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仕事における上司からの指摘や叱責。誰もが少なからず経験する一方で、時には納得がいかず、つい苛立ってしまうこともあるのではないだろうか。そのような場面で余計なストレスを抱えて、自身の日々の業務や今後の成長に支障をきたさないためにも、怒りの感情を上手くコントロールしていくことが大切だ。
今回は、アンガーマネジメントコンサルタントの安藤俊介氏監修のもと、そのメソッドを紹介する。
聞いた方がいいことと聞かなくていいことを選別する
安藤氏曰く、上司の怒りに対して、ポジティブにマインドセットを行うための鉄則は「事実のみを素直に聞くこと」だそうだ。なぜなら、人は事実以外のことを怒っていることが多いのだという。
怒りの感情は、「出来事→意味づけ→感情」の3段階で発展していくもので、本来出来事そのものには意味はないのだという。けれども、自分の主観(思い込み)によってそれが意味づけされ、最終的に怒りを伴って相手に「~すべき」だと求めてしまうとのこと。
例えば営業職において、上司から「最近調子に乗ってこんな企画書を作成しているようだが、営業成績が下がっているじゃないか」と指摘されたとする。
この場合、事実は”営業成績が下がっていること”だけだ。”調子に乗っている”かどうかは上司の主観に過ぎず、また成績と企画書が関連しているのかどうかも明確な事実とは言えない。そのため、成績が下がったことについては、しっかり受け止めて解決策を講じるべきだが、それ以外の部分に対しては聞く必要がないのである。
このように、聞いた方がいい”事実”と聞かなくていい”相手の主観”を、都度頭の中で選別することで、上司の叱責に対する余計な苛立ちを抑えることが出来るのだそうだ。
ただし、こういった思考の転換をスムーズに行うためには、日々のトレーニングが必要なのだという。人は意外と事実ではないことを事実だと思いがちなため、一朝一夕で身につくものではない。そのため、出来事、意味づけ、感情という3つに分解して考えることを常に意識し、癖づけをすることが大切だと、安藤氏は述べる。
相手を叱る時の三原則とは?
では、逆に相手を叱る立場になったときはどうすればいいのだろうか。
これも考え方は同様で、事実と結果、そして行動といった三原則に基づいて叱ることがポイントだ。要は第3者が評価しても同じになる部分に関してのみ指摘を入れて、能力や人格、性格といったパーソナルな部分への言及は控えるということだ。
仮に部下が遅刻をしてきた場合、伝える内容は「次から時間を守りなさい」だけで良い。その他の余計な情報は一切不要だ。
叱るということは、イコール相手にリクエストを聞いてもらうこととも言える。相手を凹ませたり反省させたり、ましてや叱る側がスッキリするためのものでもない。
「この人の言うことなら聞いてもいい」と相手が思えるかどうかが重要であり、そう思われないのであれば、お互い無駄なストレスを抱えるだけの、単なる怒り損になってしまうのだと安藤氏は語る。
不安な感情が怒りを生む
さらに安藤氏によると、怒りは万能感情とも表現できるそうだ。
悲しみや不安、焦りといった負の感情が強くなると、最終的に人は怒りという感情に任せてアウトプットすることが、相手に一番伝わると錯覚しがちだという。
叱る方にしても叱られる方にしても、ただ単に怒りに任せるのではなく、不安なら不安、悲しいなら悲しいなど、ストレートに感情をぶつけあうことも大切なのかもしれない。
- 安藤俊介
- 1971年群馬県生まれ。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会・代表理事、アンガーマネジメントコンサルタント。2003年に渡米し、アンガーマネジメントのノウハウを習得。帰国後は日本における第一人者として、企業や医療・教育機関などで講演や研修等を行っている。また、ナショナルアンガーマネジメント協会ではたった15名しか選ばれていない、最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにも、アジア人としてただ一人選ばれている。
取材・文:志田 智恵