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誰も予想していなかったほどに長期化している新型コロナウィルスの感染拡大。欧米をはじめ世界中で広がる外出禁止・自粛に、人々の生活、企業活動の在り方が大きく変化している。この世界規模の危機的状況を生き残れるのはどのようなブランドなのか。
世代によるパンデミックの受け止め方
今般の新型コロナウィルスによるパンデミックは、世代によって受け止め方が異なると多くのアナリストが分析している。
重症化しやすいとされる団塊の世代以上が、危機感を持って外出制限を守り、テクノロジーの利用を始める一方で、数々の世界危機を経験してきたX世代は重症化しやすい両親、見守らなければならない子供の世話、それに会社では中間管理職程度の地位に着き、多方面におけるプレッシャーと責任を負わされている。
一方Z世代と呼ばれる「生まれた時からインターネットの存在していた世代」は、この新型コロナウィルスに関心が薄いと非難の的だ。
感染が広がる最中の3月は春休みと重なり、フロリダのビーチでパーティー三昧を繰り広げ、カリブ海のクルーズ船でアルコール漬けのドンチャン騒ぎを繰り広げた。テレビのインタビューに「ウィルスなんて大した問題じゃない」「ウィルスに罹るかもしれないけれど、人生を楽しみたい」などと語り、世界中から大バッシングを浴びていたことも記憶に新しい。
日本でも再三呼びかけられているが、この「若い世代の外出」が感染拡大を助長し、大事な家族(祖父母や両親)を死に追いやっていることは事実だ。その後マイアミのビーチでは夜間外出制限が発出されるなど、春休みの狂騒はやがてトーンダウンしている。
濡れ衣を着せられたミレニアル世代
若い世代がひとくくりにバッシングを受けていた当初、ミレニアル世代もこの「若い世代」とされて同様に非難の的であった。しかし実際は、60代に近い両親がいる世代で新型コロナウィルスにはより敏感であったことが判っている。
彼らは「すでに学校を卒業し、春休みもなければ、自宅で自粛生活をおくり、Huluを鑑賞しながら、旅行に出かけようとする母親を説得するのに口喧嘩が絶えない毎日だ。無防備に外出し、パーティーをしているのは私たちじゃない、Z世代だ」とするつぶやきも多く、ミレニアル世代はいわばメディアから濡れ衣を着せられたと反発した。
ミレニアル、Z世代はいずれもソーシャルメディアにどっぷりと浸かった世代だ。インターネットやスマートフォンから離れられない世代は、パンデミックの状況下さらに利用頻度が高まったと言われている。外出制限と共に高まるSNSやインターネットへの接続は、エンゲージメントを維持したい企業のブランド戦略にも変化をもたらしている。
試されるブランドの対応
世界的ラグジュアリーブランド・グループLVMHは、香水の製造ラインで、同じアルコールを使った消毒ジェルを製造し、フランスの保健省へと無償提供した。また、クリスチャンディオールのアトリエでは、手作りのマスクづくりの様子がインスタにアップされ、最前線で働く医療従事者のために同社も力を合わせる、としている。
世界的に有名なラグジュリアスブランドが、高級路線を一切排除し、国難や最前線で活躍する人々に寄り添う姿勢を見せたのだ。
LVMH社のインスタグラムより
他にもクロムハーツやニューバランスがマスクの製造に乗り出し、フォードが人工呼吸器の製造を手掛けるなど、素早い業務の方向転換と社会貢献がしばしば話題となり、元より影響力のあった有名ブランドはより良いマーケティングの機会に恵まれたと言える。
しかしながらこのセンシティブな時機を商機ととらえると、市場に思いがけず悪い印象を与える可能性も秘めており、マーケティングには最新の注意が必要だと専門家が警鐘を鳴らす。
例えばイギリスで展開されたKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)のCMは、指をなめたくなるほど美味しい、とさまざまな人がレストランで同店のチキンを食べながら指をなめるシーンにあふれていたが、消費者からのクレームもあり、2週間で一時的にこの広告を取り下げると発表された。
アメリカのハーシーズ・チョコレート社は、展開中だった「人と人とのふれあい」に焦点を当てた広告キャンペーンから、商品に焦点を当てたものに自主的に差し替えた。
また、セントパトリックデイに、爆発的な売れ行きを見せるギネス・ビールも「お祝いやパレードはまた出来る。今は家にいよう」とお祭りよりも自粛をサポートする姿勢のCMをうった。
