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「スポーツは日々人々に感動を与える。しかしビジネスとして見たとき、着実に進歩をしているのだろうか?」
大学時代、この疑問を持ったのが株式会社ookami代表の尾形太陽氏だった。彼はスポーツファンビジネスの形に革命を巻き起こそうと、『Player!』という第3のスポーツエンターテイメントをリリースする。
日頃からスポーツをビジネスという切り口で見る彼に、世界と比較した日本のスポーツファンビジネスの現状、そして今後の展望などについて語ってもらった。
- 尾形太陽(おがた たいよう)
- 株式会社ookami代表取締役
大学在学中にレジャーイベント事業を行いながら、卒業後はソフトバンクへ就職。その後、昔から描いていた「スポーツで事業をする」というテーマを実現するため、大学の仲間とookamiを設立。現在は、第三のスポーツエンターテイメント『Player!』を提供している。
より多くスポーツの“感動”を届けられる仕組みを作りたかった
――まず、提供しているサービス「Player!」について改めて教えてください。
尾形:Player!を一言で説明するのであれば、スタジアム、テレビに続く「第三のスポーツエンターテイメントツール」です。誰しもが見逃したくないその瞬間を、スマートフォンさえあればどこにいてもキャッチできます。
プロダクトの特徴は、試合の臨場感をユーザー・チーム両方から伝えられることです。Player!は動画で試合を共有するのではなく、「日本代表が決勝に進出しました!」とポップ通知が飛んできたり、リアルタイムで試合の進捗を共有できたり、試合中のエモーション(感情)をスタンプで伝えられたりと、離れた場所にいても、全員がまるで同じ空間にいるかのような臨場感を味わうことができます。
現在、応援の可視化を通して寄付のモデルを作れないか画策中です。タイムラインでは「〇〇選手頑張れ」「△△大学負けるなー」といったコメントで溢れており、こうしたファンの熱い気持ちや応援をチームや選手に対する寄付や対価といった形で還元できないかと考えています。下の画面はその一例で、ファンによって投稿されたリアルタイムのエモーションスタンプがバチバチぶつかり合うことで、試合の盛り上がりを表します。
チーム広報の方たちにも、ファンコミュニティーツールのひとつとして、利用いただいています。試合情報の投稿やコメントを通して、ファンがより身近にチームを感じるサポートをしています。今、まさにスポーツ観戦のアップデートを仕掛けています。
――取り扱う競技やスポーツの種類はどのくらいありますか。
尾形:取り扱っているスポーツは、野球やサッカーといったメジャースポーツからアメフトや水球といったマイナースポーツまで、現在40種類以上、年間だと16,000試合以上です。範囲もプロの試合から高校・大学の試合まで、スポーツ専門誌や地方新聞も扱っていないようなところも抑えています。
また、こういった試合状況は我々運営チームでも配信をしているのですが、スポーツチームの広報の方々に配信をして頂くこともあり相互に配信することで幅広い試合情報を発信しています。
――どのような方がこのサービスを利用しているのでしょう。
尾形:「みんなで盛り上がりたい人」「情報のない人」の大きく2種類です。特にマスメディアにフォーカスされにくいマイナースポーツの情報や、そもそも取材対象にすらならない高校や大学の練習試合の結果など、大手情報検索サービスや全国紙では出てこないような内容を獲得するのにPlayer!を使うユーザーが増えています。
地方やマイナースポーツ、学生の場合、大手新聞や報道局は全て自身で取材をしているわけではなく、その地域の記者や番記者と連携しながら情報を集めています。とはいえ全てのスポーツを均等に扱えるわけではないため、大部分は試合結果のみのリリースとなるのが現状です。
例えば、大学ラクロスの練習試合を全国紙のスポーツ記者が取材し、リアルタイムでユーザーへ情報発信なんて、まず見たことありませんよね。しかしPlayer!は、全国のスポーツチームの広報さんたちと連携することでリアルタイムでの情報提供を可能としました。
――スポーツ観戦の新たな形を提案する「Player!」ですが、この領域に着目したきっかけを教えてください。
尾形:「自分の人生を賭けられること」がしたかったんです。それがスポーツでした。大学生の頃から、スポーツは誰にでも感動を与えられる一方で、ビジネス目線で見るとまだまだ改善の余地があると感じていました。
地域のサッカークラブでの経験や、スポーツビジネスの会社でのインターン勤務など、元々スポーツビジネスに関心を持っていたことも重なりました。「スポーツビジネスに人生をかけよう」と思い、Player!をはじめたのです。
「ビジネスプロ不足」「業界構造」…日本スポーツが産業化に抱える問題点
――スポーツをテーマとしたスタートアップは少しずつ増えていると思いますが、尾形さんから見て、スポーツをエンタメ化するための課題は何だと思いますか。
尾形:スポーツビジネスの先進国と比較したとき、スポーツが産業化されていないため、ビジネスとしての発展が遅れています。様々なところで問題となっている業界構造しかり、まだまだビジネスのプロが経営に参加していないことしかり。この現状を重く見た政府は、成長戦略の一環として5.5兆円規模の市場を2025年までに15兆円までの拡大を目指そうとしています。
ユーススポーツにおける構造の問題も大きいです。アメリカでは大学が寄付やライセンス料、グッズ販売などで、1兆円の市場をつくっています。それこそ、テキサス大学はスポーツだけで年間250億円の売り上げを得ています。これは、プロ野球チームの福岡ソフトバンクホークスと同じぐらいの金額です。
ですが、残念ながら日本の学生スポーツは到底このレベルに及びません。それは、「教育をビジネスにしてはいけない」という暗黙の慣習が関係しています。とはいえ、相当な差が生まれているのは事実です。
――プロ・学生問わず、大きな差が世界と出ている中、少しでもスポーツビジネス市場を広げるためにはどのような行動が必要なのでしょう?
