この1~2年でQRコードを使って決済する〝○○ペイ〟が急増している。いったいどのサービスを使えばいいのか、混乱している人も多いことだろう。

それはサービスの導入を考えている店舗も同じこと。そんなユーザーや店舗の混乱を踏まえて、キャッシュレス推進協議会がバーコードやQRコードによる決済(以下、コード決済)の統一仕様を策定した。

現在は各サービス会社が独自の仕様でサービスを行っているが、それを共通化しようというのだ。その仕様に準拠したコード決済の名称は「JPQR」という。いったいどういうものなのか、キャッシュレス推進協議会の福田好郎氏に聞いた。


「JPQR」のロゴマーク。

なぜ〝○○ペイ〟は次々と登場したのか?

「JPQR」の話をする前に、キャッシュレス推進協議会について説明しておこう。キャッシュレス推進協議会は日本のキャッシュレス化を推進することを目的に、2018年7月に設立された産学官連携組織。経済産業省を中心に銀行、クレジットカード会社、小売業などの法人が215社、全国銀行協会などの団体が50団体、岩手県や長野県などの自治体が65団体など、現在334の会員を率いる組織だ(2019年6月16日時点)。

昨年度はQRコード決済の標準化について活動。今年度は自動サービス機や自治体、医療機関などへの普及促進、決済データの利活用に向けた環境の整備など、9つのテーマにおいて検討し、キャッシュレス化の普及に務める。

このような組織があるのに、なぜ〝○○ペイ〟がたくさん出てきてしまったのだろう?それについて福田氏は次のように語る。

「元々、政府の施策をまとめた2017年の『未来投資戦略』で、日本の約20%のキャッシュレス比率を40%まで引き上げることが掲げられました。その指針として、経済産業省が2018年4月に『キャッシュレス・ビジョン』を公表。その中で推進母体を作ろうと、2018年7月に設立されたのがキャッシュレス推進協議会です。

最近は技術の進展もあり、法規制や各種レギュレーションよりも先にサービスが始まってしまう傾向があり、コード決済においてもそのパターンでした。特にコード決済業界は様々な業種の方々が参入し、かつ、業界団体も存在しないということもあり、明確な平仄をとらずに、サービス各社がそれぞれ独自の方式で進めてきたというのが現状です」


キャッシュレス推進協議会 事務局長 常務理事 福田好郎(ふくだ・よしお)氏。国家公務員、野村総合研究所を経て、2007年にNTTデータ経営研究所入社。コンサルタントとして活躍し、2018年から現職。

「JPQR」として仕様を統一するための難しさ

各サービス事業者によって様々な〝○○ペイ〟が登場し、複雑化したため、そこをシンプルにするために、統一仕様の「JPQR」が登場。だがひと口に仕様を統一すると言っても、そんなに簡単なものではない。

まずコード決済には利用者がQRコードを提示して、店舗側のコードリーダーに読み取ってもらう「利用者提示型」と、店舗のQRコードをユーザーが読み取る「店舗提示型」の2パターンがある。

左が利用者提示型、右が店舗提示型だ。

まずコンビニなどに多い利用者提示型では、最初の8桁の数字でどのサービス事業者か識別できるよう、協議会が各事業者専用の番号を振り分け。そして小規模店舗や個人店に多い店舗提示型では、各サービス事業者共通のお店の番号の情報が入ったQRコードを作成し、どのサービスのアプリで読み取っても、店舗が特定できるようにした。

利用者提示型のバーコードは最初の8桁の番号を事業者ごとに振り分ける。

利用者提示型ではこれまで客の申告や、最初の2桁、全体の桁数などから、おそらく○○ペイだろうと判別され、操作されていたそうだが、ちゃんと事業者が識別できる番号になったことで、従業員の操作がスムーズに。そして店舗提示型では、サービス事業者ごとに必要だったQRコードを、1つで全てまかなえるようになった。

従来の仕様から、「JPQR」の統一仕様に切り替えるタイミングは、2019年8月1日(木)午前0時が目標として定められている。これに合わせ、8月1日から9ヵ月間、岩手、長野、和歌山、福岡の4県全域で、「JPQR」の実証実験も行われる。参加するサービス事業者は以下の9つ。

「d払い」(NTTドコモ)/「au PAY」(KDDI)/「PayPay」(PayPay)/「LINE Pay」(LINE Pay)/「merpay」(メルペイ)/「Origami Pay」(Origami)/「J-Coin Pay」(みずほ銀行)/「ゆうちょPay」(ゆうちょ銀行)/「YOKA!Pay」(福岡銀行)

「小規模店舗を含めた広範な普及を図るために、どうしたら導入が進むのかを含めて検証する実証実験です。現状、複数サービスを利用したい場合、その社数分の契約が必要です。できれば、1回の申し込みで、複数のサービスでも使えるようにしたいのですが、今のところ個別の契約がそれぞれ発生することになっています。それは決済サービス事業者のフリーライドを防ぐためという観点もあります。

ただ、できるだけ負担を少なくするため、契約書の約款を標準化することも考えています。各社、手数料や利用料金の振り込みタイミング、データの利活用の話やクーポンを出すなどのオプションもあるため、全く同じにすることはできないのですが、10項目あれば最初の7つくらいは同じにできるよう動いています」と福田氏。

また、サービスの提供は各社の競争になるため、「JPQR」を利用するからといって、参加するサービス全てを利用できるわけではない。今回の実証実験も店舗側の要望によるので、1サービスだけのところもあれば、複数サービスを導入するところもあるなど、様々なのだそうだ。

「加盟店の開拓が一番コストがかかる部分。1社が開拓したら全社使えるようになると、どこも店舗の開拓をしなくなります。そこは各サービスの競争なので、『JPQR』と書いていても、利用できるサービスは異なります。QRコードのスタンドは、『JPQR』の文字と店舗のQRコードがあり、その周囲に利用できるサービスの名前が書いてあるようなイメージです。

今、どのように表示すればいいかを、各事業者と話しているところ。店舗によって利用できるサービスが異なるので、各サービスの表示をシールで貼るスタイルにするのが良いのですが、シールだとはがれる場合もあります。最初に加盟したサービスは印刷で、追加の分はシールにするなど、どこまでを印刷にし、どこまでを追加にするのかを検討中です。

ただ店舗がサービスをやめることもあるので、その時にはどうするのかなど、まだまだ決めなければいけないことは山積みです」

「JPQR」以外のマルチQRコード化も進む

そうやって「JPQR」が進む一方で、同様に複数のサービスが利用できるマルチQRコード「クラウドペイ」を、デジタルガレージが提供。ドコモの「d払い」はこちらにも対応し、6月末からサービス開始。「merpay」や「LINE Pay」も順次対応する。


「クラウドペイ」の店頭設置用QRコードスタンドのイメージ。
「JPQR」もこのようなスタイルになると思われる。

「JPQR」をはじめ、このようなマルチQRコードの登場で、利用できるサービスは分かりやすくなるのではないかと思われる。コード決済は7月1日にセブン-イレブンの「7pay」、同じ7月にファミリーマートの「ファミペイ」も登場するなど、この後もまだまだ増える。

ただ、「LINE Pay」と「merpay」、「au PAY」と「楽天ペイ」が業務提携するなど、サービス事業者が協業する動きも出てきているので、今後、どのような動きがあるのか目が離せない。

取材・文:綿谷禎子