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雑念や無駄な思考を取り払い、「今、この瞬間」に集中することで心に平静をもたらし、ストレスを軽減させる「マインドフルネス」。
元々は仏教の瞑想から発したものだが、グーグルやアップルなどの有名企業が社内プログラムとして取り入れたことから、「仕事のパフォーマンスを上げるメソッド」として世界的に注目されるようになった。今やマインドフルネスは社員研修の一環として、会社全体で取り組む企業も少なくない。
時間も経費もかかる? 企業の「マインドフルネス・プログラム」
Photo: wbur
アメリカでは、企業が実施するマインドフルネス・プログラムの多くは、1時間の内容を2〜3ヶ月程度続けるというものが多い。当然、業務時間を割いて、時間と手間をある程度要する。
外部から講師を招いたり、セミナーに参加したりする場合は、それなりの経費もかかってくる。もし瞑想だけではなくエクササイズやヨガも…となれば、機材・物品の購入も必要になるだろう。
つまり、マインドフルネスを取り入れようと思ったら、時間的、資金的な投資がある程度必要ということだ。規模が大きく資金も場所も潤沢な企業はいいが、そうではない中小企業には、やや敷居が高い印象を受ける。
しかし先日、米ペンシルバニア大学のビジネスルクール「ウォートン・スクール」が発表した研究結果によると「マインドフルネスは、たった数分でも効果があり、それが職場でも実証されている」というのだ。
実はこれまで、マインドフルネスについて多くの研究がされてきたが、それが実際の職場環境でどれほど影響を及ぼすかは未知の部分が大きかった。それだけに今回のウォートン・スクールの発表は、大きな注目を浴びている。
職場で効果を発揮する、実用性のあるマインドフルネスとは?
Photo: forbes
今回の研究発表をしたウォートン・スクールのリンジー・キャメロン教授は、働く人のマインドフルネスについて「毎日数分だけ行えば、生産性は上がる」と述べる。
キャメロン教授は、実際の職場で、マインドフルネスがどう仕事のパフォーマンスに影響するかを実験、研究した。この実験では、数週間を要する長期的なマインドフルネスではなく、短期で行える手法を用いた。
まずはじめの実験は、アメリカ全土11都市に支店を持つ大手保険会社で行われた。常に顧客と最前線で接するスタッフを対象とし、1日7〜10分の瞑想を5日間実施。この実験では、彼らが同僚や顧客など、マインドフルネスが対人関係にどう影響するかに着目した。
次の実験は、インドのITコンサルティング会社で行った。あるグループに対してマインドフルネス実験を午前中に行い、その日の午後、実験のことは知らない別のグループのメンバーから「(実験を受けた)同僚がどう変わったか」を聞き出した。
別のグループメンバーは実験のことを知らないため、被験者の変化が率直に感じられる、ということだ。
数分の瞑想、3回の深呼吸でパフォーマンスが上がる
Photo: water from rock
これら一連の実験を通して、以下の興味深い結果が得られた。
まず、マインドフルネスを体験することで、より寛大な人間になることがわかった。具体的には、誰かが具合悪かったり困っていたりすると、彼らを積極的に助けたり寄付をしたりという行動に出るようになった。また、共感力がアップし、他者目線で物事を見られるようになったという。
いずれも対 人関係を円滑にするためには欠かせないスキルであり、それが向上することで職場環境が良くなることは明らかだ。
何週間ものトレーニングを受けなくとも、1日数分の瞑想でそれらが得られるのだ。もっと言えば、マインドフルネスを実行したその瞬間から、効果が期待できるということだ。
キャメロン教授は「職場は家族と同じで、毎日顔をつき合わせる人たちです。当然、日々小さな摩擦も起きます。だからこそ、いつでもどこでも簡単にできる、小さなマインドフルネスが必要なのです。
マインドフルネスは、関係の改善や調整をするというバッファーのような役割になり、たった1回でも効果があります」と述べる。
業務内容によっては、数分の瞑想すら難しいこともあるだろう。例えば、コールセンターのように常に客と接し、ストレスにさらされている職業もある。そのような場合は「3回深呼吸をする」といったことでも十分であると教授は言う。
「マインドフルネスに練習は必要ありません。日常生活の中、ほんの少し意識をして行うだけでできる、シンプルなものなのです」。
グーグルのマインドフルネス・プログラム「SIY」
Photo: Thanawat’s Think Tank
一方、マインドフルネスが本格的な社員研修プログラムとしての位置を確立しつつあることも確かだ。
企業が取り入れた例で最も有名なのは、グーグルだろう。マインドフルネス瞑想を基にしたSIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ=己の内を探れ)というプログラムを作り上げたのは、同社のITエンジニア、チャディー・メン・タン(以下メン)である。
彼が著した『サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法』(英治出版)は世界中に翻訳され、グーグルのマインドフルネス・プログラムをワールドワイドに広めた立役者でもある。
そもそも、マインドフルネス瞑想とは、「マインドフル(心が充足する)」状態へ持っていくための瞑想である。これをEQ(心の知能指数)育成プログラムとして発展させたのがSIYである。
メンは、EQを上げることが、仕事のパフォーマンス、リーダーシップ、幸福の3つを向上させることに繋がると言う。
当初、SIYは瞑想プログラムとして始まったが、後に脳科学の専門家を招いて、科学的にどのような効果があるかを解明したり、ビジネス的な要素を盛り込んだりして進化させていった。
欧米では、瞑想は「ヒッピーや一部のスピリチュアル信望者がすること」というような、怪しいものとして見られていた。エンジニアのメンはそのイメージを払拭し、「科学的にも効果が実証された近代的なメソッド」として作り上げた。
グーグルでは、SIYの参加はあくまで任意としている。しかし、プログラムに参加した多くの社員が生産性の向上などの効果を実感しており、ストレス軽減から対人関係がうまくいくようになったという声もある。
そのおかげか、今では5万人いる全社員のうち、10%にあたる5,000人がSIYに参加するようになったという。
社員が立ち上げ。メルカリの「マインドフルネス部」
アップル、ヤフー、ゴールドマン・サックス、P&Gなど国内外の有名企業がマインドフルネスを導入しているが、ひとつ面白い例を紹介する。それはフリマアプリのメルカリだ。
通常、企業側から社員研修の目的で取り入れられることがほとんどだが、メルカリでは社員からのボトムアップで始まり、部活動形式で楽しみながら取り組まれている。
マインドフルネス部は、毎日夕方に活動を実施。専門家による研修プログラムを取り入れたり、基礎知識の勉強会を開いたりなどと、社員自らが楽しみながら精力的に動いている。
次々と新しいサービスを打ち出し、ぐんぐん成長していっているメルカリの原動力は、マインドフルネスの効力かもしれない。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)