「面接なしですぐ働ける」ことで話題となった単発バイトのマッチングアプリを提供する「タイミー(Taimee)」が、勢いを増している。6月11日には給与の即日払いでセブン銀行との業務提携を発表した。


タイミーがセブン銀行と業務提携を発表

これに合わせて外食大手など14社がタイミーを一斉導入するなど、導入店舗は広がっている。人手不足が大きな課題として立ちはだかる国内労働市場を、どこまで変えていけるだろうか。

単発バイトの需給をマッチング

2018年8月にサービスを開始したタイミーは、12月にサイバーエージェントやセブン銀行などから3億円を資金調達した。サービス開始から1年が経っていないにも関わらず、登録者は都内の学生を中心に8万人、導入店舗は1500店と急成長を遂げている。

タイミーの代表取締役社長を務める小川嶺氏。立教大学に在学する現役の大学4年生だ。


大手14社が導入を発表した。潜在店舗数は3000店以上に

人手不足が続く国内の労働市場では、アルバイトの求人を出しても反応は薄く、本業との掛け持ちで急に休む人も増えているという。一方、働き手である若者は学業や遊びに忙しく、稼ぎたい意欲はあるものの先のシフトを入れたくないとの声は多い。

両者の要求である「いま、人手が足りない」と「いま、働きたい」需給のマッチングを提供するのがタイミーだ。スマホアプリ(現在はiOS版のみ)に無料で会員登録をすると、当日から働ける求人情報にアクセスできる。

たとえば6月14日11時の時点では、その日の17時から働ける新宿西口の焼肉店での求人があった。この店で働いた人の98%が「Good」と評価しており、レビューのコメントもおおむね好評で、安心して働けそうだ。


タイミーに出ている求人の例。必要なスキルや条件のチェックリストも

2019年4月からは労働条件通知書の電子交付が可能になり、アプリ上で雇用契約を結べるようになった。この「面接なしで働ける」仕組みを支えるのが、店舗がアルバイトを、アルバイトが店舗を相互に評価するレビュー機能だ。

これはUberやAirbnbと同じ、評価経済の仕組みを採り入れたものだ。店舗はアルバイトに来てもらうために労働環境を改善し、アルバイトは真面目に働いて評価を上げるモチベーションにつながるというわけだ。

タイミーの導入店舗からも好評の声が上がっている。店舗がタイミーに払う手数料は日当に対して一律30%で、人材派遣(50〜70%)よりも低コストだという。募集をかけてからマッチングするまでの時間も、焼肉店の例では平均1時間48分、最短では51秒というスピード感だ。

将来的には「信用スコア」の活用も

今回タイミーが発表したセブン銀行との業務提携では、新たに「給与の即日払い」にも対応した。タイミーから応募した仕事をこなし、勤務が終わればアプリに報酬が反映される。この報酬を、セブン銀行の「リアルタイム振込」を利用することで24時間いつでも受け取れるようになった。


アルバイトで稼いだ報酬はすぐにアプリに反映される

その仕組みは次のようなものだ。雇い主はあらかじめ給料を所定の口座にプールしておき、アルバイトからの申請に応じて自動的に振込処理が実行される。APIによって自動化されており、店舗の手間は軽減されている。アルバイトに課していた250円の手数料は3ヶ月無料とし、永久無料化も検討中としている。


給与即日払いの仕組み。APIによって自動化されている

今後の展開として、アルバイトの定着を促していく構想があるという。単発バイトは手軽だが、毎回初めての職場で一から仕事を覚えるのは効率が悪い。タイミーによれば実際には10店舗程度で働き、その中の3〜4店舗をリピートする人が多いことから、長期雇用につながる仕組みを提供していくとする。


単発バイトから長期雇用につなげていく「リピート」を狙う

「信用スコア」の導入も目指している。中国ではアリババの芝麻信用、日本でもYahoo!スコアなどが話題になっている中で、タイミーはアルバイトが働いた実績に基づいてスコアを算出できるのが強みだ。

すでに配車アプリのUberでは、評価の高いドライバーに優先的に仕事が回り、そうでないドライバーは淘汰される仕組みができている。同様に単発バイトのスコアは、時給と連動させることでアルバイトの意識を高めたり、将来的な就職活動に利用したりすることもできそうだ。

今後の課題は地方展開だ。現在の求人情報は首都圏に限られており、今後は大阪や福岡で開拓していく予定としている。また、フードデリバリーのUber Eatsでは配達員が労働組合を結成する動きがあるように、タイミーで生計を立てる人が増えてくれば労働者保護の課題が出てくることが考えられる。

国内の人手不足は当面、解決の目処が立っておらず、評価経済や信用経済の広がりに伴って、マッチングアプリの可能性は大きい。それだけに大手の本格参入など競争の激化が予想される中で、どこまでスピード感を維持しながら全国展開できるかが鍵になりそうだ。

取材・文・撮影/山口健太