予想よりも10倍以上ひどい海洋プラスチックごみ問題

この数年、国内外では「プラスチックごみ問題」への関心が急速に高まっている。

国内のメディアや研究団体による自然/海洋プラスチックごみ汚染に関する報道/レポートが増えていることがその背景にあると考えられる。

2016年、エレン・マッカーサー財団は、このままプラスチックごみが海洋に流出し続ければ、「2050年には魚よりもプラスチックの方が多くなる」というセンセーショナルなレポートを発表、多数のメディアがこのレポートを報道し、多くの人々の関心を集めた。

同レポートによると、レポート発表時点のプラスチック・パッケージの年間生産量は7,800万トン。このうちリサイクル用に収集されているのは14%で、最終的に「クローズドループ・リサイクル」されるのは2%のみ。残りはどこに行くのか。もう14%は焼却処分され、40%が埋め立て処分される。そして、残りの32%が河川などに流出し、海洋に流れ出ているという。

海洋に流れ出るプラスチックごみの量は、少なくとも年間800万トン。毎分トラック1台分のプラスチックごみが海に捨てられていることになる。プラスチック・パッケージの生産量は今後も増加することが見込まれており、このままいけば2030年には毎分トラック2台に、2050年には毎分4台に増加する可能性もあると指摘している。

一方、2020年8月に学術誌Nature Communicationsでは、大西洋のプラスチック汚染が想定されているより10倍以上酷い可能性があると指摘する論文が公開され、Guardianなどの大手メディアが報道した。こうした情報も手伝い、プラスチック問題への危機意識は一層高まっているように思われる。

喫緊課題として認識されつつあるプラスチックごみ問題。その解決には、大きく3つのアプローチが必要となる。1つ目はプラスチックごみの収集・リサイクルの徹底化。2つ目は、プラスチック消費量の削減。そして3つ目がプラスチックに代わる素材の開発だ。

プラスチックリサイクルと消費削減に関するトピックは、多くのメディアが扱っているところ。本記事では、3つ目のトピックに焦点を当ててみたい。

サステナブルなパッケージ・アパレル素材・人工肉に変わる「万能きのこ」

プラスチックに代わる素材に関して「生分解性プラスチック」という言葉をよく聞くのではないだろうか。微生物によって分解されるプラスチックと定義されるこの素材は、生物資源由来のものと、石油資源由来のものがあり、前者はでんぷんや糖を原料とするものが多いといわれている。

これらでんぷんや糖を使った従来の生分解性プラスチックは、原料が生物資源であることから、埋め立てられても微生物に分解され、ごみとして溜まることはないという利点がある。一方で、耐久性や機能性が劣るという欠点があり、その用途は非常に限定的となっている。

この欠点を補う特性をもつ生物由来の素材が今、ブランド企業、パッケージ産業、ファッション産業などで関心を集めている。

それは「きのこ」を由来とする素材だ。

最新のバイオテックは、きのこの本体である「菌糸体(mycelium)」を用い、パッケージ、人工皮、アパレル素材、建材、さらには人工肉まで生成することを可能にしており、すでにこのテクノロジーを活用したいくつかのスタートアップがきのこ由来の素材を大手企業に提供し始めている。

ニューヨークを拠点とするEcovativeは、人工肉/人工皮からパッケージまで幅広いきのこ素材を開発。同社のきのこ素材ブランドの1つ「MycoFlex」は、その柔軟性と耐久性から、人工皮プロダクトやスキンケア用スポンジ、さらには靴などに活用されている。同社はこのほか、家で100%堆肥化できるきのこパッケージ素材「MycoComposite」、きのこ由来の人工肉「Atlast」を開発。Ecovativeのウェブサイトにある「過去と現在のパートナー企業」には、IKEAやDellなど大手企業の名があがってる。

人工肉Atlastに関してEcovativeは2019年、人工肉に特化した企業Atlast Foodを同社からスピンオフさせている。The Bisiness Journals2020年6月の記事によると、Atlast Foodは食品業界の著名投資家らから700万ドル(約7億2,000万円)を調達したという。投資家リストには、ダノンに買収され今はフランスの多国籍乳製品企業Lactalis傘下のオーガニックヨーグルトブランド「Stonyfield Farm」の共同創業者の1人ゲイリー・ハーシュバーグ氏や米食品大手Hormelに買収された食肉企業Applegate Farmsの共同創業者ステンファン・マクドネル氏が名を連ねており、業界でも注目される存在になっている。

アディダスやグッチ、ルルレモンもきのこ素材に注目

2021年は、アパレル業界できのこ素材への関心が一気に高まる年となる可能性もある。

きのこ由来のアパレル素材を開発するBolt Threadsはこのほど、アパレル業界の大手プレーヤーとコンソーシアムを形成したのだ。これらの企業を中心に、2021年からきのこ由来の人工皮を活用した商品の流通が始まると見込まれている。

コンソーシアムに参加したのは、Stella McCartney、Lululemon、Kering(グッチなどの親会社)、アディダスの4ブランド/企業。いずれもアパレル業界で大きな影響力を持つプレーヤーであることから、この動きが業界全体に及ぼす影響も計り知れない。また消費者に広く認知されているブランドであることから、消費者のきのこ素材認知にも影響を及ぼすことも考えられる。

カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得した化学/生物学の専門家らが立ち上げたBolt Threads。現在、きのこ由来の人工皮素材「Mylo」に加え、きのこ由来の人工繊維「MicroSilk」、美容液などに活用できるきのこ由来のたんぱく質素材「B-Silk」を提供している。

アパレル業界においては、動物福祉や環境汚染の観点から「天然皮革」「人工皮革」ともに批判されることが増えており、アパレルブランドにとってきのこ由来の人工皮は、ネガティブなイメージを払拭する上で重要な役割を果たすことになるかもしれない。

きのこ素材の開発に携わる企業は上記の2社だけではない。きのこ由来の人工皮を開発するMycoWorks、きのこを使ったサステナブル建材を開発するRedhouse Architecture、きのこ由来の人工肉を開発するMeatiなど様々。きのこの可能性はどこまで広がっていくのか、今後の動向が気になるところだ。

[文] 細谷元(Livit

エレン・マッカサー財団
https://www.ellenmacarthurfoundation.org/explore/plastics-and-the-circular-economy

Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-17932-9

The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2020/aug/18/atlantic-ocean-plastic-more-than-10-times-previous-estimates

テレグラフ、IKEAのきのこ素材パッケージ利用報道
https://www.telegraph.co.uk/news/earth/businessandecology/recycling/12172439/Ikea-plans-mushroom-based-packaging-as-eco-friendly-replacement-for-polystyrene.html

The Bisiness Journals
https://www.bizjournals.com/albany/news/2020/06/04/atlast-food-plant-based-meat-investment.html