SNSをはじめオンライン上のコミュニケーションが盛んな現代だが、今「リアルな体験」の需要が高まっている。各地にリアル脱出ゲームや、VR体験施設などがつくられている点でもその人気がうかがえる。

そんななか横浜に、リアル体験を重視した複合エンタメ施設「アソビル」が2019年3月オープンした。

このアソビルは横浜中央郵便局の別館部分をリノベーションして生まれた、地上4階~地下1階建のビルに、フロアごとにテーマの異なる様々な体験が可能な複合型体験エンタメビルだ。

同施設の運営元である、株式会社アカツキライブエンターテインメントは、ソーシャルコンテンツが盛んな現代において、なぜリアルな体験のできるエンタメ施設に挑戦したのだろうか。そして今の若者が飢えているアソビの感覚とは何か。今回はマーケティング本部長 山岡大介氏に話しを伺った

子供から大人まで様々な“体験”を。アソビルが提供するエンターテインメント

——「アソビル」プロジェクトは、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

運営元の株式会社アカツキライブエンターテインメントができる前に、ASOBIBAアソビバという会社でサバイバルゲーム施設の開発・運営を行なっていました。

その後「これまでにはない、リアルなエンターテインメント施設(以下エンタメ)をつくりたい」というビジョンが一致した株式会社アプト、株式会社アカツキと組み、「株式会社アカツキライブエンターテインメント」に社名変更。この施設の開発運営を手がけることになったのです。

——各フロアで提供するコンテンツに違いがあるとのことですが、どのような狙いがあるのでしょうか。

アソビル自体は「遊べる駅近ビル」というコンセプトの元、利用者の方々に“わくわくドキドキする体験”を届けることを志しています。なので、各フロアで違う世界観の設計を行うことで様々な年齢層の利用者に楽しんで頂くことを意識しています。

●1Fは“食のエンタメ”による「横浜駅東口POST STREET」

1階のテーマは「横浜が好きな人による、横浜を好きになってもらうための場所」です。横丁感のある「横浜駅東口POST STREET」があり、16の飲食店が軒を連ねています。飲み屋からドーナツ屋まで、食のエンタメをハシゴできる空間です。

●2Fは“遊びのエンタメ体験”による「ALE-BOX(エールボックス)」

「厳選されたエンタメ体験のセレクトショップ」をコンセプトとした体験型フロアです。この階にはうんこミュージアムやリアル脱出ゲームなどの、体験型エンタメコンテンツが入っています。

●3Fは“ものづくり体験”ができる「MONOTORY(モノトリ―)」&様々なイベントが開催される「STAMP HALL(スタンプホール)」

日替わりで様々なワークショップが体験できるものづくりマーケットと、アート展などのイベントを定期的に開催するイベントホールがあるフロアです。

●4Fは“キッズ向けのアソビ体験”ができる「PuChu!(プチュウ)」

「夢中になれる遊びの中にこそ、豊かな学びがあふれている」というコンセプトでつくられた屋内型キッズテーマパークです。随所にデジタルが取り入れた、宇宙を感じるアソビの空間となっています。

その他にも、屋上にはバスケットボールやフットサルのできるスポーツのエンタメ空間、地下1階には新感覚のダーツやビリアードが楽しめる、上質な大人の遊び場カフェ&バー「PITCH CLUB」があります。

アソビル独自のコンテンツ設計が、魅力を最大限に発揮させる

——各階のコンテンツの内容は、どのように決められているのでしょうか。

各階にフロアマネージャーが存在します。彼らが「面白い・楽しい」と思えるコンテンツか否かを大切にしています。もちろん収益性も考慮しますが、自分が楽しいと思えるモノを人にすすめるからこそ、熱が入る。そうすることで本当に面白いものがつくれると考えています。

その中でもさらに特徴的なのが2階「ALE-BOX」です。2階のコンテンツは、3、4カ月程度で入れ替えます。ふたたび数カ月後に遊びに来ると、まったく違うコンテンツが楽しめる。「エンタメの実験場」のようなイメージでつくられています。

もちろん思ったような人気が得られないものは、早目に終わらせることもあります。

——2階のうんこミュージアムは人気のため期間延長されたと訊きました。逆に早く終わらせるコンテンツもある。コンテンツを終わらせるタイミングの見極めについて教えてください。

やはり収益性は重視しています。また、ここでヒットしたものは違う施設や場所で展開させていくという発想が各フロアにはあります。

現にうんこミュージアムのヒットで、お台場にもうんこミュージアムが誕生しました。他にも、さまざまな商業施設や地方からの問い合わせを頂いています。各施設も集客に困っていて消費体験だけでは集客は難しいようです。体験エンタメを入れていこうという流れを感じています。


うんこミュージアム YOKOHAMA

——収益性以外にも、お客様の流れや動向を知る必要があると思いますが、どのように把握しますか?

お客様の様子を実際に見ることはもちろんですが、SNSのチェックもしています。お客様は私たちでは想像つかないような場所を、フォトスポットのように写真を撮りアップしてくれることもあるので面白いですね。

あとWebサイトの動きもチェックしています。予約に辿り着くまでの動線なども分析し、改善すべき点はしています。

リアルなエンタメを提供していますが、SNSやWebの分析などは、お客様のニーズ把握に必要不可欠です。

——施設内のコンテンツやお店は、すべて御社が開発されているのでしょうか?

