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国を挙げたIT政策で注目される北欧の国々。近年、次々と新進気鋭のスタートアップが誕生している。
中でもスウェーデンの躍進は著しく、首都ストックホルムは一人当たりのユニコーン企業数が米シリコンバレーに続き世界2位。『Forbes』のBest Countries for Businessでも英国に次いで2位をマークし、存在感に磨きをかけている。
スウェーデンからスタートアップが輩出され続ける理由
スウェーデン発の企業といえば、音楽ストリーミングサービスのSpotifyやマインクラフトを開発したゲーム会社Mojangなどが有名だが、今も多種多様なスタートアップが生まれ続けている。
なぜこんなにもスウェーデンからスタートアップが輩出されるのか。その理由は一つではないが、政府による積極的なサポート策が大きい。
産業イノベーション省(Ministry for Enterprise and Innovation)は企業、スタートアップ、教育の三者を連携したエコシステムを構築し、スタートアップ育成環境の整備に力を入れている。
また、会社に勤めながら起業準備ができる、国による休暇制度も設置されている。スウェーデン政府は「起業するための休暇をとる権利(The Right to Leave to Conduct a Business Operation Act)」を認め、従業員は起業準備のために最長6カ月まで休暇が取得できる。
起業手続きもシンプルかつスピーディーだ。企業登録庁のサイトからオンライン申請し、指定金額を振り込めば、たったの7日で会社設立が完了する。
猥雑さが一切なく、サポートも万全。物理的、心理的ハードルの低さが、多くのスウェーデン人を起業へと向かわせる理由かもしれない。
テスラ幹部が設立した、欧州最大規模のリチウム電池プラント
スタートアップ百花繚乱のスウェーデンでひときわ注目を集めているのが、クリーンテックスタートアップのNorthvoltだ。
2016年、元テスラ幹部のPeter CarlssonとPaolo Cerrutiが設立した電気自動車用のバッテリー製造会社で、起業から3年で評価額20億ドルのユニコーンに成長した。
スウェーデン北部スケレフテオに建設したリチウム電池プラントNorthvolt Ettは、100%クリーンエネルギーを動力源とした工場で、バッテリーセルの組み立てや使用済み電池のリサイクルなども行っている。
現在の年間生産能力は16GWhだが、2024年までに32GWhを目指し、将来的には40GWhまで増産する計画だ。これが実現されたら、欧州最大級のバッテリープラントとなることは間違いないだろう。
Northvoltはフォルクスワーゲンから8億8,600万ユーロの資金を調達。同社と設立した合弁会社は、ドイツのニーダーザクセン州に第二のギガプラントNorthvolt Zweiwの建設も予定している。クリーンエネルギー市場が過熱する中、同社の動きは世界的に注目を集めている。
フィンテックユニコーンの「Klarna」はiZettleと同じ道をたどるのか?
スウェーデンから生まれたフィンテックユニコーンといえばiZettleだろう。
2010年の設立からわずか8年でユニコーンに進化したが、上場を目前とした2018年、米PayPalが同社を買収。現在は欧州とメキシコ、ブラジルなど中南米でサービスを展開している。
同じくスウェーデンのフィンテックユニコーンKlarnaは、「後払いサービス」でシェアを伸ばし、評価額55億ドルと欧州で最も価値の高いスタートアップの一つに成長した。
H&M、Levi’s、Sephoraなどの人気ブランド&ショップと提携し、欧州のほかアメリカやオーストラリアでもサービスを開始。提携のECサイトでは、支払いページに「Klarna」オプションがあり、ユーザーはこれを選ぶと後払いで商品を購入できるシステムだ。
商品が気に入らなかったら、30日以内であれば支払い前に返品ができ、クレジットカード番号を入力するような手間もない。Klarnaのサービスは若者を中心に定着しつつあり、アメリカでは月50万人が利用しているという。
Klarnaはこのまま拡大していくのか、iZettleと同じ道をたどるのか。“小さな”スタートアップが成長した後、上場を取るか大手の吸収合併を受けるかは、会社それぞれの決断だ。
しかしKlarnaのSebastian Siemiatkowski CEOは、世界トップ5のフィンテック企業になることを目標に掲げており、2020年2月には、イタリアのフィンテックスタートアップMoneymourを買収している。Klarnaは独自でグローバル市場に打って出ることを選択したのかもしれない。
