ANAグループは、新型コロナウイルス感染症の影響に対し、これまで運航便の大幅な減便やコスト削減策などさまざまな自助努力を迅速に実施してきた。

コロナがもたらす人々の行動変容により、航空需要の「量」と「質」の変化が予想されることから、ANA グループのビジネス・モデルを変革し、グループ全体の事業ポートフォリオを見直すことで、感染症の再来にも耐え得る強靭な企業グループに生まれ変わると発表した。

ANAグループの新しいビジネス・モデルの全体像は以下。

航空需要の「量」と「質」の変化

  1. ビジネス需要は減少し、完全には戻らない(Web会議の浸透等、ワークスタイルの変容)
  2. レジャー、VFR(友人や親戚の訪問を目的とした旅行)需要は今後も堅調、ワーケーション、居住地分散等により、潜在的な成長力あり
  3. 新たな顧客ニーズ(ESG/衛生、清潔、非接触/セルフ、シンプル、パーソナル)

エアライン・ビジネスの変革

ANA、Peachに加え、エアージャパンを活用した第3ブランドにより、利用者の価格・サービスにおける幅広いニーズに対応できるエアライングループとして持続的な成長を追求するという。

各エアラインがコロナ後の新常態に適合した新しいサービス・モデルを展開するとともに、マーケティングにおいて連携を図り、顧客回遊を促進することにより、利用者のライフタイム・バリューを最大化する。

1.ANAブランド

  • ANAグループのプレミアムエアラインブランドとして、アフターコロナの利用者のニーズに適合した、人や地球環境に優しい、新しいプロダクトとサービスを提供、「ユニバーサル」を重視したエアラインへと進化
  • デジタルを活用した「セルフ化」・「パーソナル化」推進によるサービスの提供
  • 省人化や業務の効率化による生産性向上を実現し、アフターコロナにおいても継続的に収益を生み出すことができる成長モデルを実現

2.Peach

  • 従来のプレジャー旅客に加え、ビジネス旅客やファミリー等新たな顧客層にも拡大、ANAのマイルからピーチポイントへの交換などANAとのマーケティング連携を実施
  • 地域・自治体と連携したワーケーション促進の取り組みやSNSの活用などの非航空事業「Peach ビジネス」の展開
  • 10月25日の成田空港第1ターミナルへの移転を機に、利便性向上の訴求、グループのシナジー効果により首都圏における利用者を拡大
  • エアバスA321LRにて国際線中距離路線へ進出
  • ANA・ANAカーゴとの協業による航空貨物事業への参入

3.第3ブランド

  • 中距離東南アジア・豪州路線を中心に拡大が見込まれるレジャー需要獲得を担う新たな低コストエアラインを立ち上げ、国際線の需要の回復をにらみながら2022年度を目途に運航を開始
  • エアージャパンを母体とすることで、速やかな事業立ち上げが可能であり、急激な需要動向の変化への柔軟な対応力を保持
  • 300席級のANAで使用されているボーイング787型機を活用することで、低ユニットコストを実現

グループ事業におけるビジネス・モデルの変革

顧客との強力なタッチポイントであるエアライン事業、旅行事業、日常的な購買を中核に、プラットフォーム・ビジネスを具現化し、グループにおける非航空収益を拡大。

10年以上にわたりノウハウを蓄積してきた首都圏を含む地域創生事業について、地域の窓口を明確化し、ANAグループが持つさまざまなリソースを活用することで、地域とANAグループ双方の利益創出を目指す。

1.新しいプラットフォーム・ビジネスの具現化

  • ANA Xが中心となり、当社グループが蓄積してきた顧客データとANAアプリやホームページ等のデジタルタッチポイントを活用したプラットフォーム・ビジネスを具現化
  • エアライン事業、旅行事業、4兆円規模※の決済額を持つANA カード事業を中核に、ANAグループ全体で利用者のライフタイム・バリューの最大化を図り、航空に留まらない価値を創出

