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2020年に小学校で義務教育化されるなど、プログラミング学習に注目が集まっている。では、我々ビジネスパーソンは、キャリアを築いていくうえで、どのような形でプログラミングを生かしていけばよいのだろうか?
今回その問いをぶつけたのは、国内外で約80万人以上のユーザーを抱える国内最大級のオンラインプログラミング学習サービスProgate代表の加藤 將倫氏。加藤氏は、「Forbes 30 Under 30 JAPAN (次代を担う30才未満の30人)にも選ばれた、注目のビジネスパーソンだ。キャリアのなかでプログラミングを学ぶ意義や、海外のプログラミング学習市場についてお伺いする。
“初心者から創れる人を生み出す”世界を目指す
——Progateのサービス概要について、教えてください。
加藤:初心者向けのオンラインプログラミング学習サービスです。「初心者から、創れる人を生み出す」を理念に、世界一わかりやすいプログラミング教材を世界中に届けることを目指しています。
サービスのフローとしてはイラスト中心のスライドでプログラミングを学び、実際にコードを書いてみる、という流れになります。ブラウザ上で、コードを書いて結果を確認できるので、すぐにプログラミングを実践することができるのが特徴です。
学べる内容としては、HTMLなど、ウェブのプログラミングで使われる言語が多いです。もちろん、Javaなど汎用的に使われる言語も扱っています。
——ユーザー層はどのあたりになりますか。
加藤:一番多いのは、20代30代の人たちで、最近は10代も増えてきています。
会社員でプログラミングの経験があまりなく、そこから自分で学んで仕事にしてみたいと思っている人や、フリーランスエンジニアとして働いてみたいと思っている人、自分でサービスを作れるようになって起業したいと思っている人など、多種多様なユーザーに利用していただけています。
——加藤さん自身がプログラミングを始めたきっかけについて教えてください。
加藤:大学の専攻がきっかけです。なんとなく、自分の成績で行けるところを探していて、「プログラミングおもしろそうだな」…という感じですね。
アルゴリズムを作るのに、パズルを解くようなおもしろさがありました。自分でアプリを設計している学生が周囲にいたり、母がコンピューターサイエンスの専攻だったりしたというのも大きいかもしれません。
——プログラミングを学ぶ立場から、どういったきっかけで、プログラミング学習で起業しようと思われたのでしょうか?
加藤:自分のプログラミング学習での“苦しみ”がきっかけです。僕もすんなりプログラミングを身につけられたわけではなくて、昔からプログラミングに取り組んでいた周囲の学生に比べてできなかった。独学しようとしてもあまり上手くいかず、一緒に勉強していた仲間たちと一緒に苦しんでいたんです。そんな中、分かりやすい教え方をしてくれる人に出会って、なんとか身につけられるようになりました。
それがきっかけで挫折してしまった仲間たちにも教えられたらいいなと思ってProgateを作り始めました。自分が体験したように、挫折してしまいそうになったときに、道筋を示すことで壁を突破できるようなサービスを提供できたらいいなと。その考え方は、ずっと大切にしていますね。
——加藤さんご自身は、プログラミングを学んで、変化はありましたか。
加藤:価値観が変わりましたね。まず自信がつきます。一通りできるようにならないとそこまでにはならないと思うんですが、「自分でこんなに作れるようになるんだ」という実感を得ることができました。プログラミングを学ぶ前は、Webサービスを作っている人は、ギークで天才的な人なのかと思っていたのが、「意外と僕にもできるんだ」と思って自信がつきました。
プログラミングをできるようになることで、やりたいことが増えるんですよ。「この課題を、あれを作って解決できるかもしれない」という判断ができるようになるんですよね。まさに“自分の可能性が広がっている”という感覚かもしれません。
サービスを通して僕のように、プログラミングの楽しさを理解でき、自分たちで調べて作れるようになる人を増やしていきたいですね。
——プログラミングとは縁の遠い職種の人もいるかと思います。そういう人たちも学んだ方がよいですか。
加藤:職種なんて関係ないと思います。弊社も、コンピューターサイエンスをバリバリ学びましたという人はそんなにいなくて、どちらかというとコツコツと学んでできるようになった人が多くて。Progateはそういう人たちに役立てるサービスなのではないかと思っています。
「テクノロジーがちょっと怖いな」と感じている人は、少しでも触れることで変わるのかなと思います。
「何から学べばよいか分からない」世界共通の問題を解決する
——Progateは海外展開もされているとのことですが、事業内容について教えていただけますか。
加藤:海外には2017年末から展開しています。ウェブのサービスなので、全世界にユーザーは散らばっていますね。メインの国としては10カ国程度です。東南アジアやインドのほか、長期的にはアフリカの市場を狙っています。
最初に挑戦した海外市場はインドです。海外ユーザーにサービスを紹介したところ、インドのユーザーの人が多く利用してくれて。そこからまずは、インド市場からチャレンジしようと思いました。
——そもそも海外展開へ挑戦しようと思った理由は?
