近年、「働き方改革」など、国を挙げて従来の働き方を見直す風潮が高まっている。

以前は「新卒で就職し、定年まで勤め上げる」というのが理想的とされていたが、人材は年々流動化し、キャリアアップのための転職ももはや当たり前の時代となってきた。

「働き方」のインフラや見方が大幅に変化したことで、近年ではフリーランスや副業など、「時間や空間に縛られない働き方」や「組織に捉われない働き方」が注目されている。

現在、「新卒一括採用」「終身雇用」「年功序列」など、古くからの日本的経営は時代錯誤となりつつあるのだ。

そのような背景の中、前人未踏の人脈シェアアプリ「conema(コネマ)」がローンチされた。

conema バリュレイト
conema 公式HP

同サービスは、個々人が持つ人脈を他者にシェアすることで、収益を得ることができるといったもの。

現代社会において「人脈」を持つことは、属している組織やチームに決して翻弄されることのない、一つの大事な資産とも言える。同サービスを使えば、その持て余していたネットワークを他人に分け与えることができ、なおかつ資産化することができるのだ。

また、ビジネスにおけるパートナーやクライアントなど、新たなネットワークやコミュニティを開拓したい人にとっても、自力で繋がることのできないコネクションを調達できる、画期的なサービスとなっている。

今回はこのサービスがいかにして生まれたか、このサービスを通してどういった未来を実現していきたいか、その思いを株式会社バリュレイトの代表取締役、高橋信次(たかはし・しんじ)氏にお話を伺った。

高橋信次
株式会社バリュレイト代表取締役
国内大手人材開発系コンサルティング会社・中堅システム会社コンサルティング部門、ベンチャーコンサルティング会社の立ち上げに参画。2011年4月に独立し、現在主にコンサルティング業務を推進している。大手グローバルコンサルティングファームと共に、クラウドサービスの立ち上げ、人材育成企画の作成、基幹業務システム構築プロジェクトの運営などを経験。

既成概念を突破し、時代の変化にアジャストする

――早速ですが、「conema」について教えてください。

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高橋:「conema」は当社の新規事業ということで、これまでに私が経験してきたことや、今後こういう世界になったら良いなと思っていたヴィジョンを形にしました。

一言で言うと、“フリマアプリの人脈版”ですね。

従来のフリマアプリは「物」をプラットフォーム上で売買するもので、不要になってしまった物を資産化、そして可視化して、必要としている人に提供していますが、本サービスはそちらの「人脈版」になります。

誰しも皆、色々な繋がりを持っています。例えば親、学校の先生、友達。何でも良いのですが、そういった繋がりを共有したいと思っている人がたくさんいるのではないかと思っていて。

特に専門性のある人やコミュニティなんかは、周囲にそういった人脈がゴロゴロ転がっていると思うのですが、 それが可視化されてなかったりとか、その人脈の価値がどれだけあるかということに気づいていなかったりすることも多いです。

そういった点を可視化し、価値を高めていく、というのが、本サービスの特徴になります。

――自分が持っているコネを他者にシェアするという本サービスですが、そもそもなぜ「コネクション」というテーマに着目されたのか、きっかけを教えて下さい。

高橋:理由は3つあります。

1つ目は、言い方は悪いかもしれませんが、我々のいるコンサルティング業界が、コネが幅を利かせる業界なのです。

当社はコンサルタント会社として運営しております。この業界では、人の紹介を受けた方が仕事を受注しやすい、という風潮があります。超一流だと言われるコンサルタントは、営業をしなくても、人から紹介を受けて仕事が入ってきます。

なので、仕事を拡大するのであれば、人脈、コネを大事にしないといけないということは私自身ずっと思っていました。

2つ目は、我々が所属しているコンサルティング業界やIT業界がゼネコン化してきていることです。

たとえば、最初に案件の発注者がいて、最後に作業者がいるというように、役割が分担されていると思うのですが、その中に色々な人が参入し、中間搾取をしていくのです。

たとえば、100万円で発注していたものが、最終的な作業者には50万円しか降りてこないといったことがあります。そうなると作業者は50万円しかもらってないのに100万円の仕事を要求され、どんどんつぶれていきます。

