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欲しいものがあればスマホのワンタップで、最短一日で商品が手元に届くーーEコマースの巨人Amazonが構築したシステムによって、ネットショッピングの即日配送は当たり前のものとなった。
しかしこのスピーディーな配達を可能にするのは、同社が持つ莫大な資金と配送ネットワークであり、これまで新興のインディーブランドなどは対抗できずにいた。
さらに今、配送の過程で生じる非効率や環境への負荷が問題視されるようになっており、それらの問題を解決すべく従来の配送に代わる新サービスが都市部を中心に生まれている。
商品受け取りまでの流れをスムーズでストレスフリーに
ネットで買い物をして、到着を楽しみにしていた商品がなかなか届かない、もしくは商品が紛失したなどという”残念な経験”をしたことがある人も少なくないだろう。
テルアビブ発の次世代配送サービスを提供する「Bond」が着目したのは、顧客がオンラインで商品購入の決済をした「その後」の体験だ。
「オンラインブランドは莫大な資金を投資して顧客を満足させるウェブサイトを構築しているが、その後の配送サービスに関しては外部委託せざるを得ない企業が大半で、そのクオリティまで気を配れていない」、Private Equity Wireにそう語るのは同社のCEOアサフ・ハッチモン氏。
彼曰く、配送時は「顧客満足度のデスバレー」ーーつまり顧客の満足度が目に見えて下がるタイミングで、ケアすべき期間だという。自らを「Post Purchase Company」と名乗る同社は、スムーズでストレスフリーな配送サービスを提供すべく2019年5月にスタートした。
Bondの考える「顧客満足度のデスバレー」。商品の配達を待つ間に購入時の満足値がガクッと下がる。ここを上昇させるために生まれたのがBondのサービスだ。
手元に商品が届くまでが買い物だと考える消費者と、ブランド側との意識のギャップは大きい。
同社の調査によると、オンラインショッピングをした消費者の60%が配送に関して不満を感じたことがあるというが、その内の80%は商品の返品をしない(よって顧客の不満は目に見えにくい)という。
しかし配送の満足度を上げることで、そのブランドに対する支出も12%プラスになるという結果も出ているといい、配送クオリティを上げることは顧客を活性化させ、ブランド価値を高めることにもつながることがわかる。
そこでBondが提供するのは”Amazon並みの”スピーディーな配達と、きめ細やかなサービスだ。
同社のシステムはShopifyやShippo、Magentoなどのアメリカ国内でメジャーなEコマースプラットフォームに対応しているので、顧客は通常のネットショッピングと同様に商品を購入するだけで、注文する時間によって即日もしくは翌日にオーダーが届く。
Bondの配送システムを可能にするカラクリは、データ活用と街中に置かれたナノ・ディストリビューション・センター(NDCs)にある。「Bondは提携ブランドの商品が、各エリア毎に通常どれほど売れるのかを詳細まで把握し、そのデータを基にNDCsに在庫を補充する」と同社のハッチモン氏はFast Companyに話す。
Bondの共同創業者ハッチモン氏(左)とマイケル・オサドン氏(右)。後ろに見えるのがNDC
そして、オーダーが入った時点でNDCsを拠点に近隣エリアに配達がなされる。
基本は自宅やオフィスに届けてくれるが、ユーザーが街中のNDCsでピックアップすることも可能だ。必要であればアプリを通して配達員と個別にやりとりをしながらスケジュールを調整することもできるという。また商品返品時の集荷や不在時の再配達依頼もアプリを通して簡単にセットアップできる。
現在Bondが提携するブランドは30社。そのジャンルも電化製品や化粧品などから、マットレスといった大型家具、そしてアラスカ産のシーフードの定期購買サービスを提供する「Wild Alaskan Co.,」に生花を販売する「Rose Box」など繊細な温度管理が求められるものまで多岐に渡る。
エコや都市部の渋滞緩和にも貢献
