最近よく聞く「メタバース」とは?

海外テックメディアでは最近「メタバース」という言葉が頻出するようになっている。これは仮想共有空間を意味する言葉で、バーチャルリアリティ(VR)の進化系と捉えられるものだ。

一般的にVRは、ユーザーが個別独立した空間で様々な体験を得るのに対し、メタバースは、多数のユーザーが仮想共有空間で同じ事象を体験するという違いがある。

たとえば、VRの代表的なものとして人気VRゲーム「ビートセイバー」が挙げられるだろう。ビートセイバーの仮想空間は、基本的にユーザー個人のみが体験するものであり、他のVRユーザーは別の仮想空間を体験する。

一方、メタバースの代表例としては、人気オンラインゲーム「フォートナイト」が挙げられる。多数のユーザーが仮想共有空間で、同じ事象を体験する。

人気ゲーム・フォートナイト

しかし、厳密にはフォートナイトの世界は完全なメタバースとは呼べない。なぜなら、同一の仮想空間を共有できる人数に制限があるからだ。

CBInsightによると、フォートナイトで2020年にトラビス・スコット氏のバーチャルコンサートが開催され、このとき同時接続数は1230万人に上ったが、この1230万人が同一の仮想空間を共有していたわけでではないという。このとき、2万5000個の仮想空間に分けられ、各仮想空間に50人ずつが参加する形となっていたのだ。

メタバースの理想形は映画「レディ・プレイヤーワン」に登場する仮想共有空間といえるだろう。

このメタバースの主導権をめぐる動きが活発化しつつあり、関連企業の買収や合併が今後増えてくることが予想されている。

メタバースをめぐる競争、フォートナイト開発企業がけん引

注目企業の1つは、上記フォートナイトの開発企業エピックゲームズだろう。

同社ウェブサイトでは「メタバース」という言葉が登場するようになっており、そのメタバース実現に向けた動きを本格化させている。

直近では、エピックゲームズによる世界最大規模の3Dモデル・プラットフォーム「Skechfab」の買収が同社のメタバース構築に大きく関わる動きとして注目されている。買収が発表されたのは、2021年7月21日だ。

Skechfabは、一般的には知られていないが、ゲーム開発業界やCG業界では広く名の知れたプラットフォームだ。クリエイターが制作した3Dモデルやフォトグラメトリーによって再現された3Dオブジェクトを購入できるプラットフォームで、ゲーム開発企業などで重宝されている。

エピックゲームズもSkechfabの買収発表で、同プラットフォームがメタバースの構築に寄与すると言明している

Sketchfabがメタバース構築にどのように寄与するのか。

冒頭でメタバースの理想形が映画「レディ・プレイヤーワン」に登場する仮想共有世界であると述べた。この仮想共有世界は、家、車、椅子、ロボット、岩、動植物などあらゆるものが3Dモデルやオブジェクトで成り立つ世界。この仮想世界を構築するためには、現実世界のありとあらゆるものを3Dモデル化・オブジェクト化する必要がある。

その作業が膨大になるということは想像に難くない。そこで、Skechfabという世界最大級の3Dプラットフォームを買収し、多くのクリエイターらを囲い込み、その膨大な作業を進めようとしていると思われる。

エピックゲームズはSkechfabのほかにも、2019年11月にフォトグラメトリーのスタートアップQuixelを買収しており、メタバース構築に向け着々と足場を固めている。

Quixelが強みとするフォトグラメトリーとは、現実世界にある任意の物体を複数の写真から3次元に変換する手法・技術のこと。QuixelのMegascanライブラリーには、本物と見間違えるほど精巧にできた樹木や岩などの3Dオブジェクトが多数収納されており、エピックゲームズが提供しているUnreal Engineのユーザーは無料で使用することが可能だ。

Quixelの3Dアセットは、木々や草、岩や小石など背景に使えるものが多い。一方、Sketchfabでは、自動車などの乗り物、人物、動物などが多く、相互に補完しあう存在といえる。

エピックゲームズは、SketchfabとQuixelのそれぞれの強みを生かし、メタバース空間の構築をすすめる構えなのだろう。

このほか、メタバースに必要となるアバター制作向けのメタヒューマン技術や現実世界の地理空間データをUnreal Engineに取り込むための技術を開発するなど、様々な方向からメタバース構築に向け動いている。

メタバースにおけるソニーの立ち位置

エピックゲームズの最大株主は創業者兼CEOのティム・スウィーニー氏だが、これに次いで中国テンセントが40%ほどの株を所有している。

しかし、中国本国ではゲームを麻薬扱いしたり、テック企業に対する締付けが厳しくなっており、テンセントのプレゼンスが今後維持されるのかは不透明だ。

メタバースという観点では、ソニーとエピックゲームズの関係がさらに深まると予想するのが妥当かもしれない。

ソニーは2020年7月に2億5000万ドル(約274億円)、2021年4月に2億ドル(約220億円)をエピックゲームズに投じており、資本関係を強化している。

資本関係だけでなく、エピックゲームズの最新ゲームエンジンUnreal Engine5とプレイステーション5の連携など、技術面での関係も強くなっている印象がある。

さらにハードウェア観点からメタバースの実現を考えると、プレイステーション5のようなハイスペックなゲーム機とVRヘッドセットが必要となる。VRヘッドセットについては、ソニーがプレイステーションVRの第2世代を開発していると報じられており、近い将来プレイステーションVRでメタバースを体験する日がやってくることになるのかもしれない。

メタバースはVRやAR技術と深く関連することから、VRヘッドセット・オキュラスを開発するフェイスブックやARグラス開発が噂されるアップルなどGAFAMの本格参戦も十分に有り得る。また、エピックゲームズの競合となるゲームエンジンUnityも黙って見ていないはず。

2015年前後からVR/ARという言葉が広がり出したように、2021年以降はメタバースという言葉がテック業界のキーワードになっていくのだろう。メタバースをめぐるエピックゲームズやソニー、そしてGAFAMの動きから目が離せない。

文:細谷元(Livit