もちろん我々がお付き合いしているエージェント様は上記のようなことはないのですが、何もしていないのに中間搾取だけを行う方々が数多く存在します。そのような方々が蔓延ると業界自体に悪影響を及ぼします。

IT土方やIT業界=ブラックのような言葉・イメージが生まれ、IT業界に入りたいと思うような人が減り、業界自体が数万人レベルでの人不足に陥るといったような事象になっていると思います。

近年では農業とか漁業なども、一次産業とか、生産者と消費者が直結したサービスが
生まれてきています。

そうやって世の中が変わり始めているにも関わらず、「最先端」だと言われているはずのコンサルティング業界やIT業界が、全然最先端ではないことをやっているのです。

そういった点を改善し、もっとデジタルにやっていきたいという想いがあります。

3つ目は、専門技術を持った人手不足の問題です。

これは私の実体験にも紐づきます。私は最近子供が生まれたのですが、不妊治療で苦戦しました。不妊治療は今や社会問題となっています。私の場合は私に原因があったのですが、不妊治療をする際に大事なことは期間になります。たとえば35歳を過ぎると妊娠率が落ちたりと、年齢も大きく関わっています。

にも関わらず、お医者様の数が足りないというのが現状で、予約をするにも、評判の良いところは半年待ちということもざらにあります。

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そういった環境下で、当時本当に子供が欲しかった私は、「もし良いお医者様や評判の良い病院を誰かが10万円で紹介してくれるなら、絶対買うのに」と思っていました。

その時に、そういった場面で困っている人たちってたくさんいるのではないかと思ったんです。そしてネット上で人脈をつなげるようにしたり、業界が健全化したら良いなと思うようになりました。

――サービスの利用者のメリットをお聞かせください。

高橋:「conema」 には登場人物が3種類います。1人がまず購入者で、一般のユーザーです。もう1人が出品者です。あと1人が出品される側の人、これを「コネ」 と呼んでいます。

まず購入者のメリットに関しては、購入者は自分で手に入らなかった人脈をお金で購入でき、新たな人脈の開拓ができるというところです。

出品者のメリットに関しては、自分の持っている「人脈」という資産が可視化され、そこからお金が入ってくるというところです。あとは同時に購入者との人脈もできるのではないかと考えています。

あとは肝心な「コネ」として出品される人のメリットですが、我々としては、出品者側が「出品される側の人のメリットになるような人を紹介する」というコンセプトを念頭に置いています。

――そこが難しいところではありますよね。

高橋:そうなんです。そこが今後のサービスの課題でもあります。このサービス、結構国内では賛否両論あるんです。「そもそも自分の人脈を売買するってどうなの?」といった声もあります。

イノベーター思考の方だと共感してくれるのですが、マジョリティ系の方を納得させるのが結構難しくて。人脈を使ってどんどん新たな人脈を開拓していくといった発想にならないのです。

資産運用でよくある考え方で「お金を動かしてお金を得る」というような発想になってくれたら嬉しいのですが、なかなかそういった発想の転換は国内では難しいと思っています。

――既得権益のようなことでしょうか?

高橋:おっしゃる通りです。「自分の資産として大事にしたいので他者に提供したくありません」と考える人がほとんどだと思うのです。

しかし、今のデジタル社会において、ネット上でそういった方と出会うというのは昔よりライトになってきているのではないかと思い、このタイミングでリリースしました。

基本的に「コネ」の人との関係性がとても大事で、変な人を出品したら関係性も崩れてしまう。私もそれには反対なので、サービスとしても良い関係性が構築できてている人を推奨しています。

しかし国内ではまだ信頼関係の破綻を恐れている人が多いという印象です。

人脈の可視化は組織にどのような影響をもたらすのか

――仕事にもプライベートにも活かせるサービスだと思うのですが、仕事となるとやはりお金が介在するので難しいのでしょうか?住み分けなどは考えていますか?

