レザー業界に次々参入する「新素材皮革」

リンゴやサボテンから作った「レザーバッグ」に、シートやハンドルに「あえて」フェイクレザーを使用したテスラ、「コンブチャ」から作った「革靴」。

いまファッションに限らず皮革を扱ってきた業界のあちこちで、動物に替わるレザーの新素材の採用に乗り出す動きが出ている。

きっかけは、やはりヴィーガニズムだった。欧米を中心にサステナビリティへの配慮から動物性の原料を避けたり減らしたりするムーヴメントは、食に留まらずファッションや日用雑貨などにも波及した。その結果、経済/ビジネス的な意味でも動物以外の「レザー」の素材の選択肢を模索する企業が増えているのだ。

ファッション界ではすでに、バーバリー、ヴェルサーチ、ヒューゴボスといった少なからぬハイブランドが、ファーや動物性皮革からの脱却を表明している。

スエード部分も含めフェイクレザーのBURBERRYの子ども靴(公式サイトより)

需要の高まりに応え、従来のプラスチック製以外にも、様々な植物性原料でフェイクレザーを製造する試みがなされている。現在までに市場に参入しているのはリンゴの繊維、パイナップルの廃棄部分、さらに誤訳により欧米で「コンブチャ」として認知が広まった「紅茶キノコ(日本でも1970年代にダイエット食品としてブレイクした発酵飲料)」などからできている「レザー」だ。

あのテスラも潮流に乗る

欧米で高級電気自動車の代名詞となっている米テスラ社は、昨年発売したモデル3と今年発売したモデルYから、標準装備として動物性のレザーを一切排除したことを明らかにした

これはアメリカの動物愛護団体PETAからの圧力と新素材の開発の協力によるもの。2015年の株主総会で初めて提案された際にはほぼ即時却下だったが、CEOのイーロン・マスク氏はそれを機に動物性レザーからの脱却に敏感になったという。

オプションなどで非動物性素材のシートの提供を始めてからも、手汗や皮脂に絶えずさらされ摩耗するハンドルのカバーだけは耐久性の問題により本革の利用が続いていたが、加工技術の進展により昨年初めて「100%ヴィーガンモデルの電気自動車」をリリースした。

テスラ・モデルY(公式サイトより)

ちなみにPETAは、ゼネラルモータースやトヨタなどといった他の世界的な自動車メーカーにも同様の要請をしているという。

Z世代による国産の植物ベースレザーファッションブランド

そんな中、20代前半からのスタッフが集い、若年層向けの植物ベースレザーのファッションブランドを日本から発信しようと奮闘している会社がある。

LOVST TOKYO イメージ(公式サイトより)

2018年に設立され、動物やプラスチックなどを含まない「エシカル」なファッションを輸入し、日本市場にアピールしてきた株式会社LOVST TOKYO。現在輸入販売の枠を超えて、国産の非動物性レザー製品を国内製造・販売するオリジナルブランドを立ち上げるべく、クラウドファンディングを準備中だ。

代表の唐沢海斗氏は、アメリカの大学を終えた後、シリコンバレーで就職した。新しい文化の発信地のような当地で個人的に興味のなかったヴィーガニズムがあまりに普遍的に受け入れられていることに衝撃を受け、「体験の食わず嫌い」をしていた自分に気づく。そこで帰国後、「すべての価値観が共存できる文化」を目指し、消費者に「新しい価値観を体験してみるきっかけ」を提供するためのプラットフォームとして同社を設立したという。

代表とクリエイティブディレクターに話を聞いてきた

そんな爽やかな使命感を持つ若い会社のLOVST TOKYOのビジネスは実際のところどんな調子なのか、どんな壁があるのか、詳しく知りたくなったので話を聞いてきた。

代表の唐沢氏と、クリエイティブディレクターであるオランダ出身のAshley van Gool氏より、想像以上のまっすぐな目的意識と、想像以上に試行錯誤する彼らのありのままの姿が返ってきたので、以下にまとめたい。

唐沢氏(右)とVan Gool氏(左)(画像:本人提供)

ーーまず、なぜ植物性のレザーをビジネスに選んだのか教えてください。

唐沢:ポイントは3つ、動物と環境と品質のためです。僕たちは植物性レザーを「未来のレザー」と呼んでいるのですが、近年開発努力と技術革新によって、素材としての品質を急速に向上させています。

ーー実際のところ、今までのビジネスの手ごたえはいかがですか。

唐沢:オープン当初は、ファッションにも広がりを見せる「ヴィーガン市場」という文脈で新聞記事にも取り上げていただき、お客様から「こんなお店待ってました!」と嬉しいお声もいただきました。が、その一方で売り上げは思うように伸びず、日本ではまだまだニッチな市場でビジネスをしているんだなと日々実感しました。

また、自分たちの当初の目的は、まだヴィーガンを知らない人や新しい価値観・ライフスタイルに対して保守的思考を持った人へのきっかけ作りだったのにも関わらず、いつの間にかすでにヴィーガンである人に向けた事業展開になってしまっていたことに意気消沈したことを覚えています。

ーーなるほど。「ヴィーガニズムのような新しい価値観に触れてみるきっかけ作り」がしたかったのに、いつのまにか「ヴィーガン向けビジネス」になってしまったのですね。

唐沢:そこは自分たちでできなかったので、他の属性の顧客を抱えるブランドにやってもらおうと思い、2020年より思い切って非動物性素材の卸業に舵を切りました。SDGsという言葉がよく聞かれるようになったこともあり、誰もが知っている大手メーカーやブランドからの問い合わせも多く、「これだ!」と感じました。