ここからは、今注目すべきスウェーデンのスタートアップ5社紹介する。
食品廃棄問題を解決するマッチングアプリ Karma
世界中で問題となっているフードロス。1年間に排出される食品廃棄物の量は10億トン以上にもなり、うち約3分の1がレストランや食料品店から出されているという。
2016年、スウェーデンの若者4名が始めた「Karma」は、フードロスに悩むレストランと余った食材を求める人をつなげるマッチングアプリをリリース。ユーザーはレストランの余り食材をアプリで確認し、半値以下で購入することができる。
同社はエンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどから資金調達に成功し、2018年時点で累計調達額は1,800万ドルに達した。
Karmaはスウェーデン国内のレストラン、ベーカリー、ホテル、カフェ、大手スーパーなどと提携し、現在の提携先は4,300社にのぼる。英国とフランスにも進出し、現在は英国で4,300社、フランスで1,000社の提携先を確保。フードロス問題に悩む欧州の大都市でシェアを伸ばしている。
二酸化炭素排出ゼロの都市型電動トラック Volta Trucks
「完全電動トラック」で環境問題に挑むスタートアップVolta Trucks。
同社が開発した16トンの電動トラック「Volta Zero」は、二酸化炭素排出量ゼロで騒音も50%カット。容量160〜200kWhのリン酸鉄リチウム電池を搭載した、スタイリッシュなエコトラックだ。航続距離は150〜200kmのため、主に都市部での貨物輸送や配達を目的としている。
同社は200万ユーロの資金を確保し、2021年にはロンドンとパリでのパイロット運転も決定した。2022年に本格生産を開始し、同年末までに500台の生産を目指している。
電気飛行機でサステナブルな空の移動を可能にするHeart Aerospace
乗り物の電化は地上だけの話ではない。Heart Aerospaceは「持続可能な乗り物」をコンセプトに、2018年より電気飛行機の製造に取り組んでいる。
400kmの飛行が可能な19人乗りの電気飛行機「ES-19」は、リージョナルフライト向けの小型航空機だ。従来のガソリンを使用した航空機の代わりとなる、サステナブルな次世代型航空機として期待されている。
ES-19は2025年までに商用化を目指しており、同社は210万ユーロの資金援助を受けている。
24時間対応のオンライン医療サービスアプリ KRY
コロナ感染拡大をきっかけに、日本でも注目されるようになったオンライン診療。スウェーデンのデジタル医療スタートアップのKRYは、数年前よりアプリを介した24時間のオンライン診療サービスを提供している。
「どの地域の人も平等に医療を受けられるように」という理念のもと始められたこのサービスは、2015年の創業以来、140万回を超えるオンライン診療の実績を誇る。患者は同アプリを利用することで、24時間いつでも画面上で医師の対面診療を受けることができ、処方箋も発行してもらえる。
同社は2018年に資金調達ラウンドで5,300万ユーロ、2020年には1億5,500万ドルを調達。今後は、欧州他国への進出も視野に入れている。
植物由来のバイオテックチーズを開発 Noquo Foods
植物ベースの代替食品を開発する、バイオフードテックのスタートアップNoquo Foods。2019年に食品科学者のAnja Leissnerと元アドテック起業家のSorosh Tavakoliが設立した。豆類をはじめとした植物性タンパク質を組み合わせ、チーズなどの代替乳製品の開発・製造に取り組んでいる。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)
<参考>
https://sifted.eu/sweden-startups-top-rankings/
https://uncubed.com/daily/9-fastest-growing-swedish-startups/
https://www.eu-startups.com/2020/03/10-promising-sweden-based-startups-to-watch-in-2020-and-beyond/
https://ampmedia.jp/2019/02/28/sweden_6months/
https://howtotrade-funderbeam.jp/news/articles20180424/
https://forbesjapan.com/articles/detail/22879
https://www.businessinsider.com/karma-app-helps-restaurants-in-the-eu-reduce-food-waste-2020-1