2019年4月、全世界で公開された「アベンジャーズ/エンドゲーム」。全世界歴代トップの興行収入を獲得した。(27億9020万ドル/2019年7月20日時点)日本国内での興行収入は約61億円、観客動員数は420万人(2019年7月時点)を突破している。

アベンジャーズはアメリカで人気の漫画が原作だ。このアメリカの漫画を通称“アメコミ”と呼ぶ。アメコミ原作の映画は年々増え続けており、どの作品も高い興行収入を獲得していることから、全世界でのアメコミ人気が伺える。

日本でもアメコミ人気が加速しており、その象徴となっているのが2016年から開催されている“東京コミコン”だ。

日米の映画・コミック・アニメ・ゲームなどのポップカルチャーを扱うイベントで、開催3回目となる2018年の来場者数は63,146人。初回2016年の来場者数は約35,000人、2回目2017年の42,793人と1年目から来場者数が増え続けていることから、アメコミビジネスが日本の経済にも影響を与えていくのではないだろうか。

日本のアメコミ市場とは、そしてアメコミ人気が日本にどのような影響をもたらすか、さらに東京コミコンについて、同イベントを主催する株式会社東京コミックコンベンション 代表取締役社長 兼 東京コミコン実行委員会 実行委員長を務める胸組光明氏に話を伺う。

マーベル映画がもたらした、日本におけるアメコミ市場の可能性

日本におけるアメコミの市場は多岐に渡る。コミックだけでなく、アベンジャーズやバットマンのようにアメコミをテーマにした映画、フィギュアやトイといったホビーなど様々なコンテンツの上でアメコミ市場が成り立っている。

このアメコミ市場、日本ではここ10年ほどで急速に広がっているのだ。ディズニーがアメコミの最大手である出版社マーベルを買収したことを皮切りに、数々のマーベル作品をハリウッドで実写化。2008年公開の『アイアンマン』から始まったマーベルシリーズ映画は、2019年公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』までに計22本の作品を実写化している。

このマーベル作品のハリウッド映画化こそが、日本にアメコミの認知を高めたのではないかと胸組氏は語っている。


東京コミコン実行委員会 実行委員長 胸組光明氏

胸組「アメリカで人気のコミックがハリウッドで映画化したことによって、日本のアメコミ市場は何十倍という規模になっていると実感しています。

特にディズニーの持つマーケティングの力は世界有数。アメコミが世界から人気を得ることができたのは彼らの力あってこそだと思う」

そして、2019年11月にはアメリカでディズニーの動画配信サービス「Disney+」が開始される。アベンジャーズシリーズに登場したマーベル作品のオリジナルドラマの配信も行われるのだ。日本での配信開始がいつになるかはまだ未定であるものの、日本でのアメコミ市場の広がりはまだまだ可能性を秘めているといえるだろう。

日本のアメコミ人気を牽引する『東京コミコン』とは

このアメコミ人気にいち早く乗ったコンベンションが、『東京コミコン』だ。


東京コミコン2018 ダイジェスト映像

『コミコン』とは、アメリカのサンディエゴ発祥の、アメコミを含めたポップカルチャーの大規模なイベントで、毎年夏に開催されている。サンディエゴ以外にも、ニューヨーク、さらにフランス・アジアなどアメリカ以外の国の都市でも毎年開催されており、2016年日本での開催が決定したコミコンこそが『東京コミコン』である。

アップルの共同創業者の一人である“スティーブ・ウォズニアック”が『最新テクノロジーとエンタテインメントの融合』をテーマに発足され、アメコミの出版社として有名なマーベルの名誉会長である“スタン・リー”が東京コミコンの名誉親善大使となっており、世界的にも注目を集めた。

他国のコンテンツを用いたコンベンションの難しさ

しかし、なぜ2016年という年に、アメコミの開催へ踏み切ったのだろうか。当時アメコミは日本で人気を集めつつあったが、アメコミ実写映画の興行収入はそれほど振るってはいなかったのだ。

胸組「日本でコミコンを開催するのは、かなりチャレンジングではありました。サンディエゴ・コミコンは1970年に開催された歴史あるイベントです。2019年の来場者数は20万人以上、今やアメリカのポップカルチャーイベントの中でも最大級。日本でここまでのイベントに持っていくのはかなり難しいと思いました。

さらに日本国内でも、ワンダーフェスティバルやアニメジャパンなど大規模なコンベンションが複数開催されています。それと同じレベルのイベントを、“他国から持ってきたコンテンツで”いきなりできるかと言うと、そう上手くはいかない。なので、数年前からコンベンション開催に向けた助走期間を設けていたんです」

胸組氏は株式会社東京コミックコンベンションとは別にスタイルオンビデオ株式会社の代表取締役を務める。スタイルオンビデオでは、1998年頃から映画プロップ(小道具)展示イベントを、2000年にはハリウッドの俳優を日本に招待してファンと交流するイベントを行っていた。

徐々に集客の見込みが見えてきたことで、2012年にはホテルの宴会場を貸切、小規模のコンベンション『ハリウッドコレクターズコンベンション』を開催。

そのイベントが大きな話題を呼び人気を博したこと、そして日本でのアメコミに対する理解が深まってきたことにより、2016年『東京コミコン』の開催に踏み切った。

初開催時の東京コミコンの来場者数は約35,000人だったのに対し3回目の開催となる2018年での来場者数はなんと約63,000人にまで増加。4回目の開催となる2019年には70,000人は見込めるのではないだろうか。

