サンフランシスコのベイエリアで不動産価格が下落。富裕層の地方への移住が顕著に

コロナ禍における都市部でのロックダウンやリモートワークの推進により、人口密度が高く生活費も高い都心からの人口流出が続いている。

2020年3月以降、労働人口の60%がリモートで働くアメリカでは、特にこの傾向が顕著だ。カリフォルニア州では、賃料の高いベイエリアで生活していた富裕層が、郊外やリゾート地・地方などの準郊外に移動する傾向が目立っている。

テック企業の集積で有名であるベイエリアやマウンテンビューの賃貸価格は、コロナウイルスの影響で2020年に20%以上下落(例年比)。逆に、リゾート地として知られるランチョクカモンガ(Rancho Cucamonga)はベイエリアからの人口流入で13%以上賃貸価格が上昇するなど、今までにない大きな不動産価格の変動が起きている。

人気の高まる山間部のランチョクカモンガは、ロサンジェルス から東に1時間の準郊外(写真:https://www.cp-dr.com/articles/the-rise-zoomtowns

リゾートや地方などの地域に移住できるのは、オンライン会議ツール「Zoom」などを使用して仕事をする、場所に縛られないリモートワーカーだ。そのため、人気の集まるこれらの地域は「Zoom Towns(ズーム・タウン)」と呼ばれ始めている。

ズームタウン現象により、これからの住まいや働き方のあり方は、どう変化していくのだろうか。

Zoomで働くリモートワーカーたちが目指す「準郊外」

ズームタウン化しているのは、都心へのアクセスが良い郊外に留まらず、山や湖などに隣接したリゾートや自然あふれる地方などに多い。郊外よりもさらに離れた場所に広がる裕福なエリアは、一般的に「準郊外」と呼ばれる。

Redfinのデータによると、2020年の平均的なアメリカの住宅価格の上昇率は、都心が6.7%、郊外が9.2%に対し、田舎・地方に位置する準郊外で11.3%となった。

2021年に人気を集める移住先リスト(同社)では、1位、3位、10位がカルフォルニアのリゾート地であるタホ湖、ビッグベア湖、マウンテンハウス。ビーチリゾートで有名なヒルトンヘッドアイランドやポコノ山地では、2020年には30%の不動産価格上昇を記録した。準郊外への注目が高まっていることが分かる。

ズーム・タウン化が進むサウス・レイク・タホ(写真:Planetizen

人気の地域の基準としては、住宅価格や物価、治安、天気や医療施設の充実度なども関係しているようだ。これらの要素のバランスを踏まえ、アリゾナ州ギルバート、ノースカロライナ州ケーリー 、テキサス州フリスコなども、リモートワーカーに最適な移住先として紹介され始めている。

転出者が相次ぐ首都圏。東京一極集中の転機か

日本も例外ではない。

東京都では、2020年から転出者が転入者を上回る転出超過が続いている。新型コロナウイルスの感染拡大で、緊急事態宣言や企業のリモートワーク導入が進んでいることが背景だ。

東京では、地方からの人口流入が戦後から連綿と続いてきた。しかし、総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、緊急事態宣言発令後の2020年5月以降、他の道府県への転出が転入を上回る「転出超過」に転じている。

また、国土交通省は先日、地方へ移住し省エネ性能に優れた住宅を購入した人に対して、家電などと交換可能なポイントを付与する「グリーン住宅ポイント」制度を創設することを発表。新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいる住宅需要の喚起にあわせ、地方への移住を促進している。

LIFULが2021年2月に発表した首都圏エリアの「2021年 LIFULL HOME’S 住みたい街ランキング」によると、賃貸の1位は「本厚木」、購入の1位は「勝どき」。「八王子」「柏」「橋本」「平塚」など、リモートワーク化に対応しながら新型コロナ感染回避もイメージさせる準近郊・郊外も上位に登場するなど、首都圏内だけでも郊外への人口移動が見込まれている。

地方への転出が進む現在の傾向は、東京一極集中の是正につながる可能性があるとして注目される。今後、日本でも移住者獲得競争と不動産価格の変動が見込まれそうだ。

パラダイムシフトか、単なる別荘か。これから人気を集める都市の条件

もちろん、ズーム・タウンへの急速な人口流入には課題もある。住宅価格高騰、従来の住民との賃金価格の格差、混雑や公共交通機関の不足など、アメリカではさまざまな課題が議論され始めている。

写真:Unsplash

アメリカのユタ大学は、山や湖から10マイル以内、都心から15マイル以上離れた人口25,000以内の小さな地方の公務員を対象にインタビュー調査を実施。回答者の80%以上が、これらの地方における住宅価格と物価の高騰を心配していることが分かった。

土地区分の整備やインフラ設備の拡充、賃料上昇率に上限を設けるレントコントロールなど、流入人口を支える計画整備を急ぐ必要がある。ユタ大学は、この調査の結果をもとに、人口が増えズーム・タウン化するこれらの地域が取り急ぎ参照できる都市計画ツールキットを開発中だ。

Gallupの調査によると、現在リモートワークを行うアメリカの労働者の3分の2が、パンデミック収束後もリモートワーク継続を望んでいることが分かった。リモートワークの興隆による都市部と地方の不動産価格の変動は、今後も続いていくことが予想される。

一方で、都会に暮らす富裕層が、リゾートや地方に別荘として不動産を持つという現象自体は、決して新しいものではない。パンデミック収束後、ズーム・タウンからまた都会への流入が起こるかどうかは、今の段階では予測が難しい。

人気の高まるズーム・タウンが準郊外を活性化させ、それが私たちのライフスタイルや働き方にどう影響をおよぼすか、これからも動向をウォッチしていく必要がありそうだ。

文:杉田真理子
編集:岡徳之(Livit