評価額10億ドル(約1,000億円)以上の未上場企業「ユニコーン」は、その国のスタートアップシーンの盛り上がりを示す存在として、国内外のメディアや投資家など多方面から注目を集めている。
世界的に見るとユニコーン企業の数では、米国と中国が他国を大きくリードしている状況だが、米中以外の国々でも着実にユニコーン企業は育っており、グローバル市場での展開を進めている。
観光や留学で日本人に人気のあるオーストラリアでも同国を代表するユニコーンが複数登場、同国のスタートアップシーンを盛り上げる存在として、国内外から大きな期待を集めている。
CBインサイトによると、オーストラリアでは現時点で3社のユニコーン企業がある。その中で最も名が知られているのがウェブベースのデザインツールを提供しているCanvaだ。2014年に設立されたスタートアップ。共同創業者でCEOを務めるメラニー・パーキンズ氏は、国内外メディアがこぞって取り上げる人気女性起業家の1人。同社の評価額は現在25億ドル。
評価額がCanvaに次いで大きいのが、中小ビジネス向けの融資に特化したチャレンジャーバンクJudo Capitalだ。評価額は10億4,000万ドル。顧客にカスタマイズされた融資プランを強みとし、大手銀行との差別化を図り、中小ビジネスから多くの支持を集めている。
そして3つ目のユニコーン企業が、低コスト海外送金サービスを提供するフィンテックスタートアップAirwallexだ。オーストラリア国内メディアがいま最も注目している企業といってもいいかもしれない。なぜなら、オーストラリア史上最速でユニコーンとなったスタートアップだからだ。
Airwallexとはどのようなスタートアップなのか。最速でユニコーンとなった理由を探ってみたい。
オーストラリア史上最速でユニコーンになったAirwallexとは
シドニー・モーニング・ヘラルドやCNBCなどこのところオーストラリア国内外メディアがユニコーンとなったAirwallexを取り上げている。
Airwallexが設立されたのは2015年末。ジャック・チャン氏、ルーシー・リュウ氏など金融やソフトウェア開発を専門とする5人の中国系創業者らによってメルボルンで立ち上げられた。
同社が提供するのは法人向け低コストの海外送金サービス。日本でも認知され始めている個人向け海外送金サービス、トランスファーワイズの法人版などと呼ばれている。
銀行を介した場合、法外な手数料が発生する海外送金。個人だけでなく企業にとっても無視できないコストになっている。ユーザーはAirwallexが提供する「グローバル口座」などのサービスを通じて、低コストでの海外送金・着金が可能となる。
共同創業者の1人でCEOを務めるジャック・チャン氏。これまでオーストラリアのさまざまな金融機関でシステムエンジニアを務めてきた。
この間、副業として始めたコーヒーショップでの経験が、Airwallexを立ち上げるきっかけになった。コーヒーショップで使うコーヒーカップなどを海外で購入した際、その取引にかかる手数料やプロセスの煩雑さに頭を抱えたという。
Airwallex共同創業者・CEOのジャック・チャン氏(Airwallexプレスキットより)
CNBCによると、ここにビジネスチャンスを見たチャン氏が友人らに声をかけると5人が集まり、Airwallexを立ち上げる運びとなった。創業者自身の貯金と家族・友人らからの支援で、創業資金となる100万ドルをかき集め、2016年には取り引きシステムをローンチ。
その後大手投資家からの資金調達まで時間はかからなかったという。創業者らは英語と中国語を自在に操れるため、英語圏・中国語圏の投資家に効果的にアプローチできたことが考えられる。
実際、米VC大手のセコイア・キャピタル、中国テック大手テンセント、中国VC大手ホライズン・ベンチャーズなどから資金を調達している。
自己資金だけでなく、家族・友人らが資金を融通し合う中国の習慣。アリババの創業期を彷彿とさせるものでもある。オーストラリア史上最速でユニコーンになった理由はここにあるのかもしれない。
同社ウェブサイトによると、現時点で送金可能な国の数は130カ国以上。国内外8カ所にオフィスを構え、従業員数は260人以上だ。
Airwallexを含めオーストラリアのスタートアップにはこれまで以上の活躍が期待される。中国経済の低迷が叫ばれる中、鉄鉱輸出や不動産投資で中国に大きく依存してきたオーストラリア経済が悪化することが見込まれているからだ。
このことは豪ドルの低迷や国内不動産市場の数字にあらわれ始めている。中国の自動車販売が大きく落ち込み、テックスタートアップによる解雇が増えるなど中国側の景気低迷を示唆する情報も増えてきている。
オーストラリアにとって中国は最大の輸出先。中国での景気減速がオーストラリア経済に影響を与えるだろうとの公算が高まっている。また、中国資金の流入によって支えられてきたオーストラリアの不動産市場も、中国側の投資意欲減退で、後退を余儀なくされる可能性も指摘されている。
中国依存、資源依存のあり方を大きく変えることができるのか。国内テクノロジースタートアップの活躍でオーストラリアの経済はどのように変わっていくのか、今後の動向にも注目していきたい。
文:細谷元(Livit)