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かつて「不良」や「ヤンキー」というイメージを持たれていたスケートボードだが、今年の東京オリンピックにおける競技採用と日本人選手の活躍で、そのイメージは大きく刷新されたといえるだろう。
イメージ刷新に伴う波及効果は、オリンピックが終わった後もしばらく続くことが見込まれる。
波及効果の1つとして挙げられるのが、スケボーと教育の関係強化だ。
特に海外の大学において、スケボー環境の整備やスケボー選手への奨学金拡充などの取り組みが増えてくることが期待されている。
現在進行中の具体的な取り組み事例から、スケボーと教育がどのように結びついていくのか、その未来像をのぞいてみたい。
スケボー選手にフルスカラーシップを提供した世界初の大学
米国などでは、バスケットボールや野球で優秀なスポーツ選手が奨学金を得て大学に進学するケースは少なくないが、スケボー選手が同等の扱いを受けてきたとは言い難い。
この状況は、オーストラリア・シドニー大学の取り組みを発端に大きく変わってくるかもしれない。
日本でもおなじみのタイムズ・ハイヤー・エデュケーションが毎年発表する大学ランキングにおいて51位という世界トップクラスのシドニー大学では、スケボー選手にフルスカラーシップを給付するという取り組みがなされている。
地元オーストラリアだけでなく、世界でも初の試みといわれており、追随する大学が出てくるのではないかと注目されている。
フルスカラーシップを受けたスケボー選手の1人ミッキー・メンドーサ氏は、スケボーメディア「BoardWorld」でこの出来事の革新性について語っている。
メンドーサ氏が獲得したのはシドニー大学がトップアスリートに給付している「The Elite Athlete Scholarship」。このスカラーシップはオリンピック出場が期待されるアスリートに給付されるもの。
実際、同スカラーシップを受ける30名ほどの選手がリオ・オリンピックに出場し、いくつかの金メダルを獲得したという。
東京オリンピックでスケボーが新種目に採用されたこと、またメンドーサ氏の能動的な働きかけがあり、シドニー大学は世界で初めてフルスカラーシップをスケボー選手に給付した格好となる。
同スカラーシッププログラムでは、アスリートが勉学とスポーツを両立できるよう様々なサポートが用意されている。
学費は全額免除、遠征試合などで1カ月ほどの時間を要する場合でも、それに応じた対応がなされるとのこと。このほか、数百万ドルが投じられた「ハイパフォーマンスジム」へのアクセス、パーソナルトレーナー、栄養士、スポーツ心理学者からのサポートも受けられるという。
メンドーサ氏は、シドニー大学のこの試みは他の大学にも波及するだろうと予想している。その理由は、スケボーを受け入れる大学は若い世代にとって「クール」に映り、高校生らの注目を集めることができるからだ。
現在、世界の高等教育産業は「大学不要論」や「大学間競合の激化」などいくつかの課題を抱えている。スケートボードの導入はこれらの課題を幾分か緩和できる可能性があるのだ。
実際、大学の直接的な取り組みではないが、英南東部のケントでは若い世代の関心を集めるための大型スケボーパーク「Folkstone51」の建設が進行中で、2021年中に開業する予定だ。
学校に行かない「不良」から「高学歴」なイメージとなるスケボー
一方、米国では非営利団体「The College Skateboading Educational Foundation(CSEF)」による、スケボー選手に大学の奨学金を一部給付する活動が2018年から開始されている。
CSEFの取り組みを見てみると、スケボーが昔のいわゆる学校に行かない「不良」のイメージではなく、むしろ高学歴なイメージを持ちつつあることがうかがえる。
同団体のウェブサイトには2020年の就学金授与者と大学名が記載されている。
たとえば、奨学金授与者の1人マディー・ブラウン氏は、ワシントン大学・数学科の博士課程に進学することが決まっている。一方、ギアマクロ氏は、テキサス工科大学・物理学博士課程に進学する予定だ。このほか、都市計画学・修士課程や整骨医学部などへの進学者が名を連ねている。
大学スケボー導入論、「インクルーシブネス」や「多様性」を実現するスケボー
こうした流れを受け、大学はスケボー導入を真剣に検討すべきだと主張する論者も現れている。
その1人が英エクセター大学で社会学・哲学・人類学の講師を務めるポール・オコナー氏だ。
オコナー氏は、タイムズ・ハイヤー・エデュケーションへの寄稿記事の中で、オリンピックにおけるスケートボード採用やシドニー大学などでの取り組みに触れ、特に英国の大学はスケボー導入を真剣に検討すべきとの主張を展開。
若者に注目されるという側面だけでなく、スケボーが年齢・人種・性別を超越して楽しまれている性質から大学の「インクルーシブネス」や「多様性」を高める機会になると指摘している。
タイムズ・ハイヤー・エデュケーションは、高等教育機関の人々が多く目を通していると思われるメディアであり、オコナー氏のこの主張は各大学において議題となっている可能性は高く、今後スケボー施設の拡充や奨学金提供などの取り組みを始める大学が増えてきても不思議ではない。
東京オリンピックでの日本人選手の活躍により「お家芸」になるのではないかといわれるスケボー。日本の大学ではスケボーがどのように捉えられ、どのような取り組みが登場するのか、今後の動きに注目したい。
文:細谷元(Livit)