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在宅勤務の普及とスキル需要の変化
多くの企業がコロナ収束後も継続を検討している在宅勤務/リモートワーク。
マッキンゼーが5月に公表したレポートでは、セールス人員1万人以上を抱える大手製薬会社の事例が言及されている。2月に100%の社員をリモートワークにシフトした同製薬会社。ロックダウンが緩和されつつあるものの、オフィスワークへの100%復帰はしない計画で、代わりにリモートワーク30%、オフィスワーク70%の勤務モデルの導入を検討しているという。
ガートナーによる企業CFOを対象にした意識調査でも、上記と同様の傾向が浮き彫りになっている。300人以上の企業CFOに聞き取りを行ったところ、74%がオフィス勤務社員の少なくとも5%を永久的なリモートワークにシフトすると回答。また、23%のCFOが、少なくとも社員の20%以上をリモートワークにする計画があると答えている。
世界各地で起こる、このような在宅勤務/リモートワークシフトによって、様々な副次的な影響が出ている。その1つがスキル需要の変化だ。
世界33カ国で展開するグローバル人材会社Haysで英国・アイルランド・欧州・中東アフリカを管轄するジェームズ・ミリガン氏が、アイルランドメディアsiliconrepublicの取材で、コロナ収束後に需要が高まるであろう5つのテックスキルを挙げている。
「サイバーセキュリティ」「クラウド/インフラ」「データサイエンス」「ソフトウェア開発」「変革マネジメント」の5つだ。
サイバーセキュリティ人材の確保が最優先事項?インドのIT事情
これらはパンデミック前から人材不足が叫ばれていた分野/スキルだが、パンデミック後の世界ではその意味合いが少し異なる。
たとえばサイバーセキュリティ。
インドIT大手Quess Corp傘下Qtek SystemsのCEOアナンド・ラマクリシュナン氏は、Economictimesの取材で、サイバーセキュリティ需要は高まっているものの、求められるスキル内容は以前とは大きく異なると指摘している。
コロナ収束後は、家庭内の様々なエンドポイントにおける検知・対応に加えビデオ会議のセキュリティスキルを持つ人材需要が高まるというのだ。
オフィスワークにおいては、企業のラップトップやデスクトップにセキュリティソフトをインストールし、それに任せっきりという場合が多かったが、在宅勤務/リモートワークでは、家庭内のあらゆるデバイスを介して脅威が広がることが考えられるため、常時の監視と脅威分析が必要になる。
インド人材会社Xphenoの創業者カマル・カランス氏は、コロナ収束後多くの企業では、このようなセキュリティスキルを持つ人材の確保が当面の優先事項になるだろうと指摘している。
Economictimesによると、インドの銀行・金融・保険会社を顧客に持つITベンダー企業において現在ほぼすべての職で増員が凍結されているものの、セキュリティ人材に関しては積極的な雇用が進められているという。
クラウド関連スキルもハイデマンド
在宅勤務/リモートワークは、多くの場合クラウド利用が前提になる。
特にパブリッククラウドは、パンデミック以前から拡大が予想されていた市場、パンデミックによってそのタイミングが早まる可能性がある。ガートナーは2019年11月のレポートで、2020年のパブリッククラウド市場の成長率を17%と予想していた。
マイクロソフト365のバイスプレジデント、ジェアド・スパタロ氏の3月のブログポストによると、在宅勤務/リモートワークの増加で、同社のクラウドサービス利用は775%増加。1日あたりのユーザー数は4,400万人に達したという。
この数字はインドHindustantimesが伝えたInstinetの2020年3月の調査結果とも軌を一にする。同調査では、クラウド移行を最優先事項に掲げる最高情報責任者(CIO)の割合は68%に上ることが判明したのだ。これにともない、クラウドアーキテクトやクラウドITアドミニストレータなどの需要が高まることが予想される。
スキル需給ギャプの縮小が課題、最高学習責任者の役割一層重要に
需要が高まっても、その需要を満たすだけの十分な供給があるのかどうかは不明だ。テックスキルに関してはもともと人材不足といわれた領域。需給ギャップが生じることは見越しておくべきだろう。
この状況下、企業には大きく2つの選択肢が与えられる。1つはフリーランス人材を雇うという選択。もう1つは、インハウスで従業員のスキルアップを図ることだ。
フリーランスに関しては、フォーブス誌が世界各地のフリーランス人材プラットフォームの代表に状況を聞き、フリーランス市場で何が起こっているのかその現状をあぶりだしている。米国、シンガポール、アフリカのフリーランス人材プラットフォームの代表らは口をそろえて、サイバーセキュリティ、データ分析、Eコマースのフリーランス人材需要が高まっていると述べている。
インハウスでのスキルアップに関しては、最高学習責任者(CLO)の役割に注目が集まる。冒頭で言及したマッキンゼーのレポートは、コロナ収束後、CLOはデジタルトレーニング・プログラムの刷新や学習パートナーとのデジタル学習エコシステムの構築などを通じて、社内でスキル需給ギャップの縮小が可能になるだろうと指摘している。
上記は、テックスキルにフォーカスした情報だが、今まで以上にクリエイティブスキルやクリティカル・シンキング、さらにはコミュニケーションなどのソフトスキルが重要になるとの声もある。経済・社会が大きく変化している状況、その変化にいち早く適応するため、スキル需要の変化にはいつもより強めの感度でアンテナを張るのがよいのかもしれない。
[文] 細谷元(Livit)