国連サミットで定められたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、世界各国の企業で環境配慮への取り組みが加速している。中でもイケア、H&M、ソニー、コカ・コーラをはじめとする約400の大企業は、SDGs達成へ先導的役割を果たすことをコミットし、行動計画を発表している。

世界最大の家具チェーンIKEA(イケア)は「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」をスローガンに掲げ、これまでにも循環経済と気候変動に対し積極的にアクションを起こしてきた。

中でもここ数年イケアが重点的に取り組んでいるのが、風力や太陽光発電による再生可能エネルギーのインフラ構築だ。

2020年までに「消費分の再生可能エネルギーを作り出す」目標は前倒しで達成見込み

全世界のイケア423店舗のうち9割近くの367店舗を所有するIngkaグループは、過去10年間で再生可能エネルギーのインフラ構築に25億ユーロを投じている。

イケアの再生可能エネルギー施策は2011年自社ビルにソーラーパネルを取り付けることから始まり、現在では全世界のイケアの店舗や施設に合計90万枚以上のソーラーパネルが取り付けられている。

イケアは事業活動で消費するエネルギーのオフセットを目指し、再生可能エネルギーのオフショア拠点への投資も進めている。2014年に3億ドルを投じてアメリカの風力発電所を取得し、2019年には2億ユーロ以上を投じてドイツ風力発電所にも出資。

Ingkaグループは現在世界14カ国で92万枚のソーラーパネルと534基の風力発電機を運用し、風力・太陽光による発電量は1.7ギガワットにも上るという。

さらに2019年9月にはアメリカの2つの太陽光発電拠点の株式49%を取得したと発表。70万枚のソーラーパネルが数か月以内に稼働開始予定となっている。

これにより、当初2020年を予定していた「事業で消費する電力と同等の再生可能エネルギーを作り出す」という目標は、2019年中に前倒しで達成見込みだ。

家庭用ソーラーパネルの販売にも力を入れるイケア


「イケアが2025年までに全世界での販売を目指す家庭用ソーラーパネルキット」

イケアは事業用に再生可能エネルギーを作り出すだけでなく、人々の暮らしにも再生可能エネルギーを根付かせるべく、商品としてソーラーパネルを売り出すことにも力を入れている。

イケアは2015年に家庭用ソーラーパネルキット「IKEA Home Solar」を発表し、現在ドイツ、オランダ、イタリア、ポーランドなど7つのマーケットで販売を行っている。

イケアの家庭用ソーラーパネルキットにはソーラーパネル、コンバーターの他、発電状況をチェックできるアプリなどがセットになっていて、イケア店舗やオンラインで購入できる手軽さが売りだ。

ただし家庭用ソーラーパネルに関しては、国ごとに法制度や運用が異なるため、世界的大企業のイケアといえどマーケットを広げることは簡単ではない。

現にイギリスではFeed-in Tariff(再生エネルギーの固定価格買い取り制度)の改悪により、イケアは2019年3月にソーラーパネルキットの新規販売を停止せざるを得ない事態になっている。

ドイツでも「イケアのソーラーパネルに関するプロモーションは誤解を招く可能性がある」として消費者団体から批判を受け、広告の変更に追い込まれるなど苦戦中だ。

それでもイケアは「家庭用ソーラーパネルは、各家庭が電気代の節約と地球環境への貢献を両立できる手段」とし、2025年までに世界30のマーケット全てで販売を開始する計画を進めている。

法制度や太陽光発電の運用パートナーとの連携など課題は多いものの、イケアの店頭やオンラインにソーラーパネルキットが並ぶようになれば、顧客とのタッチポイントは圧倒的に増えるだろう。世界各国で抜群の知名度を持つイケアが、家庭用ソーラーパネルの普及に与えるインパクトは大きそうだ。

気候スマート体質へ「自分でやる」を徹底するイケア

企業の再生可能エネルギー利用の先進例としては、グーグルがメディアに多く取り上げられている。

グーグルはデータセンターやオフィスで使用する電力を、100%太陽光・風力発電の再生可能エネルギーでまかなっていると発表しているが、発電所を保有しているわけではなく各発電所から電力を購入しているという状態だ。

グーグルと同様、イケアも2019年中に事業活動での消費エネルギー分を100%再生可能エネルギーでまかなう目標を達成することになるが、その手段は大きく異なる。

イケアは自社施設に太陽光パネルを設置し、家庭用ソーラーパネルキットを販売し、自ら投資して太陽光・風力発電所を運用する。家具チェーンでありながら、自分たちで再生可能エネルギーのインフラ自体を作り上げようという姿勢だ。

イケアは今後も太陽光・風力発電への投資を続ける方針で、2030年までに「完全に気候ポジティブになる」、つまりイケアのバリューチェーン全体で排出するよりも多くの温室効果ガスを減らすことを目標に掲げている。

なぜここまでイケアが再生可能エネルギーに投資をするのか、その理由は単にCSR活動というだけではなく、ビジネスとしても価値があるからだとイケアのCSRトップはコメントしている。

「『気候スマート』になることは決して余分なコストではなく、近い未来には当たり前になるスマートなビジネスだと考えている。石油資源を使う全てのものは、これからどんどん割高になっていくだろうから」。

CSR活動としてだけでなくビジネスチャンスとして再生可能エネルギーをとらえ、他社に先んじて自ら投資や事業を手掛けているイケア。そのアクティブな姿勢は他の多くの企業にも刺激を与えそうだ。

文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit