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「サザン」や「ミスチル」世代ごとに分かれる音楽嗜好
世代ごとに刺さる音楽があることは親や上司/部下などを見ていてなんとなく気づくのではないだろか。日本の40〜50代では「サザン」や「米米CLUB」、30代は「ミスチル」や「ドリカム」といったところだろう。
音楽の嗜好というのは、多くの場合10代のある時期に形成され、その後もほぼ変わらず推移すると考えられている。米ニューヨーク・タイムズに掲載されたSpotifyのデータ分析記事では、男性は14歳、女性は13歳のときに聴いた音楽を最も好むという傾向が明らかになった。
米国の70代では「レイ・チャールズ」、60代では「ロイ・オービソン(Oh, Pretty Woman)」、30代では「サヴェージ・ガーデン」などが刺さるアーティストなのだという。
米国70代がよく聴くアーティスト、レイ・チャールズ氏(写真中央)
また30歳前後には「musical paralysis(音楽的麻痺)」と呼ばれる状態となり、新しいアーティストやジャンルをまったく聴かなくなることが多々あるといわれている。ある世代が特定のアーティストや曲だけを聴くのは、こうした理由があるからのようだ。
しかし、主に30歳以上の世代に見られるこの「音楽嗜好の固定化」がZ世代(10〜20代前半)にも起こるのかどうかは不明だ。インターネットとソーシャルメディアによって、音楽の多様性は爆発的に高まり、音楽の世界が流動化しているからだ。
クリエイター、リスナーともに多様化し、それぞれが相互作用し、これまでにないような流動性を生み出している。
スナップチャットなどが世界45カ国47万人以上(うちZ世代は約8万人)を対象に実施した調査によると、世界中のZ世代が趣味として最も関心を持っているのは「音楽」であることが判明。
実に69%が関心ありと回答したのだ。また、直近の買い物で購入したもの1位に「ヘッドホン」がランクインするなどZ世代の嗜好やライフスタイルを知る上で、音楽は欠かせないものになっている。
新しい曲の発見はYouTube、聴くのはSpotify? Z世代の音楽消費
現在起こる音楽の多様化やZ世代の音楽ライフを知る上で、YouTubeとSpotifyの存在は無視できない。
現時点で30歳前後から年齢が上の人にとって新しい曲の発見を手助けしてくれたのがタワレコやラジオだったはず。
一方、Z世代が新しい音楽を発見する場所は、YouTubeやSpotifyだ。これらのプラットフォームには多様なジャンルの無数の音楽がアップロードされており、ジャンルやアーティストにとらわれることなく自分の好みに合うものをひたすらストリーミングで聴くことができるのだ。
昔は好みのアーティストのアルバムを買い、それをひたすら聴くというものだった。特定のアーティストの特定の曲に対して、非常に強い感情的つながりが醸成されるのも不思議ではないだろう。
米国のZ世代女性に特化したデジタルメディア企業Sweety Highが実施した調査では、米Z世代女性の音楽における嗜好や特徴が明らかになった。調査対象となったのは米在住13〜22歳の女性500人以上。
まず音楽嗜好の多様化について。同調査では、普段少なとも5ジャンルの音楽を聴いていると回答した割合は97%に上ったのだ。
どのジャンルを聴くのかという質問で、トップは「ポップ」で78%。
以下、2位「ロック」51%、3位「ラップ」50%、4位「オルタナティブ」48%、5位「R&B」46%、6位「カントリー」39%、7位「ミュージカル」26%、8位「クラシック」20%、9位「EDM」17%などがランクイン(同質問におけるジャンル分類に関して、音楽の多様化が反映されていないので、その点は注意が必要。以下で詳述)。
どこで新しい音楽を発見しているのか。最も多かったのがYouTubeだ。調査対象となったZ世代女性の75%が新しい音楽を探すときはYouTubeを使っていると回答(13〜15歳では85%)。次いで、Spotifyなどのストリーミングサービスが70%、フェイスブックなどのソーシャルメディアが62%と続いた。
興味深いのは、音楽の発見はYouTubeで行うが、発見以降は異なるプラットフォームで音楽を聴いている可能性が示唆されている点だ。普段どこで(何で)音楽を聴いているのかという質問で、トップとなったのはYouTubeではなくSpotifyだった。
その割合は61%。一方、YouTubeは29%にとどまった。このほか割合が高かったのは、ラジオ(55%)、音楽レコメンドサービスPandora(52%)、CD(38%)、iTunes(36%)、Apple Music(25%)など。
YouTubeやSpotifyに見る音楽の流動化と多様化
Sweety HighのZ世代女性を対象にした音楽意識調査は、興味深いインサイトを与えてくれるものだが、YouTubeの音楽トレンドを自分の目で実際に観察してみるとより深い洞察が得られる。
Sweety Highの調査では「ポップ」や「ロック」という音楽ジャンル分類が使用されている。しかし、多様化が進む音楽の世界は、このような時代遅れの分類では、トレンドを的確に捉え議論することは不可能といえる。
映画「ラプラスの魔女」で主題歌に起用された「Faded」。YouTubeでは26億回以上再生された世界的なヒット曲だ。その作曲家であるノルウェー出身のDJ、アラン・ウォーカー氏がつくる楽曲は一般的に「エレクトロ・ハウス」「プログレッシブ・ハウス」「ディープ・ハウス」と呼ばれるジャンルに分類される。
アラン・ウォーカー氏(セルビアでのパフォーマンス)
また、YouTubeでこれまでに7億回以上再生された「Firestone」を作曲したノルウェーのDJ、Kygo氏(トップ画像)のスタイルも同じく「ディープ・ハウス」や「トロピカル・ハウス」といったハウスのサブジャンルに分類されるものだ。
ハウスのサブジャンルだけでもこのほかにも「アシッド・ハウス」や「フレンチ・ハウス」などさまざまなものがあり、その多様性は今も広がり続けている。
このほかYouTubeでは「Future Bass」や「Lo-fi Hiphop」といった新ジャンルも若い世代の間で人気となっている。
Lo-fi Hiphopに関しては、能動的に聴くというより、勉強中にかけるBGMとして高校生や大学生の間で人気を呼んでいる。YouTubeのLo-fiジャンルでおそらく最も多いフォロワーを持つのが「ChilledCow」チャンネルだろう。2020年2月時点のフォロワー数は433万人。2018年3月に公開したLo-fiミックス動画の再生回数は2,700万回を超える。
YouTubeやSpotifyなどによってリスナーは幅広い音楽ジャンルにアクセスできるようになった。また音楽テクノロジーの発展によって、音楽クリエイターの表現の幅も広がっており、リスナー側とクリエイター側双方で多様化が起こっている状況だ。
またその多様化が相互に作用し、さらなる化学反応を起こす猛烈に流動化する世界になっている。この流動的で多様な音楽を体験しているZ世代が歳を重ねたとき、どのような音楽嗜好を持つのか気になるところだ。
文:細谷元(Livit)