加藤:プログラミングは言葉の壁がない、ユニバーサルなものですよね。年齢も性別も国籍も関係ない。僕らはプログラミングを一人でも多くの人に広げたいと思っているので、国籍も関係なく届けたい、というのが海外挑戦の背景です。
僕も含めて海外のバックグラウンドを持っている人が多い会社でもあるので、そうした強みを生かして「一人一人のユーザーの可能性を広げる」というビジョンを実現するためにも、最適な場が海外だったんだと思います。
——国によってニーズは違うのでしょうか。
加藤:例えばインドだと、よりキャリア志向が強い傾向にあります。ITの仕事が他の業種と比べて給料がいいというのもあり、「プログラミングを学んで職に結びつけたい」というニーズがあるように感じています。
僕の場合は創作意欲で学んでいたんですけれども、そういうものばかりではない。特にインドはキャリア志向の人が多いので、どう学びを提供するかが難しいです。
——難しさとは?
加藤:必要な学びを理解してもらうのが難しいですね。例えば、「機械学習」や「AI」などバズワードが流行したら、そちらの方面を学びたがる…などの傾向があります。
でも、実はWebの言語を学んだ方が、現地企業の求人ニーズとしては高い。情報に振り回されてしまうこともあるので、しっかりとした情報を伝えて、最適なコンテンツを用意していきたいと思います。
プログラミングは、「何から学んだらいいのかわからない」など、学ぶ人が抱えている課題は似ているので、そこを導いてあげる。市場の違いに配慮しつつ、「分かりやすく伝える」という、サービスの根幹はぶれないでいきたいですね。
海外など自分たちの土壌ではないところで、バズワードを打ち出すなど小手先で勝負しても、ユーザーのためにはならない。需要のあるサービスだったら、自然にスケールしていくと思うんですよね。日本でも海外でも、成功体験を得た人たちが広げてくれるというサイクルが、一番いいんだろうなと思います。
プログラミングは教養に。触れないことで可能性が狭まってしまう
——世界に出たことで、改めて日本ユーザーの特徴を感じますか。
加藤:今の日本では、「一般の人もプログラミングを学ぼう」という空気感が生まれてきていますよね。こうした市場は世界的に稀有だと思います。未経験者がプログラミングを学んでエンジニア就職という事例も、世界のなかでも珍しいです。
日本はプログラミングへの意識が進んでいる市場だとと感じています。スタートアップの人たちも未経験者のエンジニアを受け入れる土壌ができている。プログラミングはコンピューターサイエンス専攻の人がやるものだという意識が強い市場はたくさんあります。
——日本でここまでユーザーが増えた理由はあるのでしょうか?
加藤:日本のSNSの拡散力が要因だと思います。日本では、プログラミング学習者のコミュニティがツイッター上でできているのが特徴的ですね。他の国には、ツイッターほど拡散力のあるプラットフォームがあまり流行していないんです。リツイートなどで広がるわけではないので、拡散が難しいですね。ユーザーがProgateで学んで作った作品をユーザーがツイッターやnoteでシェアしてくれています。ぜひ覗いてみてください。
——最後に、改めてプログラミング学習の価値を教えてください。
加藤:人の可能性を広げるには、プログラミングはすごくいいツールです。今の世の中、テクノロジーで変わっているなかで、そのその知見が少しでもあることで、物事の捉え方が変わってくると思います。
僕も、プログラミングがなかったら起業していないと思うんですよね。プログラミングを多くの人に届けて行く手段として、起業を選びました。ガツガツしていなかった僕でも、プログラミングを学ぶことで、いろんな方面に方向性が広がったんです。全員が僕のようになる必要はないんですけれども、やって損はないと思います。
それに、選択肢が広がる度合いも広がると思います。日本でもプログラミングが義務教育化されて、時代もテクノロジーといわれているなかで、触れないことで可能性を狭めてしまう可能性が大きくなってしまうと感じます。理系で数学が得意じゃなくても意外とできるものなので、とりあえず触れてみる、というのはいかがでしょうか。教養に近いものになると思います。
取材・文/吉田瞳
写真/西村克也