きれいな飲料水の入手は年々難しくなっている。人口増による水需要の増加に加え、農業・畜産業での水利用増加、洪水・干ばつによる水汚染など、きれいな飲料水の入手を困難にする要因が数多くあるからだ。

米国地質調査所によると、2050年頃には世界中で50億人が水不足の影響を受けるという。

きれいな飲料水が不足するのは未来の話ではなく、いま現在進行している問題であり、将来にかけて一層深刻化していく。新興国だけでなくインフラが整った欧米諸国でも水不足の影響は避けられない状況だ。

2018年3月頃、南アフリカ・ケープタウンでは数年前から続く干ばつにより水不足が深刻化し、同市の水が枯渇してしまう「ゼロ・デイ」が到来する可能性が高まったとし、市民は1日あたり1人50リットルの水利用制限が課せられた。

一方、米国では一部のコミュニティで利用されている水インフラが健康基準を満たしていないことが判明。約2,100万人がそれらの水インフラを利用しているという。

南アフリカ・ケープタウンの水不足のなか給水所に集まる市民(2018年1月)

起業国家イスラエルで誕生した注目の水テック企業「Watergen」

この先水不足がさらに深刻化することが見込まれるなか、国際機関、各国政府、企業、市民による持続可能な水利用を推進する動きが活発化している。限りある水資源を節約し、水不足問題を緩和しようとする試みだ。

一方、空気から水をつくってしまおうという発想で、水不足問題に取り組む企業が存在する。イスラエル発のスタートアップ「Watergen」だ。

もともとは軍での利用を想定して開発された技術だが、近年の水不足問題を受け、民間での利用を促進している。

どのように空気から水をつくりだすのか。Watergenの技術は、まず空気を数回フィルターにかけ、ホコリなどの不純物を取り除き、きれいになった空気を冷却し、空気中の水分を抽出するというもの。

装置はサイズがいくつかあり、大型のものでは重量2.6トンで1日5,000リットルの水をつくることができる。中型サイズは重さ約800キロで、1日に生産できる水は900リットル。

現在、家に設置できる小型タイプを開発中。1日27リットルの水をつくることが可能だ。

Watergenの大型水生産装置(Watergenウェブサイトより)

Watergenの水生産装置は、災害現場での給水や水不足に悩む新興国などに設置され、水不足問題の緩和に貢献している。

米国では2017年、ハリケーン「ハービー」と「イルマ」が直撃したテキサスとフロリダの避難所にWatergenの水生産装置が設置され、多くの被災者に水を供給した。

ベトナム・ハノイでは2台のWatergen中型装置が設置され、水不足で悩む同市の切り札として期待が寄せられている。人口750万人のハノイ市だが、同市の水の80%は地下から汲み上げられたもの。しかし、ハノイ市の地下水はアンモニア濃度が安全とされる基準の10倍高いといわれており、市民の健康状態の悪化が懸念されている。

Watergenの中型水生産装置(Watergenウェブサイトより

また、2019年2月にはブラジルの政府高官がイスラエルのWatergen本社を訪れ、ブラジルにおける水不足問題の解決に向けた議論を実施。議論の末、ブラジルに10台の中型装置が設置されることが決まった。

Watergenは、2019年1月に米国で開催された世界最大規模の家電見本市CESで同社の水生産装置を出展。最新の小型装置は「Tech for The Better World」部門で、ベストイノベーション賞を受賞し、一層の注目を集める結果となった。

空気から水をつくりだすWatergenの技術は水不足問題をどこまで緩和できるのか。その動向に世界中から熱い視線が注がれる。