2.旅行事業の再編とデジタル化

  • ANAセールスを会社分割の上、旅行事業はANA Xと統合し、プラットフォーム事業会社へと再編(2021年4月予定)
  • 旅行事業のデジタル化により顧客をANAグループのプラットフォームサービスへ誘導

3.航空セールス事業の地域創生事業会社への進化

  • ANAセールスの航空セールス事業における航空券および旅行販売業務は効率化。ANAグループ地域代表として地域とANAグループを結び、連携をさらに深め、双方の利益を創出。地域の魅力的な有形・無形の商材を発掘・開発し、プラットフォームに展開する地域創生事業会社へと進化

エアライン事業の規模を一時的に小さくすることでコロナのトンネルを抜ける

コロナ危機を確実に乗り切るコスト構造に転換するため、需要に合わせてエアライン事業規模とグループ内の路線分担を最適化、機材数の削減など固定費を中心とした更なるコスト削減を実行。

コスト削減を図るとともに、将来の成長に向け雇用を維持する施策を実施。

費用削減効果の見通しは、2020年度で約▲1,500億円、2021年度は約▲2,500億円となるとしている。

1.ウィズコロナにおけるエアライン事業の規模、拠点・ネットワークの見直し

ANA ブランド

【国際線】
各国における出入国規制や検疫体制、需要動向等を踏まえ、羽田から運航を回復
成田も重要な結節点として段階的に運航を再開

【国内線】
高需要路線を中心にネットワークを維持、機材の小型化により生産量を適正化

Peach

【国際線】
需要動向に応じて機動的に運航を再開

【国内線】
LCCの強みを活かしANAとの路線分担を進めながら、関西・成田を中心に就航路線を拡大
12月より中部空港へ進出

2.固定費を中心としたコスト構造の見直し

大型機を中心とした機材数の削減

  1. ANAでは、当初計画していた7機に加え、28機を早期に退役。2020年度の退役は、合計35機
  2. 追加退役するボーイング777型機計22機に加えて、エアバスA380型機1機とボーイング777型機1機の受領延期により、24機の大型機を削減
  3. 2020年度末時点におけるグループ全体の機材数は、当初計画から33機を削減し、連動した整備コストを削減
  4. 発注済み機材のデリバリー、前払金支払いの先送りによる設備投資額の圧縮

調達・物流コストの削減

調達部門への調達機能の一元化により、購買・配送・倉庫管理を強化

オフィスの返却を通した賃借面積の削減

主に働き方の変化に合わせた執務スペースの見直しによるオフィスを縮減・集約・返却を実施

収益貢献しない事業・資産の見直し

PanAm USA の事業売却および会社清算

整備体制の連携強化

ANA・Peach・パートナーエアラインの連携を深化させ、高い生産性の整備部門を実現

3.将来の成長のための雇用維持施策

内製化、外部出向などにより、委託費および人件費の削減を図るとともに、将来の成長のために雇用を維持。

外注業務の内製化

  • 海外に委託していた航空機やエンジン等の整備作業や、グループ会社から更に外部に再委託していた空港ハンドリングなどの外注業務を内製化

ANAグループ内における人員配置の変更

  • 各拠点における事業規模の変化に伴い、空港会社間の人事異動などにより生産体制を最適化

ANAグループ外企業などへの出向

  • 接遇サービススキル向上や交流を通じた人財育成と、グループ外企業での就労経験で獲得した知見などを、ANA グループにおける新たな価値の醸成に活用することを目的として、人員が不足している ANA グループ外の企業などへの出向を実施
  • 出向先での業務内容は、コールセンターやホテルのコンシェルジェ、企業の受付・事務・企画業務などで、12月までに約10社100名程度を予定。今後も随時規模を拡大し来春には400名以上を見込む

賃金・雇用に関する施策

  • グループ役職員の報酬・賃金・一時金の削減や、休業・休職制度の拡充などの人件費抑制策を労働組合に提案