高橋:今のところ住み分けは考えていないのですが、今後は必要かなと思っています。

目指す世界観としては「C to C(個人間取引)」なんです。

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人脈を売買するにあたって、自分の人脈を会社のものだと考えている人がたくさんいると思います。

昔から「自分の開拓してきた人脈は会社のものなのか、個人のものなのか」 という討論はあると思うのですが、今でさえ簡単にSNSで繋がれる時代になってきているので、私としては今後は「個人」という流れになっていくと思っているんです。

例えば、会社に就職し、そこで人脈を培ってから転職したとしても、「その人脈を使ってはいけない」ということは実際にはないと思うんです。

もちろん制限をかけられる可能性はありますが、何年か経ったらそれもなくなってくるんじゃないかと考えています。

――今後「コネ」の価値がどのように変化していくと思いますか?会社も変化していくでしょうか?

高橋:そうですね。会社は態度を変えざるを得ないと思います。

強いコネクションを持っている人に対し、買いたいと考えるベンチャー企業などが出てくるようになってくるのではないかと思っています。むしろそうならざるを得ないと思います。

各企業の営業コストなんかも無駄だと思いますし、M&Aと同じですね。「そういったものを持っている人を買えば良い」「顧問で雇えば良い」というのが合理的な考え方かなと思います。

――「コネ」の値段は大体いくらぐらいなのでしょうか?

高橋:値付けに関して、現状ではまだルールがないんです。

近年中国あたりで流行ってきているやり方で、人の信用度に対して点数化し、それに合わせてデジタルに価値をつけていく、というやり方を理想としています。

ただ、それに関して日本社会でウケるのかどうかというと、難しいと思うところもあって。

しかし、実際に人の信用度を可視化するということに取り組んでいる会社もあるので、そういう所と連携して、デジタルに値付けをしていくことができたら良いなと思っています。

家庭を大事にしながらライトに稼げる社会へ

――「conema」が目指しているこの先のヴィジョンを教えてください。

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一言で言うと、ライトに人と人が繋がって、ちゃんとメリットをお互い享受し合えるというところに尽きるかなと思っています。

このサービスでたくさん稼げる人が出てきて、これが浸透してくれたら一番嬉しいのですが、実は私が最終的に使っていただきたいと思っているのは、主婦の方々なのです。

ずっと仕事をバリバリやってきたけど、家庭に入ったことによりなかなか稼げなくなってしまった方、仕事をしたい方、社会に出たい方、だけど子供がいるからなかなか出れないという方って結構多いと思うんです。

そういった方々にこのサービスを通して人と繋がっていただき、家にいながら、子供の面倒を見ながらも仕事ができる、といったような環境になってもらえたらなと思っています。

もちろんそれは主婦だけではないと思うのですが、家族をちゃんと大事にしてもらえるような世の中を作りたいというのが私の想いです。家にいながらも人を繋げるだけで仕事ができるんです。

――国策でも女性活躍の推進というのがありますもんね。

高橋:決して「社会にどんどん出てくれ」というわけではないのですが、ちゃんと家にいながら、子育てしながら、家族を大事にしながら、着実に稼げるという仕組みづくりをしたいと思っています。

あとは、高齢者の方々ですね。これからどんどん高齢者の方が増え、今後の社会不安もある中で、年金以外で稼げるところって必要なのではないかと考えていて。

人脈を培ってきた方もいらっしゃると思うので、必要としている人たちに分け与えるお手伝いを私たちができたら良いなと思っています。

――もしそういった「コネインフラ」みたいなことができたら素敵ですね。

高橋:私たちはそのプラットフォームになりたいと思っています。

あと、私が実現したい世界観としては、「知識、経験、スキルがなくても稼げる世の中を作りたい」と思っているんです。

「conema」も現状そういった風潮になってしまっているのですが、今のクラウドソーシングとかって、知識、経験、肩書とかがないと、稼げないという風潮になってしまっていると思うのです。

そうではなく、友達と仲良くなる感覚で、簡単ではないかもしれませんが、もっとライトに稼げて、日本人の所得が少しでも向上できるような形に持っていきたいなと思っています。

取材・文:花岡郁
写真:西村克也