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近年、複数の仕事や活動を掛け持ちする「スラッシュキャリア」という考え方・働き方が、ミレニアル世代を中心に広まりつつある。政府が副業を推進し、大企業の安定性も疑問視される中、新しい労働のあり方に挑戦する若い世代が増えてきた。
だが一方で、「やりたいことが分からない」「夢や目標よりもとりあえず安定したい」といった若い世代の声もある。終身雇用制度が崩壊し、低金利の時代で、私たちはどのようにしてキャリアを積み上げていけばいいのだろうか。
今回は、Web・アプリマーケティングプラットフォームを運営する、Repro株式会社代表の平田祐介(ひらた・ゆうすけ)氏に、ミレニアル世代のキャリアの築き方についてお話を伺った。
- 平田祐介
- Repro株式会社 代表取締役
1980年、東京都生まれ。戦略コンサルタント出身のシリアルアントレプレナー。
大手コンサルティングファームに入社後、主にメーカーに対して経営戦略立案支援や成長支援業務に従事。2011年から複数の事業の立ち上げに関与したのち、2014年にReproを創業。世界59ヶ国6,000以上のサービスに導入されているモバイルアプリ・Webマーケティングプラットフォーム「Repro」の開発・提供を行っている。
自分の人生の方向性を仮でも良いから決める
――本日はよろしくお願いします。本日は「ミレニアル世代のキャリア」というテーマについてお伺いできればと思っているのですが、平田さんの学生時代はどのような学生でしたか?
平田:高校受験の際、どうしても入りたい学校がありました。自分でも信じられないほど勉強したんですけれど、志望していた学校に合格できなかったんです。その時に、自分には勉強の才能は無いなと思って。結局大学受験のない慶応高校に進学しました。
高校に入る時に決めたことが二つあって、一つ目は中学時代とは逆にベクトルを振って、死ぬほど遊んでやるということ。二つ目は、自分の人生の方向性を仮でも良いから決めるということ。自分の50歳とか60歳のイメージを作ろうと決めて入学しました。
高校2年生の17歳の時にアルバイトでためた50万円を使ってヨーロッパ旅行に行きました。そこで気付けたのは、自分は行ったこともない土地に足を踏み入れることに、最大の快楽を感じるということでした。
毎日旅行日記を書きながら自分の人生について考えていたのですが、また新しくその快感を上回るものが出てくるまでは、僕の人生の大きな目標は「世界で行ったことの無い場所を無くす人生を歩もう」というふうに決めました。この目標を決めた瞬間に、自分の中でサラリーマンを勤め上げるという人生の選択肢が消えました。
その理由は、当時週刊誌などで取り上げられていた人気企業の生涯年収ランキングで、1位が6億数千万とかで、サラリーマンでもそんなに稼げる会社あるのかと思ったのですが、自分が17歳で決めた目標を達成するには、定年後から始めたらきっと未達で人生が終わるだろうなという直感があったからです。
もし本当にそういうことをやりたいと思ったら、金銭的・時間的余裕が必要だと思ったので、定年まで勤め上げる人生はやめて、起業家になるしかないなと決めました
――大学時代にはもうビジネスを立ち上げていたとか。
平田:そうですね。当時海外で人気だったバンドのグッズをインターネットで転売して、そのビジネスだけで1,000万円くらい貯金をしたり、その半分をFX投資で6倍にしたりしていました。ビジネスをやっていく上で経験したほうがいいだろうなということは、チャンスをいただけたら何でもやっていましたね。
ただ、大学を卒業したタイミングで普通の人と同じ人生を歩みたくないというのがめちゃくちゃ強くて、いわゆるみんなでリクルートスーツを着て、集団説明会に行くような人間はカッコ悪いと思っていたので就職活動はしませんでした。当時はビジネスで稼いだお金もあったので、変な自信があったんです。
2度の事業失敗からのラストチャンス
――でも、そこからサラリーマンに。
平田:はい。大学を卒業してから2年間くらいは行きたいところへ行こうと思って、海外をプラプラしていました。でもある時、たまたま大学の同期と飲みに行ったら、大学時代に目立たなかったやつが社会人になってめちゃくちゃ志高いことを言っていたり、自分よりも圧倒的に上にいるやつがいたりして、悔しいな、やばいなと思ったことがありました。
それで人生の師匠みたいな先輩たちに相談したら、「お前調子乗ってるんじゃねーよ」とすごく怒られて。「お前なんかビジネスの世界では雑魚だからな」なんて言われて、衝撃を受けたのを覚えてますね。
僕自身、短い時間で圧倒的に成長したいという意欲があったので、その環境は何がいいかと先輩に聞いたらコンサルの戦略部門がいいんじゃないかと助言をいただきましたね。それを真に受け入社試験を受けたら、ある会社が拾ってくれました。
そしたら、先輩たちに言われていた通り入社初日に速攻で天狗の鼻をへし折られて、毎日マウント取られてボコボコにやられて、自分の人生でビジネスマンとして最下位だなというところまで自信も落ちました。