さまざまな世代が、より長時間インターネットを利用し、テレビCMを目にするようになったこの外出自粛。不用意なCMや場違いな広告キャンペーンを控えるだけではなく、Z世代に訴える攻めのマーケティングを展開するブランドもある。
例えばバーガーキング・フランスでは、同ブランドの人気メニューWhopperやフィッシュ・バーガーの作り方をツイッターで公開。外出自粛が厳しくしかれる中、フランスのスーパーマーケットで簡単に入手できる材料を並べ、ショートビデオでそれらしきものが作れる、とレシピを公開した。
また、外出禁止発令中の店舗の前に€135の値段をつけたハンバーガーの看板を掲げ、「思った以上の代償を払うことになりますよ」と、外出しないよう強く呼びかけるメッセージも発信(€135は外出禁止を破った際の罰金額)。
アメリカのハンバーガーブランドには得てして辛辣なフランス人だが、フランス人が大好きな皮肉をこめたジョークと、ハンバーガーに慣れ親しむZ世代に刺さるこの手法で、多くの「いいね」を獲得し話題になった。ブランドの好感度もあがり、レストランが再開したら自作バーガーに飽きた人たちが本物の味を求めて戻って来るであろう。
バーガーキング・フランスのツイッターより
一方アディダスは「#HomeTeam」と銘打った新しいイニシアチブを開始。運動やエクササイズだけでなく、アスリートやタレントが自宅での時間をどう過ごしているか紹介しつつ、ユーザーに心身の健康を促進するために、トレーニングアプリの有料版を無料公開した。
ジムに通えなくなった人たちのストレスを解消するため、日本ではひと昔前に流行ったブートキャンプのエクササイズ・動画に再び注目が集まるなど、家で出来る運動の可能性も広がっている。
人気上昇中のメンタルヘルスをサポートするアプリ
外出規制をしている都市でも適度な運動、ジョギングなどはOKとしているところも多いが、一方で気になるのは、長期化にともなって生じるメンタルヘルスの問題だ。
前述アディダスは、アスリートが「運動とは異なることに挑戦している」と料理姿を紹介するなど、メンタルヘルスとのバランスの重要さも訴えている。
ユーザー数5,000万人超の、欧米の若い世代で絶大なる認知度を誇る、リラクゼーションアプリ「Calm」もその一つ。
通常は有料の一部コンテンツを無料公開し、若い世代のメンタルヘルス、マインドフルネスをサポートしている。CalmのYouTubeチャンネル登録者は18万人、有料コンテンツに登録し毎月5ドルを支払っている人も100万人いる。
Z世代に元から人気高かったアプリだが、この世界情勢が不安定な中より人気が高まっているという。
瞑想と聞くと日本ではカルトや新興宗教のイメージがあるが、特に近年、米国の若い世代は特定の宗教にとらわれず、瞑想することによって心の平静を取り戻し保持している人が多い。背景には教会のスキャンダルや、伝統に縛られたくないという反発心、テクノロジーの進化など、自分なりの人生のスタイルを求めている人が多いことにありそうだ。
なるほど、毎日更新される同社の「格言」をインスタのモーメンツに多く見かけるようになった。
実はダメージを受けているZ世代
Z世代を含むこの若い世代が初めて直面する、今回のパンデミック。春休みの旅行や卒業式、プロムといった一生の思い出や、インターンシップといった人生の契機となる機会を奪われた世代は、これから一生この傷を負って生きていくのでは、と危惧する声も聞かれる。
Z世代は地球環境問題に敏感で、近い将来この問題が彼らの人生に大きな影響を与えると予見していた。が、思いがけず今回、環境問題よりもはるかに早く、予想もしていなかった今回の新型コロナウィルス感染拡大に襲われる形となった。
米国マーケティング会社Archrivalの調査によると、待ちに待った卒業式がいとも簡単に中止されるなど、「今までの頑張りをあっという間に台無しにされる」この失望感は、我々が想像するよりもはるかに深刻で、いくつものPTSDを抱えた状態に似ている、とさえ分析している。自分なりの人生スタイルを求めていた世代が、自分の力だけで何もかもは思い通りにならない、という現実を突き付けられた形だ。
一方で、デジタル化が進んだこの世代はインスタLiveやZoom、FaceTimeなどのテクノロジーで、人と人とのつながりに慣れ親しんでいるから、他のアナログ世代と比べると、ダメージは少ないと見る向きもある。
いずれにせよ、思いがけず長期化し、世界に拡大しているパンデミックは、先が見えず不気味さを増しているが、全世界の人々の人生を変える契機となっていることに違いはなさそうだ。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)