NTTドコモ(以下、ドコモ)とエアバスは、高度約20キロメートルの成層圏を飛ぶ高高度無人機(HAPS)「ゼファー(Zephyr)S」を用いて、成層圏から地上の受信アンテナへのUHF帯(450MHzおよび2GHz帯)の電波伝搬測定実験を2021年8月25日から2021年9月13日まで実施。

実証実験期間のうち、成層圏での滞空日数は18日間であり、HAPSから送信した電波の伝搬状況を測定・分析することにより、成層圏から地上にあるスマートフォンなどのデバイスへの通信サービスの提供の実現可能性を実証したと発表した。

この実証実験で得られた結果をもとに、ドコモとエアバスは今後通信エリア化が難しい山間部や離島、海上などへの通信サービスの提供を可能にすることをめざすとのことだ。

5Gのさらなる高度化、および6Gに向けた取り組みとして、空・海などを含むあらゆる場所に通信網を拡大する「カバレッジ拡張」の検討が世界的に進められており、基地局設備などを搭載して成層圏を飛行するHAPSを用いてネットワークを構築する非地上ネットワーク(Non Terrestrial Network、NTN)技術が期待されている。

成層圏を飛行するHAPSによるネットワーク構築は空・海へのカバレッジのほかにも、災害対策やイベント会場など人が密集する場所での通信容量確保、建設現場での重機の遠隔操作などに有効であると考えられているという。

そこで、ドコモとエアバスは、エアバスのHAPS「ゼファー(Zephyr)S」を飛行させ、スマートフォン向けの通信に利用されている2GHz帯の周波数を用いて、成層圏と地上間での電波の伝搬特性を測定。

成層圏を飛行するHAPSに搭載された無線機と地上のアンテナとの直接接続を行い、通信距離や気象条件などさまざまな条件下で、電波の減衰特性の分析を行ったという。

加えて、低速ながら長距離の通信が可能となる低い周波数(450MHz)を使用した、約140kmに及ぶ長距離接続の伝搬測定にも成功。

以上の試験内容により、UHF帯電波を用いるHAPSとスマートフォンの直接通信が最大約140kmの距離にわたり、十分な通信品質を実現可能であることを確認したとのことだ。

さらに、今回の伝搬試験においてHAPSは最高到達高度76,100ft(約23.195km)を達成しており、これは国際航空連盟(FAI)公式の世界記録であるという。18日に及ぶフライト実績も合わせ、成層圏の極低温な環境下でもHAPSによる持続的なネットワーク提供が可能であることを実証したとしている。

ドコモ6G-IOWN推進部長である中村武宏氏は、今回の実証試験について次のようにコメント。

「ドコモでは、5G evolution & 6Gにおけるカバレッジ拡張に向け、HAPSは有望なソリューションになると考えています。今回の測定実験では長期間にわたるHAPSを用いた伝搬測定により、特にスマートフォンなどへの直接通信に対するHAPSの有効性を示すことができました。この結果を基に、5G evolution & 6GにおけるHAPSの実用化に向けた検討をエアバス様とさらに推し進めたいと思います。」

エアバスのノースアジア地域代表およびエアバス・ジャパン代表取締役社長であるステファン・ジヌー氏は次のようにコメント。

「世界では何十億もの人々が、ネットワークへの接続が不安定な環境にいたり、あるいは接続できない状況による問題を抱えています。今回の実証実験によって、成層圏を活用したゼファーがこの格差を解消し、基地局やインフラ整備の必要なく、デバイスに直接接続できることが証明されました。」

なお、今回の伝搬試験に関しては、2021年11月16日から4日間一般公開(オンライン)する「NTT R&D FORUM Road to IOWN 2021」でも紹介予定であるとのことだ。