気候変動をはじめ、地球規模の環境問題が取りざたされている。2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも多くの企業が賛同し、今や環境への配慮は企業評価の一指標にもなっている状況だ。

特に海洋汚染の大きな原因となっているのが、プラスチックごみの流出だ。レジ袋の有料化や紙製ストローへの代替など、世界中で多彩な手段による“脱プラ”の取り組みが行われている。そんな中、株式会社TBMが開発した新素材「LIMEX(ライメックス)」が紙とプラスチックに代替する素材としてさまざまな分野で注目を集めている。

いま、世界の環境問題はどのような状況にあるのか。またLIMEXにどのような可能性が秘められているのかを、同社のコーポレート・コミュニケーション本部 カルチャーアーキテクトの島津凱 氏に伺った。

生産のために必要なのは“石灰石”。環境負荷を減らす新素材・LIMEX

——貴社で扱われているLIMEXとは、どのような素材なのですか?

島津:LIMEXの主原料は石灰石です。石灰石の成分である炭酸カルシウムを樹脂と混合することで、紙の代わりとして使えるシート状にしたり、従来のプラスチック製品と同じように成形したりといった代替が可能なものです。

紙を作る際には木(パルプ材)と水が必要ですが、LIMEXであれば木と水をほぼ使わず作ることができます。

通常、紙を約1トン作るためには木を約20本、水を約85トン使います。LIMEXの場合は石灰石約0.6~0.8トン、樹脂約0.2~0.4トンで同じ量の紙の代わりとなるLIMEXシートを作ることができます。

また、プラスチックの代替についても、100%石油由来樹脂から作られていたものと比べると、LIMEXに置き換えることで、石油由来プラスチックの使用量を削減でき、資源枯渇の問題解決に貢献できます。

——プラスチックは海への流出による環境汚染も懸念されていますが、リサイクル面についてはどうですか?

島津:LIMEXはリサイクルが可能です。従来、プラスチック製品はリサイクルをくり返すことで質が下がってしまうのが問題点でしたが、LIMEXは石油ではなく無機物である石灰石が主原料ですので、リサイクル効率も向上しています。

——現在、LIMEX製品はどのようなところで使われていますか?

島津:紙代替は飲食店のメニュー表や企業が発行するCSRレポート冊子、名刺などに導入いただいており、プラスチック代替ではレジ袋や買い物袋、企業で配布するノベルティグッズ、店頭のディスプレイや電飾ポスターに使用される電飾シートなど、さまざまな場面で使用されています。

メニュー表は、通常の紙のように防水用のラミネートの必要がなく、LIMEXのみで運用ができます。その分コストもカットできるので、価格競争力がある点も評価されています。

石灰石は非常に安価で埋蔵量も豊富なため、価格変動性が低い点も、石油由来のプラスチックにはないメリットといえますね。


LIMEXはさまざまな形で紙やプラスチックの代わりに利用することが可能だ

環境配慮だけではなく、経済性も追求

——環境に配慮した取り組みを行っている企業は数多くありますが、貴社は2019年10月現在で国内外から100億円を超える資金調達を達成していますね。これにはどのような要因があると思いますか?

島津:やはり社会の動きに影響を受けている面はあると感じています。サスティナブル(持続可能)という言葉が世界中で浸透し始め、環境をはじめとする多くの問題解決が待ったなしの状況になっているなかで、事業として環境問題にアプローチできるという点が、大きなポイントだと考えています。

投資家の方と話す場面では、日本の製造業として世界に挑戦できる企業として期待をされているのも感じます。IT系では日本からも大きな企業は生まれていますが、LIMEXのように“素材”で勝負するものづくりの企業が現れたことを歓迎していただけていると思います。

——環境に貢献する企業への投資というと、どこか利益を度外視した“募金”のような感覚があるかもしれません。その点で、貴社の事業はビジネスとしてスケールする可能性を感じている人が多いということでしょうか。