尾形:やはり、ビジネスを意識した改革です。国規模で見るとまさにこれからですが、大学をはじめ、チーム単位で取り組んでいる学校は出てきました。
例えば、早稲田大学のサッカー部はスポンサーを募集し、運営費を賄っています。慶應大学のラグビー部は法人化することで、資金管理などを専門のメンバーに任せることができるようになりました。法人化しているチームはまだまだ少ないですが、これから徐々に出てくるのではないでしょうか。
こうした取り組みから、資金面などの問題をクリアにすることで、選手・監督・コーチが試合に専念できる体制を作ろうとしているのです。
デジタル化の波に乗ることが“スポーツ観戦”アップデートの一手となるか
――スポーツはテクノロジーの面で見ると、いかがでしょう。
尾形:課題としては最新技術の導入が追いついていないことだと思います。撮影にかかる人件費や機材費、映像として世の中に出すための制作費といったコストから「スポーツ撮影=高額」という印象を世間に植え付けてしまっているのです。ビジネス同様、アメリカ・中国といった海外と比較すると、日本はまだ発展途上です。コンテンツビジネスという側面で見ても、日本は遅れています。
――では、世界の流れに追いつくためには日本にどのようなことが求められると思いますか。
尾形:「最新技術の導入」「ロングテールコンテンツの活用」の2つだと思います。
例えば、スポーツ撮影のトレンドはAIカメラです。ズーム、ハイライトなど自動で行い、カメラマンなしでプロ並みの撮影を実現することが可能となりました。通常100〜200万円かかる撮影費も大幅に下げることができます。これを使えば、マイナースポーツで撮影を行っても十分元は取れるのではないでしょうか。
インターネットの価値が高まり、いつでも見たいときに手軽に動画が見られる環境となってきました。5Gの後押しもあり、日本もコンテンツが溢れる流れになっていくと思います。例えばアメリカの高校スポーツには、試合を有料視聴できる動画サービスがあります。今まで着目していなかったことをビジネスとして提供することで、新しい市場を自分たちで開拓しているのです。
もちろん何でも海外の真似をしたら良いという訳ではありませんが、より選手とファンが近くなるためのツールとしては有用だと感じます。
ユーザーもチームも誰もが楽しめるお気に入りをカスタマイズするスタイルへ
――どれも近い将来に実現されそうな未来ばかりですが、今後スポーツビジネスはどのようになっていくのでしょうか。
尾形:「放映権=テレビ最適モデル」というのが変わると思います。今のスポーツビジネスモデルは、数十年前にテレビから作られたモデルがずっと使われています。これからは、インターネットに最適化された新しいスポーツエンターテイメントが、登場します。
もっと先の未来になったら、AIやホログラムなどのテクノロジーによってスタジアムでもテレビでもスマホでもない場所で自分の好きなチームを応援できるかもしれません。どこにいても感動と触れ合える、人々の活気や笑顔に溢れたそんな社会です。
――お気に入りのチームをいつでもサポートできる体制ができるわけですね。
尾形:そうですね。今ってテレビがない状態でリアルタイムで観戦するとなると、Twitterやネットニュースなどでチェックしている人が多いと思います。Twitterは確かに便利なんですが、スポーツ以外にも様々な情報があるため、ハッシュタグをつけても目的のスポーツ情報を探すまで手間がかかります。まるでデパートからお気に入りの商品を探している感じです。
だからこそ、Player!みたいな、第三のスポーツエンターテイメントが求められます。手軽に好みの内容をカスタマイズできるブティックのような存在になることで、ファンの人たちにとってより身近に熱狂を感じて頂けるような場をつくりたいです。
それこそチームの広報やメンバーの方も店員さんみたいに、お客さんとして訪れるファンの方たちと、より交流が楽しめるような場をこれからも作っていきたいと思います。
取材・文:杉本愛
写真:西村克也