そこからは5年かけて自信も付けて、ようやく社会でも通用する最低限の素地はできたな、というのが大体28歳ごろ。
自信が付いたら起業しようと元々思っていたので、1度目の起業をしたのですが結論から言うと失敗しました。そして2度目の起業も失敗し、3度目の挑戦をするか正直なところすごく悩みましたね。
その時にはもう子どももいましたし、コンサル時代に1,000万くらいもらっていた給料が急に、10万、15万の世界になるわけです。貯金の切り崩しで家庭は何とかなっていましたが、いい加減お金も底をつきそうで…。
でも3度目の起業をなぜ決意できたのかと言うと、もし今サラリーマンの人生に戻ったら、自分が17歳の時に決めた人生の目標を全て失う恐怖感がすごくあって、平均的な人生を歩むレールに僕は行くのかという恐怖にとにかくあらがいたかったので、家族とかも含めて説得して、「ラストチャンスをくれ」という感じで始めたのが、Reproの創業です。
中長期的な目標を設定することの大切さ
――ご自身のキャリアを振り返って、思うところや、後輩へのアドバイスはありますか。
平田:大学卒業後に2年間プラプラしていたのは、やめておけばよかったと思いますね。自分もやっていた分際で言うのもあれですが、自分探しという名の、何も決めないで帰ってくるパターンがほとんど。結局、“言い訳”ですね。
逆におすすめは何かと言うと、自分の中長期的な目標を設定することだと思っていて。そういうのはミレニアル世代の人の考え方には合わないかもしれないですし、めちゃくちゃ優秀なビジネスマンでも設定していないケースがよくあります。
中長期的な目標さえ決まっていれば、船で航海していて、何かのセンサーが壊れた時でも、太陽が出ている方向は東だからそっちに進んでいればおおかた目的地には到着するだろうというのと一緒で、短期的なミスなんて人間なんだから絶対に起こすし、ミスをして後悔があったほうが学びはあると思うので、僕はなんだってやった方がいいと思ってる派ですね。
来年の価値観は今日の価値観と変わっているかもしれませんよね。だったら別に目標を途中で変更してもよくて、若い人やうちの社員にはいつも「ライトに決めればいいじゃん」って言ってます。
またこれは個人的な意見ですが、自分の目標を変えるときは、上方修正だけにしておいた方が自分の人生のためになると思っています。
僕は17歳の時に、自分が幸せになることだけを考えた人生の目標を立てました。でも、17歳のころに決めたことなんて、今やろうと思ったらできるんですよね。
あれからいろいろな経験をして、いまReproの社長として何ができるかを考えたら、いち日本のベンチャー企業がちゃんと外貨を獲得する、ということをやる必要があるなと、目標を上方修正しました。
日本のソフトウェア会社が外貨を取っているケースはほとんどないので、どんなに小さくてもいいから僕らのビジネスでシェアを取ると。
そうやって、自分の行動フェーズによって目標を都度修正していってもいいと思います。
イメージの解像度をいかに上げるかの作業が重要
――人生の目標を決めるには、どのように考えたらいいですか?
平田:イメージをすることだと思います。どういう死に方をしたいかでもいいですし、70歳の時に鎌倉に住んでいて〜、といったように目標イメージの解像度をいかに上げるかの作業が重要だと思っています。
自分の中のフィクション小説を書くんです。それがだんだんノンフィクションに近づいていく、みたいなことかなと僕は思っています。
海の見える家に住みたいとか、死ぬまでにマチュピチュに行ってみたいとか、みんな少なからずそういった願望を持っていると思うので、もしやりたいことがあるならいったんそういうことを目標に立ててみる。
そのあとの解像度を上げる作業は、期限を決めるとか細かい設定だけなので、例えば45歳までにはこの地点まで目標達成すると仮で決めるんです。それができたら、あとは上方修正する、この繰り返しです。
まずは達成できそうな目標から決めてしまうことが近道ですね。
若い人たちには夢や希望を持って欲しい
――なるほど。一方で好きなことがなかなか見つからないという若い世代も多いと聞きます。
平田:確かに、僕が小中高の時に比べて、今の小中高生の“目は輝いてないな”って感覚的に感じた時期がありました。
うちに入ってくるインターンとのコミュニケーションの中で、だんだん理解できてきたこともあります。
例えば、先日、慶應大学に入ったものの履修も決めてないのにReproのインターンに申し込んでくる学生がいました。クレイジーだなと思って「どうした?どうした?」って(笑)。
「とりあえず履修を決めた方がいいんじゃないの?」と聞いてみたら、彼は、「大学なんて誰でも卒業できるじゃないですか。僕が聞きたいのは、Reproに入ったら社会で生き残る経験ができるんですか、そこだけが大事です」と。
面白いやつだなと思ったので、「人生の目標とか夢はある?」と聞いたら即答で、「ぶっちゃけ無いです。ただそれができた時にチャンスをつかめる実力をReproで付けたいんです」と答えてくれました。
