-in-just-six-months
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/10/cc19e788e306a296.html