めまぐるしく変わるファッショントレンド。今っぽくない、旬が過ぎた、そんな理由で「不要」認定された服は簡単に捨てられる。

トレンドの服が気軽に買えるファストファッションがそれに拍車をかけ、私たちの手元にすら届かずに廃棄される洋服も含めて、日本だけでも年間100万トンの衣類がゴミとなる。

そんな現状に幻滅したファッション業界出身者による、すべての商品が他の人にとって不要になった「ゴミ」のショッピングモールがある。

かつては「新品」を扱う普通のモールを経営していたアナ・バーグストロム(Anna Bergstrom)氏が2015年にオープンしたこの次世代のショッピングモール「ReTuna」があるのは、環境先進国といわれるスウェーデン、その中でも最も進んだ環境配慮型の都市といわれるエシルストゥーナだ。

寂れた製鉄の町から変貌を遂げた、最先端の環境都市エシルストゥーナとは、そして中古品販売という、決して新しいとはいえないビジネスでありながら「ReTuna」が今、世界から注目されている理由はどこにあるのだろうか。

工業都市から環境都市へと変貌したエシルストゥーナ

エシルストゥーナは、首都ストックホルムから電車で2時間ほどの人口6.7万人前後の都市だ。かつて鉄鋼業で栄えたものの、その後衰退し、失業率も国の平均を上回っていたこの街は、2012年を境に生まれ変わった。

市内を走るバスや自動車は次々にそのエネルギー源をバイオガス、あるいは電気にシフト、発電にも低炭素型の手法を取り入れた。
家庭ゴミは7種類のカテゴリーに分類された後に回収され、リサイクル不可能なもののみが選別センターに送られる。

何ページにもわたる分別ガイドが珍しくない昨今、7種類とは環境都市にしては意外にもシンプルだと感じるかもしれない。しかし高度に自動化された選別センターでは、5人で年間2万トンの廃棄物を処理することができ、その機械化された分別作業は97%以上の正確さを誇る。

家庭での人の手による分別はできるだけシンプルにすることで、人々が継続して意欲を保ちやすいそうだ。その後、生ごみは売り切れになるほどの高品質な堆肥となって販売され、工場の食品廃棄物からのバイオガスは市内バスに活用、市内の大学では食品ゴミを消化するウジの実験が進められ、肥育したウジは家畜用の飼料として活用される。

「環境都市」として新しいアイデンティティを確立しつつあるエシルストゥーナ。新品のないショッピングモール「ReTuna」創設者は、この街をその革新的なアイデアを現実のものとする場として選んだ。

リサイクルはエシルストゥーナの生活の一部 ReTuna公式サイトより

新品を売らないショッピングモール「ReTuna」

新品を売らないショッピングモール「ReTuna」エントランス ReTuna公式サイトより

いまでは世界中のメディアに登場する話題のスポットとなった、この世界初のセカンドハンドのみのショッピングモール。14店舗の個性豊かなショップが入るこのモールの入り口は、北欧風のすっきりしたデザインだ。

エシルストゥーナ の町の中心部からは車で20分、モールはリサイクルセンターの隣に位置しており、再利用可能なおもちゃ、家具、衣服、アクセサリー、電子機器などが持ち込まれた後、スタッフによって使用可能と判断されたアイテムは、モール内のショップに振り分けられる。

各ショップは2回目の選別を行い、そこで必要であれば修理、改造、デザインなどの手を加えられ、時には全く新しい商品となって店頭に並べられる。

キッチンの水切りから生まれ変わったランプ ReTuna公式サイトより

ショッピングモール、と銘打っているだけに、ありふれたリサイクルショップのように倉庫のような場所に雑多に商品が並べられているわけではない。特色豊かな各ジャンルの専門店がある。

たとえば、アパレルショップ「 Axelinas manufaktur & diverse」は古着をパタンナーのオーナーが生まれ変わらせたファッションを提供、オーダーを受ければウエディングドレスの制作まで行う。

フラワーショップ「Ecoflor」は環境に配慮して育てられた観葉植物や生花に加え、廃棄物を活用して作られたポットやプランターなどを販売、コンピュータショップ「re: Compute-IT」はデジタルデバイスの回収、修理、販売を行う。「Re :Pets」はリサイクル品を活用したペット用品の専門店だ。

教育と啓発の場でもあるこのモールは会議室も備えており、持続可能性に関するイベント、ワークショップ、講演会などが開催され、地元の高校によつリサイクルデザインについての1年間の教育プログラムも実施されている。

夏になるとスウェーデン最大の湿地Ekeby湿地を望むテラスが賑わうCafé Returamaでは、環境に配慮して生産された素材を使ったメニューやスイーツを味わいながら休憩することもできる。

リサイクルショップをファッショナブルな最先端スポットに

世界各国からReTunaを訪れる視察ツアーは、1年間に約300グループほどになるという。

リサイクルショップはどの国でもたいていの町にあり、個人売買ウェブサービスやアプリが次々と登場する昨今、中古品販売というコンセプト自体は決して新しいものではない。では、なぜReTunaはこれほど注目を集めているのか。

「私のハイファッションへようこそ」。ファッション業界の豊富なキャリアを持つ設立者への取材ではそんなメッセージが発信されたが、ReTunaはリサイクルショップを、倉庫風の殺風景な場所、独特のにおいを放つ場所から、洗練されたファッショナブルな空間へと完全に変えてしまった。

週末に、女友達と、あるいはカップルで、おしゃれして訪れるような場所、そんなイメージさえ受ける。

洗練された雰囲気のReTunaラウンジ  ReTuna公式サイトより

各ショップでは、単に回収された服や家具が並べられているわけでなく、オーナーが新たなテイストをデザインに加えている。

たとえば、家具ショップの「ReModa」のスタイルは、アンティークな上品さでモデルやセレブに人気の「シャビーシック」。廃棄家具は、ホワイトを基調とした可憐なデザインに生まれ変わっている。

新しいものが買えない人が中古品を買う、そんな負のイメージをリサイクルショップに持つ人も少なくないが、セカンドハンドを使うことを、新品の購入よりもっとクールなことにしたい、ReTunaからはそんな心意気が感じられる。

そしてもうひとつ。多くのリサイクルショップが慈善団体やNPO、公的機関、そしてボランティアによって運営されているが、ReTunaはビジネスとして利益を生み出し、雇用を生み出すことを目指している。

ReTunaは現在、自治体によって運営されており、160万ポンドが公費より設立に投資され、ショップオーナーには補助金が支給された。しかし2018年、モールは初めてこの補助金なしで運営可能な段階に到達した。

もっとも、利益を出す段階にはまだ至っておらず、現在の運営は志あるショップオーナーたちが自分のポケットに残るお金がないなかで、休まず身を粉にして働くことで成り立っている。

スタッフの雇用は始まっているものの、もっと人を雇い、オーナー達が休みを普通に取れるようになるまでは、まだ道半ばといったところだ。

しかし、少なくとも寄付金や税金による支援なしで、持続的に運営可能な段階まで達した点は評価されている。

フェイスブックも個人間売買機能「マーケットプレイス」の対象エリアを2017年に欧州全域に拡大し、コミュニティ内での不用品の再利用に貢献、またアパレルのシェアリングサービスが次々に生まれるなど、大量生産、消費の時代から再利用、修理、シェアがトレンドになりつつある私たち世代。

環境国家とはいえ、IKEAやH&Mといった大量消費スタイルの企業の母国でもあるスウェーデンは、今、商業分野でも世界に先駆け、大きな変革に挑戦しており、ReTunaはその象徴とも言える。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit