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海外への移住あるいは滞在で気になるのが「生活費」。
さまざまな会社や調査機関が世界各都市の生活費を調べ、レポートにしているが、英国の移住サービス会社ECAが2019年6月に発表した最新レポートでは興味深い変化が起こっている。
本稿では、このECAの最新ランキングで首位となった意外な都市、そして暮らしやすいと言われることの多いスイスの各都市が上位を占める理由を深掘りする。
世界一位は意外な都市、トルクメニスタン・アシガバート
まず、世界ランキングの結果について、首位は後述するとして、2位・3位・5位・6位にスイスの都市が並び、ランキングを席巻。その他、4位が香港、7位が東京、8位がソウル、9位がテルアビブ、10位が上海だった。
日本の都市に限れば、世界ランキングの7位に東京、またアジアランキングの3位にも東京、7位に横浜、10位に名古屋とランクイン。
そんな中、世界ランキング、アジアランキング共に、最も生活費が高い都市に選ばれたのは、トルクメニスタンのアシガバートだった。
トルクメニスタンは、中央アジアに位置し、公用語はトルクメン語。2017年時点の人口は575.8万人で、国民の多くはイスラム教徒。
世界最悪の独裁者とも称されるグルバングルイ・ベルドイムハメドフ大統領(61)がリーダーとして君臨する同国は「中央アジアの北朝鮮」とも言われ、2017年度版「汚職指数」では、180ヵ国中167位、「報道の自由度2018」では下から3番目の178位だった。
2018年にECAが行った生活費ランキングでは111位だった同国だが、この一年でいったい何が起こったのか。
アシガバート
小さい国土ながら世界4位の天然ガス埋蔵量を誇り、その豊かな天然資源ゆえに、つい1年前まで家賃・学費・公共料金がほぼ無料だったが、今年2019年に入り天然ガスの価格が低迷。通貨マナトの価値はこの1年で半値に急落し、2018年ついに経済危機に陥った。
同国の平均月収が約800マナト(約25,000円)と言われる中、あるアパートでは2018年には年間400マナト(約12,000円)だった54㎡の居住スペースにかかる公益費が、今年2019年には893マナト(約27,500円)と倍以上に高騰。同様に食糧の価格も上昇し、電気やガス、水道代金の無料利用も完全に廃止された。
このように低迷を続ける同国だが、実はトルクメニスタン国内にはUNESCOの世界遺産リストに登録された文化遺産が3件存在することから、今後は観光産業を成長させ、天然資源依存の経済モデルを脱却しようと試みている。
例えば、同国政府は今年2019年に日本からの観光客誘致を積極的に推進しており、ベルディムハメドフ大統領が日本人観光客向けにビザ発給手数料を軽減する決定をした。
また、在日大使館によると日本人の5~50人の団体観光客を対象に、グループの代表1人がビザを取得すればグループ全員が入国を認められる「集団ビザ」制度創設の構想も出ていることからも、今後日本人にとってトルクメニスタンとの距離感は変わってくるかもしれない。
アジア圏の生活費ランキング(ECAインターナショナル社公式Webサイトより)
グローバルランキングはスイスの都市が上位を独占
ワールドワイドのランキングでは、2018年と大きく変わらず、チューリッヒ・ジュネーブ・バーゼル・ベルンとスイスの都市が上位にランクインする結果となった。
物価の高さにもかかわらず、スイスは依然として外国人にとって憧れの土地で、同国の統計局によると国内に暮らす外国人人口が国民全体の4分の1に相当する210万人を超えるという。
先ほどの4都市は世界で最も整ったインフラを持つ9都市にも選ばれているように、住環境としては申し分のないスイス。しかし、いかんせん生活費が嵩むのは、具体的にどの部分が高いからなのだろうか。
ワールドワイドの生活費ランキング(ECAインターナショナル社公式Webサイトより)
まず、スイスでは持ち家の割合が40%と低いため、手ごろな価格できれいな賃貸物件を見つけるのはEUの他の都市よりも困難。チューリッヒやジュネーブ、ベルンなどでは、礼金が家賃3ヵ月分ということもざらにある。
チューリッヒの家賃平均は月にCHF2,300~CHF4,600(約25万円~50万円)で、多くの人が月給の20%かそれ以上を家賃に充てているのが現状だ。調査会社Numbeoによると、光熱費は85㎡のアパートメントで約CHF180(約20,000円)ほどだという。
車の維持にかかるコストはEUの他の都市に比べ約30%高くなるため、メジャーな交通手段は公共交通機関となるが、都市部に住む場合、トラムや電車、バス、船で利用できる定期券が平均CHF75(約8,000円)で、片道チケットはCHF3.20(350円)。
少しでもコストカットするために、国内の主な鉄道、バス、フェリーを半額で利用できるパス「Swiss Half Fare」や大人と同伴の場合に子どもの料金が無料になるジュニアカードなどのディスカウント制度を利用する者が多い。
食費・教育費・医療費も軒並み高価
外国人比率も高く、さまざまな人種の暮らすスイスでは国際色豊かな食事が楽しめるが、スタバのコーヒーがCHF 5(約540円)、マクドナルドのセット価格がCHF 14(約1,400円)、安いテイクアウト専門ピザ屋でもCHF 25(約3,000円)ほどするため、多くの人にとって外食よりも自炊がメインとなる。
しかし、食料品の価格もEUの他の都市に比べて20~30%高いため、その中でも比較的手頃な価格設定の大型スーパーマーケットAldiやLidlはエンゲル係数の高いファミリー層から人気だ。
チューリッヒ
続いて教育だが、スイスの教育システムは世界で最も優れているとも言われるが、小さい子どもにかかる教育費は高額だ。主に共働きの子育て世代が利用する街中の保育所の利用料は月に平均約CHF 2,000(約20万円)といい、家庭にのしかかる経済的負担は大きい。
公立学校は州によるバックアップがあるので授業料が免除される。ただ、公立学校では特定の州の公式言語で行われるため、スイスの公用語とされるフランス語やドイツ語、イタリア語などを話さない子どもたちにとっては少々ハードルが高いようだ。
そうした生徒に向けては国の定めるカリキュラムに沿ってローカル言語と英語での教育が受けられるバイリンガル向けの学校もあり、年間の学費はCHF 25,000(約270万円)。また大学の授業料は比較的良心的で2019年の年間授業料の平均はCHF 1,800(約20万円)。
最後に医療費に関しては、スイス国内の一般的な医療費は月CHF 450(約5万円)と比較的高い。一方で、健康保険は比較的安価と言われる。このあたりが、スイスは月々の支出は高いが、多くの人にとって素晴らしい住環境だと言われる所以だろうか。
生活費は外国で暮らす際にハードルとなる要素の一つ。外務省による統計では、2017年度の海外在留邦人数は135万人で、海外永住者・長期滞在者ともに年々増加傾向だという。今回のランキングを参考に、将来の移住先を考えてみてもよいかもしれない。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)