INDEX
数カ月前に日本で話題となった音声SNS「クラブハウス」。
このクラブハウスの登場は、音声SNS/音声マーケティングという新しい分野の台頭を物語る事例の1つといえる。
フェイスブックやツイッターなどのSNS大手だけでなく、イケアやBMWなどのブランド企業においても音声は重要な資産と捉えられ、音声関連の施策が続々登場しているのだ。
消費者市場でのスマートスピーカーの普及などがその背景にあると思われる。
市場調査会社Canalysの2020年10月のレポートによると、2021年世界のスマートスピーカー出荷数は1億6300万台と前年比で21%増加する見込みだ。2020年時点における、世界全体のスマートスピーカー設置台数は3億2000万台。出荷数は今後も右肩上がりで伸びていき、2024年には累計設置台数は6億4000万台に拡大すると予想している。市場シェアの大半は、アマゾン・アレクサとグーグルアシスタントで占められている。
こうした予測のもと、SNS大手やブランド大手がどのような音声取り組みを実施しているのか、その最新動向を探ってみたい。
フェイスブックの音声ライブQ&A機能「Hotline」
テキストと映像コンテンツが主であったフェイスブックは現在、音声ライブQ&A機能の試験を実施中だ。
ロイター通信(2021年4月8日)によると、フェイスブックは音声ライブチャット新機能「Hotline」の公開試験運用を開始。健康や金融分野などの専門家/インフルエンサーとのQ&Aを想定したライブチャット機能だ。
現在、日本でもYouTubeのライブチャット機能を活用しQ&Aセッションを行っているインフルエンサーは少なくないが、Hotlineはその音声版のような立ち位置になるのだろう。
HotlineでのQ&Aセッションは自動で録音され、ホストはそのコピーを入手することができるという。現在のところ、リスナー人数に制限はない。マネタイズの方法はまだ明らかにされていない。
ツイッターの音声機能「Spaces」、タブの位置から分かる重要性
ツイッターのライブ音声機能「Spaces」に関して、この数カ月様々な憶測が飛び交っており、その動向に関心を寄せている人は多いはずだ。
ツイッターは当初クラブハウスの買収で40億ドル(約4400億円)という額を提示していたといわれている。この提示額からも音声機能に対する力の入れ具合を知ることができる。
別のポッドキャストスタートアップBreakerの買収によって、ツイッターはSpaces機能の開発を加速。現在、一部のユーザーを対象に試験運用を実施しているようだ。
TechCrunch2021年6月4日の記事によると、Spacesタブはツイッターアプリのナビゲーションバーの中央に配置されており、同アプリの中核的な機能として捉えられていることが明らかになっている。
フェイスブックやツイッターのほか、ビジネスSNSのリンクトインも音声によるネットワーク機能を強化する計画だ。TechCrunchは2021年3月30日、リンクトインがソーシャルオーディオ機能の試験運用を実施していることを認めたと報じている。
イケアは紙カタログの廃止し、音声カタログ配信へ
SNS大手だけでなく、グローバルブランド企業の音声施策も増えてきている。
スウェーデンの家具大手イケアは、紙カタログの発行終了とともに、音声カタログの配信を開始。
ロイター通信によると、イケアの紙カタログは1951年に発刊され、ピーク時の2016年には年間2億部以上が配布される人気の媒体だったが、コロナ禍のオンライン購入急増を受け、紙カタログを廃刊。2020年8月末までの1年間でオンライン販売は45%も増加、またウェブサイトやアプリ、SNSの利用が大幅に増えたためだという。
2021年からは、オンラインと音声カタログを参考に購入検討することがスタンダードになるようだ。
いくつかの海外メディアによると、イケアの音声カタログは、YouTube、Audiobooks、Spotifyで聴けるとのことだが、2021年7月9日時点で確認できるのはSpotifyのみ。Spotifyでは、イケアUSとイケア・イタリアの音声カタログを聴くことが可能だ。
イケアのほかには、英テッドベーカーがファッションブランドとして世界で初めてクラブハウスで音声コンテンツ配信を開始したことが話題となっている。英国文化やファッションに関するトークを通じてファンの獲得を狙うようだ。
紙媒体であるニューヨーク・タイムズがポッドキャスト取り組みを開始し、2020年同社全体の広告収入が20%減少した中でも、ポッドキャスト部門の収益は3600万ドル(約40億円)と前年から700万ドル増加するなど、音声シフトが奏功した事例は増えてくることが見込まれる。
今後SNS企業やブランド企業からどのような音声施策が飛び出てくるのか、非常に楽しみなところだ。
[文] 細谷元(Livit)