テナントもあれば共同開発の場合もあります。飲食店は直営店もありますね。また地下1階にあるデジタルダーツは、株式会社アカツキのエンジニアと共同開発しました。

画面に映し出された「動いている的」を狙い打つ、まったく新しいタイプのダーツです。見た目はテレビなのですがダーツの矢を打つとしっかりと刺さり「的」に当たると音が鳴って点数が加算されます。

このように自社グループや協力企業と開発することで、他にはない価値を提供できる点も私たちの強みです。

ネット社会だからこそアソビルがこだわる遊びへの“価値”

——「アソビル」オープンから約3カ月程度経ちますが手ごたえはいかがでしょう。

1年で200万人の予想来場数を見込んでいましたが、倍のスピードで来場頂いています。ちなみに来場の男女の割合は、1階の飲食街は男女半々くらいですが、2階から4階は女性が多い傾向があります。コンテンツ自体、SNSを意識した作りにしているため「映える」写真を撮りに来るお客様もいるようです。

また、横浜駅周辺には圧倒的にエンタメ施設が足りていません。そのため、「駅近」というスポットにいろいろなエンタメが楽しめる施設を作った点も大きいと考えています。

——1番来場数の多い施設はどちらですか。

来場数でいうと1階のグルメストリート「横浜駅東口POST STREET」。コンテンツであれば「うんこミュージアム」が人気です。

アソビルができたことで、駅直通である郵便局横から駅へとつながる通路があることを知らなかった人たちも、実際に使うきっかけになっているようです。

我々の試みとしては 駅近におもしろい施設をつくれば、コンテンツ目当てで、集客の流れができるだろうという思いでつくりました。

また、一般的な商業施設は飲食店を上層に設け、シャワー効果で上層階から下層階へ消費をつなげていきます。しかし当施設はそういうセオリーを持ち込まず、1階にグルメストリートを設けました。仕事帰りにふらりと立ち寄れるようにした訳です。

——その試みが当たったということですね。ではうんこミュージアムがヒットした要因は何でしょうか

うんこミュージアムはそのものの企画も面白いのですが、「みんなで共有できる」点もヒットにつながったと思っています。

実はこの施設は、各フロアマネージャーや代表取締役が世界のエンタメを体験し、そこで学んだノウハウを入れ込んでつくられました。

例えば、うんこミュージアムに入場すると、最初に大きな声で「うんこ」と掛け声をします。みんなで大声を出し、テンションを上げたうえで次のエリアに行く行為は、お客様同士の一体感が生まれやすく「体験」として優れていると思い取り入れています。

——では今、ミレニアル世代の若者はエンタメに何を求めていると思いますか。

『共感』だと私は考えております。Web上のコミュニケーションが増えている分、情報の消費速度も早くなっています。また、現代の若年層はモノを買って満足するよりも一緒に体験して、一緒の構図で写真を撮り、一緒にSNSにあげて共感を得る。消費そのものよりも、Webだけでは完結しないコミュニケーションを求めている傾向にあるのではないでしょうか。

——Webだけでは完結しない、オフラインならではのアソビの良さとは何でしょうか。

五感(味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚)を共有できる点です。例えば4階のキッズ向け施設「PuChu!(プチュウ)」は、跳ねると音の鳴るトランポリンのような遊具や、ボールプールなどがあり、この施設だけで視覚、聴覚、触覚が刺激され共有できます。さらに軽い飲食もできるので、味覚や嗅覚からも楽しみ、人と共有できる訳です。

オンラインでは、なかなかそうもいきません。実際に会ってアソビを共有した時に得られる情報量は、オンラインの時の情報量とはくらべものにならないほど多いのです。

それを体感して頂くため、当施設では各フロアごとに違うアロマを使い、五感で楽しめる空間づくりもをしています。

より来場者に“新感覚”を提供する。「アソビル」が届ける 2019年の夏は

——今後、どのようなコンテンツを増やしていきたいですか。

やはりコミュニケーションを重視しているので、体験しながらさらに友人や家族と仲良くなれるようなコンテンツを広げていきたいです。そして1度訪れた人がアソビルにまた新しい人を連れてきてくれる。もっというと知らない人同士でも仲良くなれる施設を目指していきたいです。

——ありがとうございます。では最後に、夏のおすすめコンテンツを教えてください。

3階のモノづくりができるフロアでは、親子でできる夏休みの自由研究におすすめなテーマがたくさんあります。なかでも陶芸「お皿づくり」はカラフルできれいなので、夏の思い出づくりに良いでしょう。

また8月10日(土)〜9月8日(日)の1ヶ月間限定で、『こびとづかん 夏の自由“大”研究〜世紀の発見「コビトのフン」を見逃すな!?〜』をオープン中です。なばたとしたか氏が手がける絵本『こびとづかん』の世界を楽しめる体験型展示イベントとなっています。

思い切り体を動かしたい人は、水鉄砲バトルが楽しめる「Water Fight!in アソビル」が、屋上で開催されているのでおすすめです。

また地下のカフェ&バー「PITCH CLUB」では、スイカのカクテルが提供されているのでぜひ夏休みに足を運んでみてください。

取材・文:夏野久万
写真:西村克也