実はハッチモン氏はBond創業以前に、イスラエルで「Shookit」という生鮮食料品のECサービスを運営しており、Bondを成功に導いたデータの活用法はShookit時代に構築されたモデルだ。
Shookitは在庫推移をローカルレベルの需要と結びつけて管理することで常に新鮮な食材を販売し、同時に廃棄量を削減する方法で成長を遂げた。さらに電動三輪車を活用したスムーズな配達というのもこの時代に考案されたものだ。Shookitはこのビジネスモデルを用いることで、顧客維持率が60%向上したという。
ShookitのWebサイト
ハッチモン氏はかねてよりEコマースの配送がコスト面で問題を抱えていることを認識していた。
「配送コストの30%は近隣のエリアで発生しているが、残りの70%は近隣エリア外で、交通渋滞や違法駐車などデリバリーの不効率によって発生しており、改善すべきポイントは明らかだった」とFast Companyに語る。そしてハッチモン氏はShookitで培った在庫管理と配送のノウハウをスピンオフさせ、Bondを創立した。
またBondのビジネスモデルは配送の効率を最大化しただけでなく、エコにも貢献している点が高く評価されている。事前に計画的な在庫調整を行うことで、突然のオーダーに対応すべく飛行機便を使うことがないため、不必要な二酸化炭素を排出することもない。
さらに、交通量の少ない夜間に各NDCsに大型トラックが荷物を運び、人通りの増える日中には電気三輪車による配達に切り替えるので、エコに加えてトラックのように道を塞いで渋滞を起こすこともない。
同社は現在マンハッタンとブルックリンに合計6か所あるNDCsに加え、数か月以内に30店舗ほど増数させる予定で、さらに2020年後半には他の都市にも展開させる計画だという。1月には1,500万USドル(約16億円)の調達を完了させ、複数の大手企業とも商談を進めている最中だといい、今年は同社にとって躍進の年となりそうだ。
D2Cブランドにとっての救世主となるか
マンハッタン、ブルックリンとロサンゼルスに配送センターを構える「Ohi」もBondと同じく即日配達サービスを提供するスタートアップだ。
Ohiも同じく倉庫内の在庫をリアルタイムでチェックし需要に応じてストックする仕組みだが同社がBondと異なるのは、自社で配達員を抱えるのでなく、フードデリバリーサービスでお馴染みのDoordashやPostmatesなどに委託している点だ。
同社が提携しているのは主にウェブブランドやD2Cブランドなどで、当日配達オプションはAmazonのサービスレベルに慣れた消費者がカートのコンバージョン率を高めることに貢献しているという。
「OhiとともにD2CブランドにAmazonレベルのインテリジェンスを」(Ohiの公式Webサイトより)
BondもOhiも配送センターとして活用するのは、街中の小さな空きスペース。それらの多くは皮肉にもオンラインショッピングブームの波に押されて廃業を余儀なくされた、小さな商店などの跡地だという。
センターの立ち上げに際して必要なのは在庫管理のテクノロジーと棚のみで、好立地の空き物件があれば2週間でセットアップできるといい、センター立ち上げのコストが抑えられるのもこの種のビジネスの強み。
OhiのCEOベン・ジョーンズ氏はMultichannel Merchantに対して、「小さなD2Cブランドなどは自社で物流センターを構えられない。今は一つの倉庫を複数のブランドで共有しているが、将来的にはブランドにつき一つの倉庫にし、よりブランドごとにパーソナライズしたサービスを提供できれば」と構想を描く。
UPSは欧州の数都市で、Amazonもニューヨーク市で電動自転車を用いた配送を行っており、さらに日本でも東京などでヤマト運輸が同様のサービスを開始するなど、配送時に生じる二酸化炭素削減や効率性アップのための施策はすでに大手企業も取り組みを始めている。
さらにはもう一歩踏み込み、ブランド価値を高めるためのより上質な配送をローカル単位で行うこれらのサービスは、ますますオンラインショッピングが普及していく中、Amazonへの対抗勢力として今後どう発展を遂げるか。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)