ーーすごい。今は大手メーカーの顧客を多数抱えているのですね。

唐沢:それが全然。まだまだ日本は多くの企業が「なにかSDGsに関連したことをやらなきゃ」といった段階で、なかなか話を前に進められなくて。これでは結局、自分たちがやりたかったことができていないじゃないかとまたもどかしくなり、「だったら自分たちで世に出してしまおう、日本を代表するブランドになって世界で戦おう」とプライベートブランド展開を決意しました。

ーーブランドコンセプトやセールスポイントはどんな感じでしょうか。

唐沢:コンセプトは「Follow forms=形から入れ」です。

設立当初から、僕たちは様々な矛盾と戦ってきました。例えば、「アニマルフリーな未来のレザーだからと言って本当にエコなのか?」とか、「結局売れ残ってセール販売などしたら、使い捨てを招かないか?」など、考えれば考えるほど経済活動の中で直面する様々な矛盾に対して答えが出せず、日々心の葛藤が続きました。

ただ僕の中で、「人びとの価値観にイノベーションを起こしたい」という気持ちだけはどうしても諦めきれず…。悩みに悩んだその答えとして、新しいブランドを打ち出すことにしたんです。

コンセプトの「Follow forms」は、先ほどのとおり直訳すると「形から入れ」です。あまりいいイメージの言葉じゃないかもしれないですけど、僕たちの中ではもう吹っ切っていて。葛藤は色々あるけれど、僕たちはなにもしないことが一番ダメだと思っています。そのメッセージも商品に載せて販売していきたかった。とりあえず、創ってみるから、とりあえず、使ってみてよって。そこから感じること、気づくことはきっとある。そんな感覚です。

最後には、「自分で作ってみてよ」って、実は今、家で新素材を使ったレザークラフトが楽しめるサービス展開も考えて動いています。

ーーそこまで含めて消費者に「触れさせる」のですね。市場やターゲットはどのように読んでいますか。

唐沢:今後の畜産業の衰退を考慮すると、これまでは副産物として安価に取引されていた天然皮革の供給量が減り、本来の高級品に戻ることが想定されます。結果として、人工レザーの需要が高まり、素材の選択肢として一般的になってくるのではと。私たちはその市場をリードし、人びとのライフスタイルに新しい価値観を提案し続けるリーティングカンパニーでありたいと考えています。

Van Gool:国内にも新素材レザーを使っているファッションブランドはあるのですが、ターゲットの年齢層が高めな印象を受けています。私たちは、海外のブランドや新しい価値観に親和性のある日本の若い年齢層の人たちに手に取ってもらえるよう、彼らの年齢層に合ったデザインなどを提供したいと考えています。

これから開発予定の製品は、サボテンやトウモロコシなど、各種の非動物性レザーで制作します。商品第一弾として開発中のアップルトートバッグは、リンゴの繊維をアップサイクルして作られていますが、ミニマルなデザインで男女問わず普段使いできるデザインに仕上げました。

アップルレザーバッグプロトタイプ(画像:同社提供)

ーーなるほど。これからの課題はどんな点でしょうか。

唐沢:残念ながら、現時点では非動物性の素材のすべてが必ずしも環境負荷が動物レザーより少ないとは限りません。なのでやはり作って売って終わりではなく、長く使えるようにするための修繕の提供サービス(回収・修理)などのインフラ整備が第一の課題です。

あとは、素材自体をリサイクルできれば、理想的なサーキュラービジネスモデルになるのではと思いますが、現状こういった人工皮革をリサイクルするのは難しく、糸口を探っている状態です。でも、諦めないでそういう仕組みも作っていくので、僕たちの今後の挑戦と成長に期待してほしいです。

Van Gool:今取り扱っているアップルレザーはイタリアからの輸入品で、イタリア北部の果樹園で収穫され、規格を満たさないため廃棄される予定だったりんごをアップサイクル商品として生まれ変わらせています。ただ、縫製などの製造プロセスは「国内生産」にこだわっているので、いつか青森県など日本産のリンゴで廃棄予定のものを使用した植物性レザーを自社開発できたらいいなあと考えています。

アップルレザー(画像:同社提供)

ーー「青森産リンゴから生まれた『レザーバッグ』」ですか!楽しみですね。ありがとうございました。

強烈に印象に残る「希望」

定義にもよるがおおむね1990年代中盤以降生まれのZ世代は、停滞する経済や分断する世界、壊れゆく環境しか記憶に残っていないため、従来にない未来への危機感を持っているといわれる。その一方「SNSネイティブ」である彼らは、価値観の多様性に寛容で、発信や行動への敷居が低いとも。

インタビューに登場してもらったVan Gool氏は、子どものころにYouTubeで見たビジュアル系バンドをきっかけに日本に興味を持ち、Twitterで日本語を学び始めた生粋のSNSネイティブ。そして日本に移住してからの一人暮らしをきっかけに「自分が罪悪感を感じるものは食べなくていい」とヴィーガンになり、ファッションへの夢とサステナビリティへの信念のために日系企業の正社員のポストを捨ててスタートアップの同社にボランティアとして飛び込んだ、ぶれないZ世代でもある。

倫理的でフットワーク軽く、未来への不安とソリューションを迷いなく発信しつつ、それをあくまで様々な価値観のひとつとしてしか捉えていない視野の広さを持つ。

こんな新世代の彼らが担う同社で話を聞いてきて、ロスジェネで老婆心の塊のような筆者の心には、強烈な希望が残った。

彼らが「日本を代表するブランド」になって戦ってくれる日は、そう遠くないかもしれない。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit