国内外で大きな注目を集め、音楽フェスに多数出演する人気バンド「WONK」のヴォーカルとして活動しながら、料理人としての顔も持つ長塚健斗さん。“食”と“音楽”の共通点やはたらくことに対する考え方をお伺いしました。

大好きな「料理」と「音楽」に熱中した大学生時代

——現在はどういった活動をされているんですか?

長:「WONK」のヴォーカルとして音楽活動をメインに行っています。さらに料理人としてイベントのケータリングをプロデュースするなど食のジャンルにも多数携わっています。

——いつ頃から「料理」と「音楽」という2つのジャンルを掛け持ちされているんですか?

長:大学生時代から、すでに掛け持ちしていましたね。料理人志望で働き始めたアルバイトでメニュー開発を手伝ったり、クリエイティブに関わる部分をやらせてもらったりしていました。授業が終わったらレストランでアルバイトして、週末に音楽やって、という感じですね。

——大学卒業後は一旦レストランの料理長として働かれているんですよね。どういったきっかけがあったんでしょうか?

長:知り合いに頼まれて、あるレストランの立ち上げを手伝ったんです。メニュー構成や内装に関して僕なりの意見を言っていたら、「シェフやってくれない?」ってお話をいただいて。それで卒業後に料理長として働き始めたんです。

——その頃にはもうWONKとしても活動されていたんですよね?

長:2、3年くらい料理長として働いていたんですが「WONK」の活動がありがたいことに忙しくなり、両立が少し難しくなってきて。それで料理人としては現場から離れて、今のように、イベントなどでフードプロデュースなどをするといった料理との関わり方に変化しました。

——そもそも何故、料理人になりたいと思われていたんですか?

長:昔から料理が好きで、子どもの時は脚立に乗って母親の台所仕事をよく手伝っていたんです。中高一貫の進学校に通っていたんですが勉強に関しては不真面目で(笑)、大学受験にも興味なく…。

だから、もともと好きだった料理の道に進みたいと「料理の専門に行く」と父親に話したら大反対に合いまして。

——そこからどうやって…?

長:父親は大学に行ってほしかったらしく、「料理は大学に行きながらダブルスクールにするか大学を出てからにしなさい」と。なので折衷案として、「大学受験はする、でも第二志望の大学までに落ちたら浪人せずに料理の専門に行く」ということにしたんです。

で、大学受験してみたら見事合格したので進学することにしたんですが、授業が終わったら放課後はずっとアルバイトで料理の現場で働いていました。

——そこから音楽の道が現れたきっかけは何だったんですか?

長:21歳くらいまではずっと料理人になりたいと思ってたんですよ。でも幼少期からバイオリンもやっていて、音楽は趣味としてずっと好きだったんです。学生時代も週末はライブしたりイベントしたり、バンド活動していて。

——その時点では料理=仕事にしたい、音楽=趣味、だったわけですよね。

長:そうですね。当時、僕の音楽を聴いてくれていた色んな人たちから「歌も本格的にやりなよ」って言ってもらって。料理長としてレストランで働いていた時だったんですが、「今料理人としての道を急がなくても、料理の世界にはいつでも飛び込めるんじゃないか」って思ったんですね。

——そこから長塚さんの中での料理と音楽の関係性が逆転したということですか?

長:音楽をメインにしていこうと思ったのはその時からです。でもそれまでのキャリアが料理一本しかなかったので、料理人を辞めて音楽一本ということはせず、しばらくは生活費のため料理人としての仕事は続けていました。

WONK 長塚健斗

「音楽」と「料理」 2つの仕事に共通するモノ

——ずっと料理人になりたいと思われていた中で、路線変更はすんなりできたんでしょうか?

長:料理=仕事じゃないもの、と切り捨てるわけではなく、料理との関わり方の理想像が明確になったという感じですね。

——ずっと料理人になりたいと思われていた中で、路線変更はすんなりできたんでしょうか?

長:料理=仕事じゃないもの、と切り捨てるわけではなく、料理との関わり方の理想像が明確になったという感じですね。

——具体的にはどういった経験からそう思われたんでしょうか?

長:大学卒業後、レストランで料理長として働いていた時、キッチンが2階にあってなかなかお客さんの顔が見えづらい状況だったんですよ。ある時「なんかこれって工場作業と同じだな。何のために料理やってるんだろう」って思っちゃって。

僕は「自分の作る料理を自分の思うようなルートや形でお客さんに届けたいんだ」ってその時気づけたんですね

——料理と音楽どちらかを諦めなければいけない、という風には思われなかったんですか?

長:思わなかったですね。
料理も音楽も昔から好きだったし、気づいたら好きが積み重なって周囲からお声がけいただいて何かが実現したり。
また、どちらもやってきたからこそ、レストランで働くだけが料理を仕事にするってことじゃないな、と新しい“在り方”を見つけられたんです。

——長塚さんの中で、料理と音楽で共通する点ってありますか?

