メディアの歴史とソーシャルメディアの未来

世界で最もユーザーが多いソーシャルメディアといえば「フェイスブック」。2020年第3四半期時点の月間アクティブユーザー数は27億4,000万人に達した。

このフェイスブックを筆頭に、インスタグラム、YouTube、ツイッター、スナップチャットなど、米国のソーシャルメディアプラットフォームが世界市場を圧巻している状況。この状況が今後どのように変化していくのか気になる人は多いはず。

現状を鑑みれば、上記のソーシャルメディアのユーザー数は、世界人口の増加、またインターネット普及率の増加に伴い、さらに増加することが見込まれる。

しかし「メディア」の歴史を振り返ると、大手ソーシャルメディアのさらなる拡大と同時に、多様化が進むことも考えられる。世代、関心事、趣味などをベースとした新たなソーシャルメディアが台頭してくるということだ。

長い歴史を持つメディアの1つ、新聞においては、米国だけで1,200以上あるといわれている。ソーシャルメディアがそのような進化を遂げても不思議ではないだろう。ちなみに、米国で現存する最も古い新聞はコネチカット州の「Hartford Courant紙」、250年以上の歴史を持っている。

1764年創業の「Hartford Courant紙」ウェブサイト

欧州発のソーシャルメディア「Yubo」、英語圏Z世代に人気

実際、すでにソーシャルメディアの多様化の兆候は出てきている。欧州発のソーシャルメディア「Yubo」や元フェイスブック社員がローンチした「Cocoon」など、大手ソーシャルメディアとは異なるアプローチ/特性を武器に、新たなユーザーを獲得しているのだ。

Yuboは、27歳の起業家サチャ・ラジミ氏がフランス・パリで2015年にローンチしたソーシャルアプリ。現在、40カ国でサービスを展開しており、ユーザー数は4,000万人を越えたという。フランス発だが、ユーザーの半数以上は北米のユーザー。また、16〜21歳層が80%を占めるZ世代向けのソーシャルメディアとなっている。

Yuboはフェイスブックやインスタグラムとは異なるアプローチで、若い世代の人気を獲得している。Yuboにはフォロー機能がなく、フォロワー数などで定義されるインフルエンサーという概要も存在しない。見知らぬ同年代のユーザーどうしが、シンプルかつカジュアルに会話を楽しむことを主眼としているのだ。

また、ビジネスモデルも大手ソーシャルメディアの広告収入モデルとは異なる。Yuboは、基本無料で利用できるが、2ドルでプレミアム機能を購入したり、月額10ドルのプレミアム機能サブスクリプションを提供するフリーミアム型のモデルでビジネスを展開している。

一般的に、このような見知らぬユーザーどうしが会話するソーシャルメディアは危険が伴うもの。このリスクを考慮した対策に注力していることも、デジタルサビーなZ世代に受け入れられる理由になっているようだ。

まず、13歳未満は利用できない規則が導入されている。他のソーシャルメディアも同様に13歳以下の利用制限を設けているが、実際のところは抜け道が多く、あまり機能していないようだが、Yuboでは登録時に、IDと電話番号だけでなく、AIによる動画・声認証の仕組みも導入されており、他のプラットフォームと比較すると、偽りの情報で登録することは多少は難しくなっているように思われる。

たとえばYuboの登録時、学生であれば学生IDを提示することが求められる。IDの顔写真、年齢、学年などの情報と動画によるAI顔判定から、本人であることを確認し、ユーザー認証する。ただし、Yuboウェブサイトでは13歳以下の子供がアカウントを持っているとの報告が寄せられていることから、完璧にフィルターできる仕組みではないことがうかがえる。

このほか、13〜18歳の年齢グループと19歳以上の年齢グループを分けたり、AIによる不適切動画/不適切会話の判定などの対策が取られている。19歳以上のユーザーは、13〜18歳のユーザーとは会話できない仕組みだ。

Yuboはこのほど4750万ドルを調達、この1年間の累計調達額は6,000万ドルを越えた。すでにニューヨークにオフィスを開設、また9月にはロンドンにオフィス開設しており、英語圏市場における攻勢を強める構えだ。また、東南アジア、日本、台湾、韓国でもコミュニティを拡大する計画という。

世代ごとに異なるソーシャルメディアを使う理由

フォロー機能がなく、インフルエンサーがいないYuboがなぜZ世代にうけるのか。それはZ世代がソーシャルメディアに求めるものをYuboが体現しているからといえるだろう。

Adobeが2019年7月に米国で実施したソーシャルメディア世代別意識調査もYuboの人気理由のヒントを示すもの。

同調査は「ソーシャルメディアを使う理由」というテーマで、Z世代、ミレニアル世代、X世代、団塊世代の傾向を抽出した。世代間のギャップが最も顕著にあらわれたのが「写真シェアや近況報告」のためにソーシャルメディアを使う割合だ。団塊の世代で57%という高い数字を示した一方で、Z世代は33%にとどまったのだ。X世代では50%、ミレニアル世代では44%だった。

もう1つ世代間の違いが顕著にあらわれたのが「友達と遊んだり、チャットしたりする」ためにソーシャルメディアを使うという割合。団塊の世代が18%だったのに対し、Z世代では30%と2倍近い差になったのだ。X世代は23%、ミレニアル世代は24%だった。

これらの数字が示すのは、若い世代ほどソーシャルメディアを、写真シェアや近況報告の場としてではなく、友達と遊び・チャットする空間として捉える傾向が強いということ。フォロワーなどを気にせず、カジュアルにチャットする、これがZ世代が求めるソーシャルメディアの形。Yuboは巧みにこの需要を取り込んでいる。

Yuboのほか、「Cocoon」など近い友人や家族だけのカジュアルなチャット空間を構築できるソーシャルメディアは存在する。

大手ソーシャルメディアがどこまで規模を拡大するのか気になるが、一方で世代別・関心事別の需要を取り込み成長する新興ソーシャルメディアの動向からも目が離せない。

文:細谷元(Livit