島津:そうですね。当社が掲げているのは“エコロジー”と“エコノミー”の両立です。先ほど例にあげたリサイクルプラスチックもそうですが、環境にいいものって少し高かったりしますよね。ですが、それはビジネスの場では「コストがかかるから」となかなか受け入れられません。

当社代表の山﨑が、台湾の「ストーンペーパー」輸入から「LIMEX」の自社開発に踏み切ったのも、その理由からです。
ストーンペーパーはLIMEXと同じように石灰石を原料としており、環境に配慮した紙として注目されました。でも、品質や比重、そしてコストの面で課題があり、日本で大きく流通させられるような商品にはできなかったのです。

——そこで自社開発に踏み切ったのですね。

島津:その際の資金調達も、やはり“期待”から得られたものでした。当時は商品のサンプルもできていませんでしたから(笑)。その中で事業の可能性やビジョンに共感していただけたということは、企業様や投資家の方からの期待も大きかったのだと思います。

リサイクルの一歩先。“アップサイクル”をめざすLIMEX

——LIMEXのリサイクルは通常の紙やプラスチックとは異なりますよね。そのサイクルはどのように構築されているのですか?

島津:現在、LIMEX製品はBtoBプロダクトとして導入企業の内部で使われていることが多いので、我々が直接回収してリサイクルを行っています。

また、2019年5月より神奈川県と連携しながら「かながわアップサイクルコンソーシアム」を発足しています。


かながわアップサイクルコンソーシアム

——“アップサイクル”とはどのようなものですか?

島津:Aから再びAを作るのがリサイクルだとすると、アップサイクルはAから価値を高めたBを作り出すことです。

例えば海外企業の事例ですが、カフェで回収したプラカップを店内で使用するプラスチック製家具に作り替えたり、海で回収したプラスチックごみをスポーツシューズやウェアの原料に使ったり、といった取り組みがあげられます。

かながわアップサイクルコンソーシアムではLIMEX製品を使ってこの「使う」「回収する」「作る」という循環システムづくりを自治体や県内の企業、学校などと協働して行っています。

ここで得られたモデルを他の自治体などへ展開し、アップサイクルという概念をもっと日本国内でも浸透させていけば、LIMEXの回収とリサイクルもスムーズに導入できると考えています。

新素材「LIMEX」で実現したい未来とは

——世界では、どのような環境問題に関心が集まっているのですか。

島津:プラスチック使用量の削減は世界の目線からも大きな関心事です。

例えばEUでは2021年に使い捨てのプラスチック製品の使用を禁止すると発表されていますし、ケニアでは2017年から使い捨てのビニール袋を所持しているだけで多額の罰金や禁固刑を科す法律が施行されました。日本でもレジ袋の有料化が進んでいますし、世界中が“脱プラ”に向けて動いていますね。

また、水リスクも大きな注目を集めています。日本自体は水資源が豊かなのであまり実感することはありませんが、多くの食料を海外からの輸入に頼っています。

こうした農業や畜産業に必要で、間接的に関わりのある水のことを「仮想水」といいますが、食料輸入の相手国で水が足りなくなると、日本の食卓にも影響が出ると予想されますよね。

——貴社やLIMEXは、これらの環境問題の解決にどのように貢献できると思いますか?

島津:紙や石油由来のプラスチックは水や木、石油など多くの資源を必要とするものですが、同時に文明にとっての必需品でもあります。これらをLIMEXで代替することで、資源の枯渇問題と環境問題にアプローチできると考えています。

私たちは「LIMEXをたくさん売る」ことをゴールにしているのではなく、LIMEXの普及、そしてLIMEXの循環が当たり前に行われる世界をつくり、当社のミッションである「この星をいいほうへ変えてゆく」ことが目的です。

2050年には世界人口の4割が水ストレスを感じるようになる、2050年にはサンゴ礁のほとんどが死滅する……。そんな未来予測が出ている今、すぐにスピード感をもって取り組まなければならない問題だからこそ、私たちにできることがあるという使命感をもっています。

取材・文:藤堂麻衣
写真:西村克也