消費者の環境意識の高まりを無視できない高級リゾート

気候変動やごみ問題などによって自然環境破壊が進む昨今、世界中の消費者の環境意識は高まりを見せている。特にパンデミックをきっかけに、その傾向はさらに高まったようだ。

マスターカードがYouGovを通じて2021年1〜3月24カ国を対象に実施した消費者調査では、2021年には環境やサステナビリティに関する問題に対し、個人的にアクションを起こしていくと回答した消費者の割合は85%に上ったことが分かった。

こうした消費者動向を受け、多くのブランド企業は、サステナビリティ/ESGに関する取り組みへの投資を加速させている。アップルの2億ドル規模の森林保全・再生取り組み「the Resotre Fund」やアマゾンによる10億ドル規模のクリーンテック投資イニシアチブ「ベゾス・アース・ファンド」など枚挙にいとまがない。

消費者の環境意識の高まりは、高級リゾートのビジネスのあり方も変えようとしている。

いくつかの先進的な高級リゾートホテルは、科学者とのコラボレーションによる環境取り組みを開始しているのだ。

フォーシーズンズ・ハワイ、海洋生物学者とのコラボで環境学習促進

ハワイにあるフォーシーズンズ・リゾート・フアラライは、海洋生物学者デビッド・チャイ氏とのコラボレーションで、ホテル内にある池「King’s Pond」での海洋教育取り組みを実施している。

180万ガロン(約680万リットル)の巨大な池の中に海洋生態系が再現されており、宿泊者は隣接された海洋センターでレクチャーを受け、池で実際に泳いで、海洋生態系を学ぶことができるという

フォーシーズンズ・リゾート・フアラライの「King’s Pond」(フォーシーズンズ・プレスキットより)

デビッド・チャイ氏は、ハワイの海洋資源保全の活動に注力する海洋生物学者。かつてハワイで無計画な漁業によって漁獲量が大きく減少する事態が起きたが、チャイ氏はコミュニティ、環境保全団体、地主などの協力を得て、魚の数の調査とそれに基づく海洋資源管理計画を作り上げた人物だ。

King’s Pondには、1000匹の熱帯魚が生息。チャイ氏と他6人の海洋生物学者が管理している。

フォーシーズンズ・モルディブはウミガメの保護・リハビリに注力

フォーシーズンズは、ハワイ以外でも積極的に海洋生物学者とのコラボレーションを進めている。

フォーシーズンズ・リゾート・モルディブでは、海洋生物学者らとともにウミガメの保護やサンゴの修復など海洋生態系保全のための様々な活動を実施。「タートル・リハビリテーション・センター」を設置し、ウミガメのリハビリを行うなど、他のホテルでは見られない積極的な活動を行っている点に注目が集まっている。

ウミガメがボートと接触したり漁業用の網にひっかかり怪我をするケースは少なくない。また、海に浮かぶプラスチックを餌と間違え飲み込む事故も増えている。

2010年、フォーシーズンズ・ランダギラーバル近くの海で、前ヒレを失くしたウミガメが発見された。このときフォーシーズンズの海洋生物学者らは、専門家の指示のもと、このウミガメのリハビリを開始。その数カ月後には、頭をケガした2匹目のウミガメが同ホテルに運び込まれた。宿泊者の寄付によってリハビリ用の施設が建設され、それがモルディブ初の「タートル・リハビリテーション・センター」となった。

このリハビリセンターの開設を機に2010年以降、フォーシーズンズはウミガメの保護・リハビリ活動を加速。これまでに、277匹のウミガメを保護、そのうち155匹のリリースに成功している

フォーシーズンズ・モルディブのウミガメ・リハビリセンター(フォーシーズンズ・プレスキットより)

ハイアット・リージェンシーはNASAのアンバサダーと宇宙学習でコラボ

フォーシーズンズのほかにも、科学者らとのコラボレーションを行う高級リゾートはいくつか存在する。

ハイアット・リージェンシー・マウイ・リゾート&スパでは、NASAのアンバサダーを務めるエドワード・マホニー氏とのコラボレーションで、宇宙や星座について学べる宿泊パッケージの提供を開始する。パッケージ価格は、5泊で9995ドル(約110万円)。

一方、米フロリダにあるリゾートホテル「キンプトン・ヴェロビーチ・ホテル&スパ」でも、地元の天文学者らとの提携で、星空を見ながら宇宙のことを学べるツアーを開始する計画だ。

言葉の持つ意味は時代とともに変化することが多々ある。「ラグジュアリー」という言葉は、これまで嗜好品など「贅沢なモノ」を指すことが多かったが、これら高級リゾートの取り組みは、ラグジュアリーの定義がモノから経験・科学・自然環境などにシフトしているように思わせるものだ。

消費者の環境意識の高まりによって、上記事例のような取り組みは今後も増えていくことになるのではないだろうか。

文:細谷元(Livit