彼と話した後に、他のインターンに質問してみても、夢とか目標が無い人のほうがむしろ普通で、「何でなのかな?」っていう疑問を飲み会とかで探っていたら、そりゃそうだと腹落ちしましたね。
つまり、僕の世代が小さい頃って日系の企業が超キラキラしてたんです。昔のソニーは、今のアップルと同じくらいの世界的な評価でした。
グローバルでめちゃくちゃ評価されてる会社が日本にはある! キラキラしてる先輩のところで早く一緒に働きたい! みたいな憧れが昔はあったんですよ。僕は自分の卒業文集に、ソニーの社長になるとか書いちゃったタイプだったんですけど、それくらい社会に出ることにワクワクしていたんです。
でも今のミレニアル世代の人たちはかなりギャップがあって、そろそろ就活だからと日経新聞とか読んでも、これまで絶対安定だと言われてきた日系の大企業のネガティブなニュースがバンバン発信されているのを毎日のように目にするわけです。
そんな体験をしていたら、夢とか目標とかを語るよりも、自分を守らなきゃっていう防衛本能が働いてしまうのは当然ですよね。
そこは僕ら世代との圧倒的な違いです。だからこそ、若い人たちには夢や希望を持ってほしいし、自分が一起業家としてやらなきゃいけないのは、超スモールでもいいから世界でちゃんと戦っているベンチャー企業の姿まで持っていかないとダメだなと思いますね。小さな子たちの目がキラキラしていない国って最悪だと思っているので。
今、僕には3人の子どもがいるので、その当事者意識は本当に持っていて、いまのインターンの若い人たちが思っているようなことは思ってほしくありません。そのためには、中途半端なイグジットを融通し合うような会社からは一線を画して、自分らはここまで行くって決めて、グローバルシェアナンバーワンをこの市場で取る、というのはずっとうちの社員に言い続けています。
自分の人生に納得するために、やりたいことを全部やる
――先ほど、社会で生き残るために経験を積むという話が出ましたが、後輩や若い世代に起業してもらいたいと思いますか?
平田:前提として、やりたいことをやってもらいたいですね。それが絶対に起業というのは、全く無いと思っていて。時代背景や環境も整ってきて、今フリーランスがすごい増えているじゃないですか。
優秀な人ほど、まず第1フェーズでフリーランスになるんですが、3年ほどたってその人たちが何をやっているかというと、またスタートアップに入り直したり、大企業とかに入ったりしているんです。
なぜこのようなことが起きているかと言うと、フリーランスになると自分の経験を切り売りするような仕事の仕方が多くなってきます。
そうなると、今まで以上に簡単に貯金はたまるけど、仕事のやりがいや面白みが無くなっていく感覚がフリーランス時代の僕にはありました。結局、大きな仕事をやるためには、チームや組織が必要ということを知ったわけです。
それでもう1回、自分の人生を納得するために、やりたいことを全部やろうと。
だから起業したいと思ったやつは起業して、間違ったと思ったら、また戻ってくるという感じでいいと思います。でも、何もやらないというのは、やめてほしいというメッセージはあります。
目指しているゴールさえ決めていれば、短期的にずれてしまったとしても、目線だけあっていればすぐに戻ってこれますから。
起業絶対、フリーランス絶対、大企業に所属するのはダメみたいな、世の中にある意見は全部否定して、全部正解だと僕自身は思っているので。
ただ、若い人にはずっと同じことばかりをするのではなく、どんどん挑戦していってほしいなと思いますね。
自分が作った羅針盤(仮説)に頼り、意思決定する
――これから就職をしようと思っている人に、何かメッセージはありますか?
平田:自分が最初に就職する会社に入る目的を設定しているか、していないかというのは超重要なので、設定してくださいと伝えたいですね。要するにイメージをすることです。
自分の人生って、全部意思決定の連続だと思うのですが、先のゴールから逆算した時に整合性なり、自分なりの理由づけが無いというのは、それは入るべきじゃないと思いますし、仮説を立てるべきだと思いますね。
最初の会社で得ようとしているものは何なのか?という仮説を自分で作ってみてください。僕は、会社を半年で辞める人を根性がないな、とは思わないです。仮説検証をした場合は。
半年でうまく見極められたら、早めに辞めるのが絶対に賢いので。ただ、仮説を持っていなくて辞めている人は面談の時に僕は見抜いてしまうので、そこが大きな違いです。
仮説を作ると言っても大げさなことではなくて、自分に言い訳を作らないために、何故その会社を選んだのか?何年働こうと思っているのか?何を得たいのか?といったことを、紙でもドロップボックスのファイルでも何でもいいから決めた上で選んで、会社に入った方が絶対に良いですね。
もしその時入った会社が自分の目標を達成できる環境ではないと分かった時に、だまされたと思うのではなく、自分が作った羅針盤(仮説)を頼って意思決定をして次の行動をしていけば、夢や目標に少しずつ近づいていくんじゃないかと思います。
取材・文:花岡カヲル
写真:西村克也