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Z世代の大学選定基準
企業の評価において、SDGsやESGという軸の重要性が増しているが、この傾向は企業以外にも波及し始めている。
大学においても、SDGsは無視できないトピックとなっているのだ。
「大学ランキング」で知られるタイムズハイヤーエデュケーション(THE)は2019年、世界各地の大学のSDGsに関する取り組みを評価し順位づけする「インパクトランキング」の公開を開始。
既存の大学ランキングと並びメディアでも話題となることが増えており、大学の知名度や学生獲得などに影響を及ぼす可能性が高まっている。
実際、Z世代においては、2019年の「気候変動ストライキ」に見られるように環境問題やサステナビリティ問題への意識が高く、THEがZ世代を対象に実施した意識調査でも、Z世代の多くが大学選びでは各大学のサステナビリティへのコミットメントが意思決定に影響すると回答したことが判明している。

また同調査では、大学セクターが教育を通じて学生に対しサステナビリティの重要性を伝えるべきと考えるZ世代の割合は82%、国連SDGsイニシアチブにおいて大学セクターも重要なステークホルダーの1つと考える割合は79%と、Z世代のほとんどが大学にサステナビリティ諸課題でなんらかの取り組みを求めていることが明らかになった。
各大学では、サステナビリティ関連の取り組みを実施していると思われるが、すべての大学のウェブサイトや関連レポートを調べるのは非常に難しく、評価もしづらい。
統一され標準化されたランキングは、多くの学生にとって進路選びの参考に役立つはず。大学側にとっては、上位にランクインできれば、学生獲得で優位に立てることになるのだろう。
そんなインパクトランキングだが、2021年の最新版がこのほど発表された。評価対象となったのは94カ国1117大学だ。
上位にはどのような大学がランクインしたのか。
1位は英マンチェスター大学で、SGDs総合指数は98.8ポイント。
以下トップ10には、2位豪シドニー大学(97.9)、3位豪RMIT大学(97.8)、4位豪ラ・トローブ大学(97.3)、5位カナダ・クイーンズ大学(97)、6位デンマーク・オールボー大学(96.1)、同6位豪ウーロンゴン大学(96.1)、8位アイルランド・カレッジコーク大学(96)、9位米アリゾナ州立大学(95.8)、同9位ニュジーランド・オークランド大学(95.8)がランクインした。
ランキング算出方法、マンチェスター大学が強い理由
インパクトランキングはどのような方法で算出されているのか、そのメソドロジーを見てみたい。
SDGsには17の目標がある。同ランキングでは、各目標に関するテーマで執筆された論文数やSDGs課題に対する取り組みなどから、大学のSDGsに対するコミットメントを測っている。
論文データは学術系世界最大の出版社Elsevierが提供、それをAIを使って分析・評価。取り組みに関しては、大学が提出したエビデンスを確認し、評価を行っている。
ランキング総合指数は、各大学のSDGs指数上位3つとSDGs目標17「パートナーシップで目標達成」を数値化した指数の計4つの指数によって構成されている。つまり複数あるSDGs指数のうち、各大学の得意分野のものが参考にされ、そこに目標17の指数が加味され、総合指数が算出される仕組みとなっている。比重は、目標17の指数が22%、残り3つがそれぞれ26%。
インパクトランキング1位となったマンチェスター大学の総合指数は98.8。目標17の指数は95、このほか目標12「つくる責任、つかう責任」が94.9、目標11「住み続けられるまちづくり」が94.2、目標9「産業と技術革新の基盤をつくる」が99.1という構成だ。

一方、2位のシドニー大学では、目標17が95.4、目標6「安全な水とトイレ」が91.3、目標15「陸の豊かさを守る」が93.3、目標11「住み続けられるまちづくり」が90.8という具合だ。
マンチェスター大学は同大学ウェブサイトで、SDGs関連の取り組みを紹介するページを設け、その内容を紹介している。おそらく、他大学もSDGs取り組みを強化する上でこのページを参考にしているはずだ。
同ウェブページによると、過去5年間でSDGs関連の研究論文は2万1571件発表されているが、そのうち英国全体の4%をマンチェスター大学発の論文が占めているという。同大学が注力する研究分野は、先端素材、がん治療、エネルギー、グローバル格差、バイオテクノロジーの5分野。
インパクトランキングで考慮される論文以外の取り組みも積極的に行っているようだ。学生向けには、単位取得ができるSDGsトピックの講義を提供したり、エシカル教育やボランティアを促進するプログラム「Stellify」を実施したりしている。
参加大学数は前年比大幅増、認知度高まるインパクトランキング
同ランキングの作成を支援したVertigo Venturesは、2021年インパクトランキングで特筆すべき点を挙げている。
まず、インパクトランキングに参加する大学が急速に増えているという点だ。今回で3回目となる同ランキング、参加大学数は前年比で30%も増加したという。
一方、大学のSDGsの注力分野で偏りがあることが判明。全体的にSDGs目標9「産業と技術基盤をつくる」の評価が高かった一方で、目標13「気候変動への具体的な対策」の数値は振るわなかった。Vertigo Venturesは、気候変動に関して、ネットゼロなど大学の積極的な取り組みが強く求められると指摘している。
1位のマンチェスター大学はこの点抜かりがない。同大学では、2038年までに二酸化炭素排出ゼロを公約。また2020年までに2007年比で二酸化炭素排出量を40%削減する中期目標を設定し、2018〜19年度すでに37%の削減に成功したという。
ESG投資やクリーンテック産業が急速に拡大している状況を鑑みると、サステナビリティ問題に対する意識とスキルが高い人材を多く輩出できる大学の評価はこの先高まっていくことが見込まれる。それを実現するには、大学そのものがSDGsへの取り組みを本格化させ、優秀な学生を獲得することが必須となる。
インパクトランキングの認知度の高まりとともに、学生の大学選びや大学の取り組みはどう変わっていくのか、今後の動向が気になるところだ。
文:細谷元(Livit)