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「好きなことで、お金を稼ごう。」SNSでそんな言葉を発信する人も見かけるが、そんな理想論はどこか遠い国の話のように聞こえる。
好きなことで、どうやって生計を立てるの?
いや、そもそも「好きなこと」なんてないし……。
そんな人が大多数の中、小学生のときに志したアナウンサーという夢を叶え、Panasonic Bike親善大使や広島県観光特使を勤め、さらには趣味のゲームですらも仕事として、活動領域の幅を広げる“ハイブリット”アナウンサー楪望氏に「理想の自分」に近づくための秘訣を伺った。
言葉に魂を吹き込む仕事がしたかった。
——幼い頃からアナウンサーが夢だったと伺っています。大人になった後も変わらずにその夢を追っていたのでしょうか?
楪:小学生の時に広島カープのヒーローインタビューを見て、「絶対アナウンサーになるんだ!」と決意したんですが、大人になるにしたがってアナウンサーという職種がかなり狭き門だという事を知り、「私がなれるわけがない。」と思っていた部分もあります。
なので、アナウンサーという夢を描きながらも、教育人間科学部に進学し小学校教員も視野にいれていましたね。
国語の朗読の授業が大好きだったので、場所はどこであれ「言葉に魂を吹き込む仕事」をしたかったのかもしれません。
——では、学校の先生も目指されていたんですね。
楪:最初はそうでしたが、どんどんアナウンサーという職種に惹かれる自分がいたんです。その気持ちに気づいたのは、教育実習で教壇にも立った時でした。「もっとオールマイティーに、もっと広いマスに伝えたい。」と気づいたんです。
それからは進路をアナウンサー1本に絞り、主将候補だった硬式テニス部を辞めて、アナウンススクールに通い始めました。
——狭き門であるアナウンサーに絞ることは、結構な覚悟が必要だと思いますが、自信はあったのでしょうか?
楪:最初は、「私がなれるわけがない」という気持ちでした。でも、ありがたいことに学生時代からテレビのお仕事をさせていただくようになり、その経験を重ねる度に、「いけるかも!」という気持ちが持てるようになっていきました。
小さな成功を積み重ねたことにより、「これ一本でいく!」という自信がついたのかもしれません。とにかく納得いくまでとことんアナウンサーを目指そうって決意しましたね。
その結果、最終的に3社から内定をいただき、その中で一番ゆかりのある広島ホームテレビに入社しました。広島は生まれ育った町であり、アナウンサーを目指すキッカケの場所でもあったので、そこで夢を叶えることができて、本当に嬉しかったです。
——夢であるアナウンサーとして順風満帆だったと思うのですが、何故フリーになったのでしょうか?
楪:フリーになろうと決めた当時は、大阪のテレビ局で契約アナウンサーとして働いていました。実は女性アナウンサーの雇用は全国的に契約社員という形が多く、契約期間の満期を迎えたら退社せざるをえないケースも珍しくありません。当時の私はまさしくその状況で、フリーになるか他のテレビ局にいくかの2択を考えるしかありませんでした。
他のテレビ局からいくつかお誘いいただいたのですが、「一度はフリーの世界で勝負してみたい!」と思い、転向することを決意しました。
一時は貯金残高が6,000円に。フリーになったことで発見できた“自分の市場”
——フリーアナウンサーとしてどんな風に仕事していったのでしょうか?
楪:在籍していた大阪のテレビ局の番組を残してもらっていたので、その番組に出つつ、今まで培っていた人の繋がりでお仕事をいただいていました。
でも、地方局は、ほとんど所属アナウンサーで回しているとこが多く、フリーにまで回ってくる案件が少なかったんです。そういったこともあり、予想以上にフリー生活は大変で、「このままじゃ駄目かも」って何度も思いましたね。一時期は貯金残高が6,000円で、豆苗が友達でした。3回くらい繰り返し育てて食べていましたよ(笑)
そんな中、フリーとして働く中で徐々に気が付き始めたのは、「東京という市場の大きさ」でした。
広島の局を飛び出し、大阪に拠点を移した私にとって、大阪は都会でした。色々な経験ができる場所だな、と。しかし、東京での仕事もさせていただくようになると、東京という地はさらに大きく広く、ビジネスとしてもさらなる可能性があることを感じるようになりました。同じような仕事でも東京では大阪の倍近く違う頂けることもあるんですよ(笑)
大阪と東京を行き来していく中で、次第に東京でのお仕事が増えてきて、気が付けば今の形になりました。
——今はどのお仕事をメインでされているのですか?
楪:現在は「AbemaNews」の正社員として、キャスターをしています。事件事故があれば、現場に飛び出しますし、スタジオにも座って喋ります。いつ何があるかわからないので、ニュースへのアンテナは特に敏感になりますね。
その一方で、他局の番組出演やNewsPicksなどのメディア活動もAbemaNewsキャスターの業務に支障のない範囲でなら、むしろプラスになると、認めていただいています。
入社する時に、そういった働き方も受け入れてくれる組織だったので、このスタイルが成り立ちました。
山里さん💓蒼井さん、ご結婚おめでとうございます!!🎊✨
昨日は会見前の繋ぎをスタジオからお届けさせていただきました🙋♂️🙋♀️
皆さま、ご覧くださってありがとうございました🙇♀️✨山里さん、蒼井さん💓
末永くお幸せに…💒✨#山ちゃん #山里亮太 さん #蒼井優 さん #結婚会見 #abematv #abemanews pic.twitter.com/Cs3nnUUNOG— 楪 望(フリーアナウンサー) (@lnozomi1003l) June 6, 2019
一番大変なのは、スケジュールと体調管理かもしれないですね(笑)
今では、アナウンサー業以外にも、Panasonic Bike親善大使をやっていたり、ゲームのイベントにも携わらせていただいたり、広島県観光特使にも就かせていただいています。ここ数年でSNSを通じた仕事もかなり増えましたね。
——すごく幅広いですね!バイクやゲームのお仕事までされているんですか?
