近年、農業とITビジネスがコラボレーションしたり、大学と企業の産学連携によって商品を開発したりなど、異業種間取引によって新たな価値を創出していく動きが活発になってきている。さらに、今後IoT化が進むことによってその動きはより勢いを増していくと思われる。

その中で必要不可欠になってくるのが、業界内ではもちろん、外部の相手に対してもスムーズに納得させることができる説明スキルだ。今回は、教育コンテンツ・プロデューサーとしてコンサルティングなどを行っている犬塚壮志氏に、相手に一目置かれる説明の極意を、業界内・外に分けて伺ってみた。

業界「内」で一目置かれる説明術

まずは、日頃関わることが多い業界内や会社内の相手に一目置かれるためにはどうすればいいのだろうか?ポイントは以下の2つである。

仕事や業界の意義を再定義する

犬塚氏は予備校講師時代、生徒にこのようなアドバイスをしたという。「予備校では、教わる講師はできるだけ選ぶように」と。

なぜなら、18歳や19歳の生徒たちが先生を選べる初めての機会だからだ。今まで生徒たちは学校をはじめ、多くの場合は決められた先生に勉強を教わってきた。そもそも授業は、使用する教材はだいたいが同じものであり、最終的には人で学習成果が変わってしまうという。それは単純に授業のレベル感やわかりやすさということではない。話し方や質問の受け答えなど、人間的な部分でも自分にあうかどうかで選ぶよう伝えたという。

このエピソードのポイントは、相手にいかに本質的な話をして、気づきを与えられるかということだ。犬塚氏の著書『感動する説明「すぐできる」型』内においては「カットダウン」の型と呼ばれている説明フレームを用いて、予備校は単に大学受験に受かるための場所だというだけでなく、教育において初めて受け手が教師を選択できる場であるという考えで再定義を生徒たちに行ったのだ。それによって生徒たちに学ぶことへの理解を深めるとともに、キャリア形成の手助けをすることができるのである。

このように、改めて自分が属している業界や仕事の意義を再定義して伝えることによって、効果的に相手のモチベーションを高めたり、メリットを訴求したりすることができるのである。

業界の常識を覆す

あわせて、もう一つ意識しておきたいのが、業界の常識を覆すような説明だ。長く同じ場所に身を置いていると、知らず知らずのうちにその業界や会社の暗黙のルールや常識のようなものがすり込まれている。時にはそれを壊すような大胆な説明を取り入れることで、相手に一目置いてもらうことができると犬塚氏は語る。

長年ルーティン化している業務があれば、本当にそれは効率的なのか?
潰しがきかないといわれている専門分野があった場合、本当にそうなのか?

もちろん語るだけでは相手の理解は得られない。根拠をもとに少しずつ実績を出し、「常識は壊せる」という事実を発信していくことで、自分の行った説明に対して説得力を持たせることができるのである。

けれども、業界内にいるとなかなかそういった気付きを得ることは難しい。そのため、ビジネス書を読んだり、セミナーに通ったりして、業界外の人から話を聞くなどしたりして日頃から外部のナレッジをインプットすることも大切だという。

業界「外」で一目置かれる説明術

ここまで業界内での説明術をお伝えしたが、業界外になると、その方法は大きく異なる。では、どのようなことを意識した上で説明をすべきなのだろうか。

専門用語・業界用語・略語を正しく説明する

まず業界外の相手に説明する時に意識しておきたいのが、共通言語が違うということだ。

例えば、「重版」という言葉がある。一度出版した書籍を、再び印刷出版をすることだ。そのため、「この書籍が重版になった」といえば、その書籍の売上が好調だという意味を含むことになるが、そもそも「重版」という言葉を知らない相手にこのまま伝えても、そのその意味合いや凄さを、十分に伝え切ることができない。

このように、業界内・社内では当然のように行き交っている言葉や数値のデファクトスタンダード(事実上の標準)が、外部の人間には通常しない場合も多い。そのため、あらためて自分が使っている専門用語や業界用語、略語を、説明できるようにしておくことも大切だと犬塚氏は述べる。

文脈(コンテキスト)を正しく説明する

そして、もう一つ気を付けておきたいのが、因果関係やメカニズムを中心とした説明をするということだ。

例えば、2020年から教育ブームが訪れるといわれている。犬塚氏によると、これは教育業界では常識となっており、それに伴ったさまざまな取り組みが予定されているという。けれども、一歩業界を出ると、その常識を知らない人も多い。

そのため、教育ブームに絡んだ説明をする際は、そもそもなぜブームになるのか、そしてそれはどういうものなのか、というところから明確にしておかなくてはならない。どの程度業界知識を持っているのか、またどのような立場で話を聞こうとしているのかなど、相手の持っている情報やスタンスを考慮した上で、わかりやすい説明を心がけることが重要である。

相手に一目置かれる説明とは、テクニックは違えど、業界の内外問わずいかに自分が提案するものの価値を伝えられるかどうかということである。あわせて、相手のメリットにどう繋がるのかを明確にすることもビジネスにおいては欠いてはならない。

現代は業界内外問わずさまざまな相手と簡単に繋がれる時代である。そのため、相手の心を動かす説明スキルを身につけることは、新たなマーケットを獲得するための重要な足がかりになるはずだ。

犬塚壮志(いぬつか まさし)
福岡県久留米市出身。教育コンテンツ・プロデューサー。当時最年少の25歳という若さで駿台予備学校の採用試験に合格し、化学講師としての勤務。その後独立し、現在は、大人の学び直しをテーマにした株式会社士教育と大学受験専門塾のワークショップの2つの会社を経営。自身のノウハウを活かした各種教育プログラムを開発・展開し、多方面でセミナーや講演会などにも登壇している。主な著書に累計5万部の『頭のいい説明は型で決まる』、発売1ヵ月で1.5万部を突破した『感動する説明「すぐできる」型』(共に、PHP研究所)などがある。