このところ「EVシフト」という言葉を見聞きすることが多くのなったのではないだろうか。ガソリン車から電気自動車への転換を図る世界的な動きのことで、エコ志向の高まりなど消費者意識の変化からこの動きは加速しているといわれている。
その現状はどのようなものなのか。国際エネルギー機関(IEA)の最新レポートでは、EVにまつわる世界的な動きをまとめており、現状把握の参考になる。
2018年末時点における世界全体の電気自動車の数は510万台と前年から200万台増加。電気自動車の年間登録件数は、前年比で2倍ほど増えたという。
世界最大のEV市場は中国。2018年には110万台のEVが販売され、累計台数は230万台に達した。世界2番目のEV市場は欧州。
2018年の販売台数は38万5,000台、累計台数は120万台。欧州に次ぐ市場は米国で、同年の販売台数は36万1,000台、累計台数は110万台に達した。
新車販売に占めるEV比率で世界トップとなったのはノルウェー。2018年に販売された自動車のうち、実に46%がEVだったという。これは2位のアイスランド(17%)の2倍以上、3位のスウェーデン(8%)の6倍近い割合となる。
こうした数字はさまざまなメディアに取り上げられ「EVでカギとなる市場は中国だ」との主張を生み出す論拠にもなっている。
しかし、2019年に入り状況は変わり始めている。中国のEV販売に陰りが見え始めたのだ。たとえば、EVスタートアップの理想汽車はセダンモデルの開発を中止。消費者心理の冷え込みや投資家の投資意欲が減退したことなどが理由だと報じられている。
このほか不動産市場の冷え込み、銀行の倒産、スタートアップの大量解雇など、景気悪化に匂わす報道が増えており、中国におけるEV販売台数は頭打ちになる可能性が高まっている。EV市場のプレーヤーらは他の市場への関心を高めざるを得ない状況といえるだろう。
こうした中で注目度が高まっているのがインドだ。EV関連の取り組みで、欧米や中国に遅れを取っているのは事実であるが、その遅れを取り戻すべく政府主導の取り組みが加速し始めている。
EV後発国インド、2030年までに100%EV化の大胆目標
インドでEVに注目が集まるきっかけの1つになったのが、2013年に同国政府が発表した「National Electric Mobility Mission Plan 2020」だろう。
エネルギー安全保障や大気汚染問題を念頭に、EVシフトの必要性と政府の取り組みの重要性に言及、2020年までに二酸化炭素排出量を1.3〜1.5%削減することが目標に掲げられた。
インドの大気汚染
これに続き2016年には、インド国内の移動手段を2030年までに100%電動化するという大胆な具体的な目標数値が発表され、国内外で大きな話題となった。
直近では、政府系シンクタンクNITI Aayongが発表したEV促進政策への注目が集まっている。地元メディアによると、EV充電ステーション建設を促進させるために、インド重工業省が電力企業に対し優遇措置を検討しているという。
こうした動きから分かるのは、インドではまだEVインフラが十分に整備されておらず、EV販売台数も限定的であるということだ。
実際インドのEV販売状況はどのようになっているのか。同国EV業界団体SMEVが統計を公表している。それによると、2018〜2019年、国内のEV販売台数は76万台に上ったという。ただし、その多くは3輪車(リクシャー)であり、4輪のEV自動車の販売は3600台にとどまっている。
EVリクシャーの販売台数は63万台と全体の80%以上を占める。リクシャーに次いで販売が多いのが2輪EVで、販売台数は12万7,000台。
地元メディアによると、現在テスラ、BMW、アウディ、メルセデス・ベンツ、トヨタ、日産などの海外大手メーカーがインドでのEV販売に興味を示しているが、輸入関税が高く海外メーカーが価格競争力を持つのは難しい状況という。インド政府は、タタ・モーターズやマヒンドラなど国産メーカーのEVを普及させたい思惑があるためだ。
それでも、アウディが2019年第4四半期にインドでEVスポーツ車をローンチする計画を発表するなど、インドEV市場の可能性にかける海外メーカーは少なくない。
インドのEVハブとして発展を遂げるカルナータカ州
インドのEV動向を知る上で重要となるのが同国南西部に位置するカルナータカ州だ。州都は「インドのシリコンバレー」と呼ばれるバンガロール。
IT変革でも他の州をけん引する役割を担ってきたカルナータカ州は、EVシフトにおいても前衛的な取り組みを導入している。その1つが「EV・エネルギー貯蔵政策2017」。EVの販売促進だけでなく、充電ステーションの設置、さらにはEV製造向けの特区を開設することなどが盛り込まれている。インドのEVハブを目指す取り組みとして期待を集めている。
同政策のもと、カルナータカ州政府はEVの研究開発や製造拠点として使えるよう州内のいくつかの土地を開放することを決定。地元紙Times Of Indiaによると、州政府はEVメーカーに拠点開設の打診を行い、概ね肯定的な反応が得られたという。
ただし、州政府はバンガロールから400キロほど離れたダールワールでの拠点開設を打診しているが、多くのメーカーは州都バンガロール周辺の土地に興味を示しており、双方の意見に隔たりがあるとも報じられている。
インドのITハブ、バンガロールはグーグルやIBMなど多くの米テクノロジー大手が拠点を構えるハイテク都市。インド中からハイテク人材が集まる場でもあり、すでにEVエコシステムも醸成されつつあるといわれている。
インドの主要EVプレーヤー、Mahindra Electric、Ather Energy、Vogoなどが拠点を構えており、他のEV企業がこのエコシステムに参入したいという動機があっても不思議なことではないだろう。一方、カルナータカ州政府は、バンガロール付近の土地はコストが高くなっており、企業の負担になると指摘している。
Mahindra Electricウェブサイト
カルナータカ州政府はこうした取り組みのほか、EVスタートアップへの資金援助、EV市場向けの人材育成、試験センターやインキュベーション・研究所の開設などを支援することで、州内のEVエコシステムを一層強化する動きを加速している。
カルナータカ州がインドのEVハブとしてどのような発展を遂げるのか、今後の動向からも目が離せない。
文:細谷元(Livit)