楪:最初はほとんどロードバイクに乗ったことがなかったんですが、「茨城県のPR動画を作りたいからモデルをやってくれないか」とご依頼をいただき、本格的に自転車に乗ることになったんです。そこから自転車の楽しさに魅せられ、気が付けば乗るように…。
その後、おしゃれに乗りこなして欲しいというニーズと、私のマインドが合致したようで、パナソニックサイクルテックさんからオファーをいただき、親善大使をさせて頂くことになりました。
ついにオーダーしていたロードバイクが届きまして🥺✨✨
嬉しくて、ニヤケっぱなしです😂💓
新しい相棒ができました❤️
@panasonicbike #panasonic #ロードバイク女子 #自転車女子 #roadbike #クロモリ #サイクリスト #自転車 #スポーツバイク #親善大使 #cycling #cyclelife #ロードバイク #街乗り pic.twitter.com/OAsyod46LK— 楪 望(フリーアナウンサー) (@lnozomi1003l) May 14, 2019
反対に、ゲームは元々趣味で、偶然仕事になったという形ですね。
ゲーム好きを公言していたわけではないのですが、ある日東京ゲームショーの案件がきて、「2ヶ月で業界のレジェンドくらいの人物と会話できるくらいになって欲しい。」と言われました。
今までやらなかったジャンルのゲームだったのですが、「できます。」と即答して引き受けたことをキッカケに、ゲーム関連の仕事が増えましたね。
——いくら趣味とはいえど、結構難しい条件だと思うのですが。
楪:仕事で「できますか?」と聞かれて、「できません。」と答えることによって、可能性が減ってしまうと思っていて。
だから、できるかどうかじゃなくて、やる。
多少ハッタリでもいいから引き受けてみる。そうしていく度に、できないこともできるようになってスキルも上がってくると思うんです。
そして驚くことに、東京ゲームショーで仕事する度に1日500人ほどフォロワーが増えたんです。これをキッカケに、「もしかして、このポジションってニーズがあるのでは?」と気づきました。
言葉を操ることができて、ゲームの実況やMCができる女性って、きっと希少価値があるのかな、と。
最近は、「どうしたら、趣味を仕事にできるんですか?」と聞かれることもあるのですが、私は、やりたいことをする前に、まず与えられた仕事を完璧にこなすことが大切だと思っています。それを重ねていくことによって、趣味が仕事になっていきましたね。
——趣味であるゲームを仕事にしていく中で、心無いコメントもあったと聞いています。
楪:そうですね。「ただ遊んでいるだけじゃん」と言われたこともあります。でも、実際に私のパフォーマンスを必要としてくれる人がいれば、喜んでいる人もいる。
他人の意見に惑わされないためにも、「人と比べない」というのを、心に決めています。人と比べると、本当にマイナスになるんですよ。
だからこそ、自分のことを、自分で認めてあげれば良いと思うんです。「人は人。自分は自分。」そう割り切るようになってからは、コアな分野であっても自分がやりたい仕事を自信を持ってできるようになりました。
「出来たことを可視化」し自分を肯定することが理想に近づくファーストステップ
——どうやったら他人の目は気にせず、自分に目を向けられるのでしょうか?
楪:私は、自己肯定感を高めるために、月1で棚卸し日を決めています。
できたこと、できなかったこと、やりたかったこと、この一ヶ月の間に何をしていたのかをノートに書き出すんです。このことを棚卸しと呼んでいます。
例えば、会えなかった友達がいたとか、達成したいこととか、勉強しておけばよかったこととか。そして、できなかったことができるようになった時に、線でひっぱって消していくんです。
この作業をすることによって、どれだけ自分のできることが増え、成長しているのかを可視化することができます。繰り返していく度に、自分のことを認めてあげられるようになりましたね。
——日本人は自己肯定感が低い人が多い傾向がありますが、どうしたら理想とする自分に近づけるのでしょうか。
楪:まずは、自分のことを好きになって欲しいです。そのためにも、やりたいことはやってみてほしいなと思います。
『世界にひとつだけの花』の歌詞にも出てきますが、ナンバー1になることよりもオンリーワンになることの方が大事なんですよね。
そして、オンリーワンにしてあげるのは自分しかいない。自分が今後どうやって生きていくかを考え、セルフマネジメントしていきながらキャリアを築くことが大切だと思っています。
——どのようにすれば、「やりたいこと」が見つかるのでしょうか?
楪:横のつながりだけではなく、縦のつながりを大切にすることでしょうか。特に、学生さんの繋がりって横の世界しか知らない方が多くて、広い世界を見られていないんですよ。なるべく多世代の人たちに出会った方がいいと思っています。
そうやっていろんな人の話を聞いていく中で、必ず、心がピクっとなる瞬間に出会えると思うんです。その興味が気が付けば好きに変わり、それが夢になって…と、発展していく気がします。
幅広くアンテナをはっていく中で、興味をもったものを見つけ、それについて深掘りしていくことが大切だと思っています。
- 楪望(ゆずりは のぞみ)
- フリーアナウンサー
横浜国立大学卒業後、2010年にアナウンサーとして広島ホームテレビに入社。その後テレビ大阪を経て2014年にフリーアナウンサーとして独立。現在は「AbemaTV」のAbemaNewsチャンネルにて、キャスターを務めながら、広島県観光特使やPanasonic Bike親善大使に就任している。趣味はゲームで、インターネット番組にてゲーム実況やイベントMCなどを担当している。
取材・文:工藤まおり
写真:西村克也