「X世代」「ミレニアル世代」「Z世代」など、社会・経済・テクノロジーの影響をマクロな視点で見る・知ることができるとして広く使用されている世代別グループ。
米ピュー・リサーチ・センターの定義によると、X世代とは1965〜1980年に生まれ、2019年時点で39〜54歳となる層。一方ミレニアル世代は1981〜1996年の間に生まれ、現時点で23〜38歳となる層、Z世代は1997〜2012年の間に生まれ、現時点で7〜22歳になる層のことを指す。
さまざまな世代グループの中でも特に、ミレニアル世代とZ世代は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、これまでの世代には見られない社会変化を起こしてるとして、メディアや研究機関の注目の的になっている。
こうした中、ミレニアル・Z世代以上にテクノロジーとの関わりが深くデジタルネイティブとしてより強い特性を持つ「アルファ世代」というグループが登場し、社会変化を一層加速させる世代になる可能性があるとして関心が高まりつつある。
アルファ世代とは、オーストラリアの社会研究家マーク・マククリンドル氏がつくったといわれる造語で、2010〜2025年に生まれた(生まれる)世代のことをいう。ミレニアル世代の子供でもあり、親以上にデジタルテクノロジーの影響を受けて育つため、これまでにない変化を起こすことが想定されている。
アルファ世代とはどのような世代なのか。この先どのような変化を起こすことが予想されているのか、その一端を覗いてみたい。
ミレニアル世代の親が考える、アルファ世代の育成環境
2010年以降に生まれた層であるアルファ世代。物心ついたときからスマホやタブレットに触れ、AlexaやSiriなどのパーソナルアシスタントやAIロボットが周りにある環境で育つ子供たちだ。
マククリンドル氏によると、世界全体のアルファ世代人口は2025年に20億人に達し、Z世代の18億人を超える見込みという。また同氏は、アルファ世代はこれまでのどの世代よりも学校教育を受ける割合が高くなり、テクノロジーにも精通し、史上最も裕福な世代になると予想している。
マククリンドル氏の予想が当たるかどうかは分からないが、テクノロジーが子供たちの心身の発達に何らかの影響を及ぼすことは間違いないだろう。またそれは親となるミレニアル世代の意向も大きく影響することが考えられる。
米国電気電子学会(IEEE)が子供を持つミレニアル世代を対象に実施した意思調査で、子供とテクノロジーの関係のあり方を示唆する興味深い結果が明らかになった。
この調査では、米国、英国、インド、中国、ブラジルのミレニアル世代を対象に、子供の医療とAIの関わり方に関して聞き取りを実施。
AIを活用したヘルスケア・ウェラブルデバイスを子供に着けるかどうかという質問では、半分以上の親が着けるだろうと回答したのだ。ミレニアル世代の多くは、Fitbitなどのウェラブルデバイスを利用する習慣があり、子供たちが同じようなウェラブルデバイスを着けることへの抵抗はほとんどないと考えられる。
医療診断に関してもおもしろい結果が明らかになった。子供の体調がすぐれないとき、AIによる診断を信用するかどうかという質問では、全体では56%が「高く信頼する」と回答、また30%が「一部信頼する」と回答したのだ。国別ではさらに興味深いことが判明。AI診断を「高く信頼する」という割合は、中国で76%、インドで80%という非常に高い割合となった。
また子供の診断において顔認識技術や機械学習を活用することへの安心度合いに関する質問では、全体で66%が「とても安心する」と回答。この割合は、中国で81%、インドで84%となっている。
IEEEの調査は、親となったミレニアル世代は子供のヘルスケアに関してテクノロジー活用に肯定的であることを示している。このことは、生活の他の場面においても、テクノロジーが広く活用されることを示唆しているといえるだろう。
テクノロジーとの共存を実現できるか、アルファ世代を待つ課題
さまざまテクノロジーに囲まれ育つアルファ世代だが、この状況がポジティブな影響をもたらすのか、ネガティブな影響をもたらすのかは専門家の間でも意見が別れており、現在もホットトピックの1つとして議論が続いている。
スマホやタブレットの視聴時間が長くなっており、これが子供たちの心理に悪影響を及ぼしていると主張するのは、サンディエゴ州立大学の心理学者ジーン・トゥウェンジ氏だ。同氏がこのことを指摘した著書『iGen』は、米国で大きな話題となった。
トゥウェンジ氏は、多くの子供たちが1日に6~8時間もの時間をスマホやソーシャルメディアに費やし、外出が減ってると指摘。その上で、スマホとソーシャルメディア利用の増加が子供の幸福度の低下に影響している可能性があると主張している。
このほかにもスマホ・ソーシャルメディア利用が子供の心理状態に悪影響を及ぼすことを示唆する調査・研究は多く発表されており、無視できない問題となっている。
この問題に対して子供たち自身はどう捉えているのか。
一部のZ世代がテクノロジーとの新しい関わり方を示しており、アルファ世代にとって良い先例となるかもしれない。
カナダのメディア大手Corus傘下のウェブメディアGlobalNewsによると、カナダのZ世代の間では、時間を費やし過ぎているとの自覚が高まり、スマホからソーシャルメディアアプリをアンイストールするというトレンドが広がっているという。ソーシャルメディアはパソコンで視聴するようだ。勉強するときや寝るときはスマホを引き出しにしまうなど、気が散らない工夫をするZ世代も増えているとのことだ。
このようなデジタルリテラシーが醸成される状態をアルファ世代でも再現できるのかどうかが重要になるのかもしれない。
子供の発達においてテクノロジーが及ぼすのはネガティブな影響だけではない。
カリフォルニア大学の脳科学者マイケル・マージニック名誉教授は、テクノロジーに触れる機会が多くなった若い世代の脳は「スペシャリスト脳」に進化していると指摘する。これまでの人類は自然環境の中で生き残るために一般的なさまざまなスキルを習得する必要があり、脳は「ゼネラリスト脳」として進化してきたという。
しかし、現代人はより専門的な課題を解決することが求められ、それ応じてスペシャリスト脳として進化しているというのだ。アルファ世代では、スペシャリスト脳がさらに進化することが見込まれる。
テクノロジーとの関わり方については、デジタルネイティブと呼ばれたミレニアル世代もZ世代もまだ模索が続くフェーズといえる。試行錯誤で得られた知見をアルファ世代に伝えることができるかどうかで、未来の人間とテクノロジーの関係は大きく変わってくるのかもしれない。
文:細谷元(Livit)