素人目で見ればかなり多い来場者数だと感じるが、日本におけるアメコミ市場はまだまだ黎明期だと胸組氏は話した。


東京コミコンInstagram

胸組「日本ではアメコミを映画で知る人がほとんどです。本来のアメコミと呼ばれる原作のコミックから入る人はほんのわずか。輸入品かつ翻訳をしなければならないことから高単価になってしまい部数もあまり出ないので、アメコミを取り扱う書店も少ないんです。

そのため、アメコミの存在を知らない人もまだまだ多くいるのが現状だと思います。東京コミコンを知らない人もまだまだ沢山いますし…これからもっと大きくしていかなきゃいけないマーケットだと思います」

アメコミが日本のカルチャーレベルを引き上げる

ここで一つ疑問に思うのが、他国のカルチャーを日本に持ってくること、さらにマーケットを広げることにどのようなメリットをもたらすのかだ。

日本には日本独自のカルチャーが存在する。わざわざアメリカのカルチャーを日本に取り入れなくても良いのではないかと思うが、実はアメコミが日本のカルチャーへ良い影響を与えることもあるのだという。

胸組「日本のコンテンツを世界にも通用できるコンテンツにする可能性を秘めています。アメコミは今や世界中の人気を集めたコンテンツです。そういった要素を、日本独自のポップカルチャーに組み込むことで、日本国内だけではなく世界の人たちにも注目されるコンテンツが作れるのではないかと。

今でも日本のアニメーションや漫画は世界でも高い評価を受けていますが、その技術をもっと世界の人たちに発信する要素としてアメコミは良い影響を与えると考えています」

近年、AmazonPrimeやNetflixなどの動画配信サービスが普及したことで、日本のポップカルチャーコンテンツが世界の目に触れてきている。アメコミという世界的に人気なコンテンツの要素を取り入れつつ、日本独自の感性や技術を用いることで、より世界から日本のコンテンツへの関心が高まるのではないだろうか。

そして、東京コミコンでも日本のカルチャーが海外の人に注目されるような施策を取り入れている。

胸組「日本のIPを活用したコンテンツや、日本の食文化に触れることのできるブースを設けています。IPを活用したコンテンツは、2017~2018年開催時にウルトラマンシリーズのIPを持っている円谷プロダクションさんに参加してもらい、ステージでのトークショーやブースの設置を。食文化に関しては、初開催時から日本のご当地フードを提供しています。

東京コミコンには世界中から多くの外国人の方に来場して頂いてます。この機会に日本のカルチャーに触れてもらえることで、日本独自のコンテンツの可能性も広がる。アメコミという世界的に人気なコンテンツと、日本独自のカルチャーコンテンツを上手く取り入れて相乗効果を生み出していくことを目指しているんです」

『東京コミコン』をアメコミに興味がない人でも楽しめるコンベンションに

そんな東京コミコンだが、今年の2019年11月に第4回目が開催される。

3回目では前述した通り、多くの人たちが足を運んだ。また、その反響からSNSで東京コミコンを知った人たちも大勢いると話す。

胸組「徐々に来場者数も増え、日本だけでなく世界的にも認知度が高まりつつあるため、来日してくださるハリウッドスターや出展してくれる企業さんが年々増加し、かつ作りこみも凝ったものでアピールするようになってきています。

発表されたゲストだと『シャザム!』で主演を務めるザッカリー・リーヴァイ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズに出演したオーランド・ブルームなど…他にも多くの豪華ゲストが参加予定ですし、出展企業もまだ未発表ですが、今年も昨年以上にパワーアップしたゲストやブースを展開していく予定です」

今年は日本の俳優でありハリウッドでも活躍されている浅野忠信さんが東京コミコンのアンバサダーとなった。イベントの要であるハリウッドからのゲストも豪華な顔ぶれになっている。

しかし、それだけではない。日本とアメリカの有名ホビーメーカーは限定のトイグッズを販売。そして、アメコミを執筆しているアーティストや、グローバルに活躍するイラストレーターなどのクリエーターがブースを出展し、作品の展示・販売を行う『アーティストアレイ』も過去最大の60ブース以上を予定している。

胸組「ありがたいことに来場者数は年々増えていますが、実際に訪れる人の多くは若い女性の方々です。最近はアメコミ市場を女性が支えるという傾向もあって、ほかの類似イベントが過半数が男性来場者であることを考えるとユニークなイベントとして認知されています。ただ、私たちは今後はもっと幅広い層に楽しんでもらいたいと考えています。

年齢層が高めの映画コアファンや家族連れの方でも1日中楽しめるようなコンテンツを増やしていかなければ、イベントとしても長続きしないでしょう。

アメコミや日本のポップカルチャーに興味のない人たちも、東京コミコンに来たことで、アメコミを知り、日本のポップカルチャーに触れ、カルチャーに対して興味を持ってもらえるようなイベントにしていきます。去年より一層盛り上がると思うので、多くの方たちに体感しに来てほしいです」

【東京コミコン2019 公式HP】

取材・文:阿部裕華
写真:西村克也