長:どこまで掘っても終わりがないところです。
僕、器用貧乏なので(笑)、どのジャンルもある程度なんとなく出来てしまって満足してしまい、飽きてしまうことが多かったんです。けど、料理と音楽に関しては終わりがないなという感じがして、飽きずにずっと続けてこれています。

——ご自分の中でゴールを決められていないジャンルってことですね。

長:あと、安価に人を楽しませることができるところです。
数百円のラーメン1杯でも人の心って感動するじゃないですか。それに今は音楽も月額千円以内で聴き放題ができる時代。安価なものだけど人の心を直接的に揺さぶるものって料理と音楽だと思うんです。

WONK 長塚健斗

——長塚さんがキャリアを積まれる中で常に心掛けていることってありますか?

長:料理長時代も今も、もっと自分の価値を上げるような働き方をしていこうと常に思っています。自分の市場価値を上げるというか。

——市場価値をあげるというのは具体的には?

長:例えば、音楽をメインに食っていこうと思った時に、「音楽で有名になって、レストランをオープンしたり、商品プロデュースをしたりしていけば面白いんじゃないか」って。

無名のシェフが作った商品より、音楽で有名になった人が作った商品の方が面白いストーリーがたくさんありそうじゃないですか?

——なるほど。

長:そういった意味で、自分が「おいしい」とか「かっこいい」と思うものに対してたくさんの人が共感してくれて、それがちゃんと購買に結びついていくようになることが重要だと感じますね。

まだまだこれからですが、定量的に見てもファンに支持されるような施策にトライしていきたいなと思っています。

——長塚さんにとっての“はたらく”とはどういったものですか?

長:稼ぐことっていうのはもちろん大前提なんですが、強いて言うなら突き詰めることです。
仕事をするってその道のプロになることだと僕は思ってるんです。何かを作るにしてもサービスを提供するにしても、突き詰めるってことに集約される。オタク的かもしれないけど(笑)

——突き詰めるとは具体的には?

長:19歳くらいの時、ただ料理するだけじゃなく、料理を開発するって面白いなって思い始めた時期があって。例えば“肉じゃが”って料理はどういう経緯でできたのか?“パテ・ド・カンパーニュ”ってなんでこの形なんだろう?とか。

——ただ作るだけじゃなくバックグラウンドを勉強するということですね。

長:そうです。その地域に根差した固有の料理って、食文化や歴史と密接な関りがあって成立してるっていうのを勉強するのがどんどん面白くなってきた。作法やマナーなんかも含めて料理ひとつひとつに意味があるんだって。

それは“料理を突き詰める”過程ですよね。そういった過程を経てプロになっていくんじゃないかと思います。

——音楽にも通じるものがありますか?

長:まったく同じことが音楽においても言えますね。現在バンドメンバー他数名と音楽レーベルも運営しているんですが、そこでは“ミュージシャンとしてのアーティスト活動”と“ビジネス”が基本的に同居しています。

音楽、料理、ビジネスそれぞれ別々で学ぶということではなく、どれも突き詰めていかなきゃならない。それぞれのバランスをとることが難しくてできない場合もたくさんあるんですが、それぞれのレベルを上げて、無駄をなくすっていう所もとても重要だと思っています。

——長塚さんがはたらくを楽しむために必要なことはなんだと思われますか?

長:僕の場合は、“好きなことで稼ぐ”と心に決めて勉強し続けること。そして遊ぶときはとことん遊ぶことですかね。好きなことで稼ぐためには色んなことを学ばなきゃいけないんですよ。作りたい音楽や料理を闇雲に作っていてもそれだけじゃ売れない。

それをどう見せるか、そしてどう売るかっていうところまで考えなきゃならない。

例えば、音楽で言えば歴史はもちろん、デザインから今の音楽業界のトレンド。料理だとサービス、ワインなどのドリンク、その他コミュニケーション、たくさんのことを勉強し続けなきゃいけなかったりします。

——勉強し続けることがはたらくを楽しむことに繋がるということですか?

長:そう。そもそも僕は前提として、明確に好きなことを仕事にしています。ちょっとそこは脇に置いておきますが(笑)、僕は仕事にモチベーションとか関係ないと思ってて。

本人のモチベーションとかじゃなく、「自分はこの道のプロなんだ」と思って勉強し続けるという気持ちがあれば、基本的には上手くなっていきますよね。そうして上手くできるようになると、段々とやりがいが見出せてきて楽しくなってくる。そうなるまで続けてみたら何かしら見えてくるはずですよ。

今更ですが、楽しいかどうかは正直わかりません(笑)。
僕みたいに早い時期からやりたいことが明確な人って実際そんなに多くないとも思っているので。

WONK 長塚健斗

——“はたらくを楽しもう”としている方へのメッセージをお願いします。

長:何やら色々言いましたが、僕みたいなケースはなかなかに稀です。だからというわけではないですが、決して焦らなくて大丈夫です!学生時代までのたった20数年で人生は何も決まらないです

色んな世界を見て、色んなものに触れて、好きなものがないならどんどん別のものに目を向けて視野を広げていくといいと思います。貯金なんて考えずに自分に投資しまくってください!

長塚 健斗さん(ながつか けんと)
1990年6月16日生まれ。ソウルミュージックバンド「WONK」のボーカリスト。海外公演を成功させるなど国内外で大きな注目を集めている。バンド活動の傍ら、フレンチシェフを経て、イベントのフードスタイリングやプロデュースなどを多岐に渡り食に携わっている。

転載元:CAMP
※この記事はコンテンツパートナーCAMPの提供でお届けしています。